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ラノベ ある勇者の悩み事(5)

 俺はアイツを避けて、建物の裏側から広場へと回った。アイツは気付かずに去って行った。同時に罪悪感も湧いた。
 アイツは未だに俺の事を好きでいてくれているかもしれないのに…。あぁ、俺かっこわる…。
 俺達は気づかれない様に、村の出口を目指して走った。よし、もうすぐそこだ…と思ったその時だった。
「…よぉ、ガロシュカ。久しぶりだな」
急に呼び止められて振り返って、俺はそこにハリオルが立っているのを見た。
 汗が吹き出して止まらない…。
「やぁ…奇遇だなぁ…」
鋭い眼光が俺を睨みつけた。俺はデメレスに目を向けて、助けを求めた。しかし、首を振って拒否しやがった。今度はユヌマル…と思ったが、ハリオルに聞こえないぐらいの小さな声で、「終わったら教えてくれ」と。
 なんて薄情なんだ、と俺は叫びたくなったが、その気持ちを心に仕舞い込んだ。
 ハリオルは続ける。
「おい、何があったかは知らないけどよ、お前の周りに居るのはなんだ?」
ユヌマルとデメレスはどきりとした。ハリオルの鋭い眼に見つめられれば皆、足がすくんで動けなくなる。
 デメレスは口を開けた。
「…あの、僕はデメレス・ロンケストって言います…。最近、冒険者になったばかりで、彼に助けていただいたんです」
声があからさまに震えていた。ハリオルはデメレスを凝視して言った。
「え、あんた…男なのか?」
 俺とユヌマルとデメレスはキョトンとした。
「…まさか、気づかなかったのか?」
「…いや、どう見ても女にしか見えないぞ?」
ハリオルはどうやら、デメレスを女だと思っていたようだった。
 そしてまた鋭い眼つきに戻って、「じゃあ、そのお前の頭の上に乗った雑魚モンスターは何なんだよ?」と言った。また汗が吹き出し始めた。今度ばかりは、言い訳が出来ない。
「おい、雑魚とはなんだっ!おれ様は、希少モンスター、グリフトラムだぞ!?」ユヌマルはキレ気味に叫んだ。
 ハリオルは目を大きく見開いた。
「モンスターが、言葉を喋ってるだと…!?」

 私が村の広場沿いを歩いていると、南の方からなにやら大声が聞こえてきました。
「…おい、雑魚とはなんだっ!おれ様は、希少モンスター、グリフトラムだぞ…!?」
 モンスター…?グリフトラム…?私は村にモンスターが湧いたのかもしれないと思い、その方角へ向かって走り出しました。村の人々の安全が第一だと思って。

 ハリオルは未だ、信じられないという眼で俺達を見つめていた。いきなり、意味の分からない理由でパーティーから逃亡した俺、女のようなか弱い容姿をした新米冒険者、そして人間の言葉を話すモンスター…ときた。そうなるのも仕方ない程の、個性が強いメンツだった。
 ハリオルは俺の目を見た。
「…ところで、何で逃げ出した?お前、前日の夜は楽しく晩飯食ってたろ?それに別に、他の奴とかと仲が悪かった訳でもないだろ?…ソルトマロンも心配してたぞ?」
俺は言葉に詰まってしまった。ありのままを話すべきか、それとも…適当に嘘を並べてごまかすべきなのか…俺は頭を抱えた。
 その時だった。向こうの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「…ガロちゃん!今まで何処に行ってたの!?」
ソルトマロンだった。俺が今、一番会いたくない相手。
 俺は昔から、アイツと過ごしてきた訳だが、アイツはとにかく嫉妬深い。最初の頃は、そりゃあまだ可愛いものだった。しかし、ソルトマロンが十五の時、俺が村長の娘と話していると、無理矢理俺を連れ出して、「私以外の女の子と話さないでくれる…?私にはガロちゃんしかいないから…」とハイライトの消えた目で言われた事があった(婚約まがいのことをした俺にも責任はあるが)。ソルトマロンは魔法が出来て、容姿も端麗。そこさえ無ければ、非の打ち所がない立派な女性になっていただろう。
 実際、アイツは村の少年達から求婚されたりと、結構モテた。でも、全て断っていた。アイツは俺と家庭を築きたいと強く願っていた。しかし、どうして俺のようなあまり格好良くない男を選んだのか、そこが疑問だった。
 ソルトマロンは走ってきて俺に抱きついた。
「…会いたかった…」
ハリオルとユヌマルはニヤつきながら、俺にエールを送っていた。
 アイツは顔を上げて、俺の顔を見た。なんと泣いていた。どうやらとても心配していたらしい。ソルトマロンは、ちらりとデメレスを見た。
「…女…?ガロちゃん、私をお嫁さんにしてくれるって言ってたよね…?嘘だったの…?私を捨てるの…?」
さらに涙目になる。
 俺は慌てて説明した。
「おい、待ってくれ!この人は男だ。女みたいだけどな。ハリオルもさっき間違えてたぞ」 
「え、そうなの…?」
ソルトマロンの顔が明るくなる。俺は何とか、この場をやり過ごす事に成功したのだった。
 さてと、これから俺が逃走した理由をどう説明しようか…?俺は考えを巡らせた。
                  (続)

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