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摂食・嚥下チームアシスタントレポートVol.13 「姿勢と嚥下」〜基礎編〜 肩甲骨と胸郭のみかた

はじめに


 摂食嚥下チームアシスタントレポートにお越しいただき誠にありがとうございます。
前回は、食事姿勢である前傾座位になるための土台として、重心と床反力(Th7あたりと足首の関係性)をみながら骨盤と股関節の運動連鎖で腹圧を上げていく視点をお伝えしました。キーワードは「運動連鎖」「腹圧」でした。
今回は、肩甲骨と胸郭です。肩甲骨が動くことで、どのように胸郭が変化するか?重心と支持基底面の関係性とそれに伴う筋緊張の変化が起こるかをみていきましょう。そのために肩甲骨の触診から運動学、評価までをお伝えしています。

前回のレポートはこちら

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1.肩甲骨の解剖

肩甲骨の解剖

肩甲骨を触診する前に、肩甲骨の解剖を復習していきましょう。
肩甲骨の内側縁、外側縁をしっかりと触診できるようになることが大切です。
内側縁や肩甲棘の位置を実際に触診することで下角の位置(肩甲骨の向き)が把握しやすくなります。

2.肩甲骨と胸郭(胸椎)の運動学

肩甲骨と胸郭の運動学

肩甲骨が内転下制すると、胸椎は伸展、胸郭は後方回旋します。
肩甲骨が外転すると、胸椎は屈曲、胸郭は前方回旋します。

観察ポイント

なぜ、肩甲骨の運動連鎖をみるかというと・・・
嚥下障害のある方の中には円背姿勢の方が多いと思います。円背姿勢のように肩甲骨が外転していると胸椎が屈曲して胸郭は前方回旋します。その姿勢を続けると上肢は重く動かしづらく、胸筋や前胸部の柔軟性が低下します。また腹直筋が短縮してしまい、より円背姿勢を助長し抗重力筋が働きにくい状態になります。すると、姿勢を保持するため頸部を突出させるなどの代償が見られます。さらに嚥下に関わる筋肉が働きにくくなります。

3.実技の観察ポイント

・まずは嚥下評価をしっかりとしましょう。
視診で嚥下反射の挙上範囲や筋活動・代償、触診で左右差や筋緊張などをみていき、どの部位を対象にするのか仮説を立てます。
・姿勢の制御を見る時は姿勢筋緊張を評価します。
それらを常にベースに置きながら、部位別に治療を行っていきます。

観察ポイント2⃣

肩甲骨が動くことで、重心移動に対してどのように支持基底面から床反力がかえってきて、姿勢筋緊張が保持できるのか?を評価します。
肩甲骨を内転下制したとき外転したとき胸郭がどうなるのか、骨盤はどうなるのか。
肩甲骨を動かしたときの運動連鎖をみていきましょう。

4.実技内容

【実技1】
肩甲骨を持ちましょう

実技1

・対象者の後方正中から介入します。肩甲骨の解剖をイメージしながら、左右の肩甲骨の内側縁・外側縁をきちんと把持します。


内側縁:まずは姿勢から肩甲骨の位置を予測してから触診していきます。例えば、円背姿勢だと肩甲骨は外側に位置していることが目測できます。軽く、肩甲骨を触ると内側縁と下角の位置が把握できます。わかりにくい場合は肩甲棘を脊柱方向へ辿っていくと終点が内側縁です。
外側縁:下角から外側に辿っていきます。外側縁は広背筋等で覆われているため、脇の方から筋間を分けて持つと持ちやすいです。広背筋は体幹伸展筋でもあるため、広背筋を前から後方に向けて把持すると体幹が伸展しやすくなります。
・手が届かない場合は外側縁の方をしっかり持ちましょう。

【実技2】
両肩甲骨を外転、内転・下制させましょう

実技2

まず被験者の方に動いてもらって、動きについていく練習をします。
そのとき、重心移動と支持基底面の関係と姿勢筋緊張の変化を意識しながら、同時に胸郭や骨盤がどのように運動連鎖をするのかを見てみましょう。


ここでも動かすときは手で動かすのではなく、自分の肩甲骨と共に相手の肩甲骨を連動して動かすようにします。
・肩甲骨を誘導するイメージは胸郭の形に沿って肩甲骨を動かします。
・手は肩甲骨の面を捉え、橈屈・背屈位で広く添わせます。脇を開くと尺屈になるので脇は閉じます。


【実技3】
片側の肩甲骨を内転・下制、外転させましょう。片側からだと前面と後面の両方にアプローチができ、目的とする筋肉を動かしやすくなります。

実技3

実技3

側方から片手は大胸筋、もう一方は肩甲骨を把持します。この時、反対側の体幹が回旋しないように、セラピストの脚で骨盤を止めたり、脊柱軸を正中に保ったまま、肩甲骨を胸郭に沿って動かすイメージで誘導します。座位では難しい場合は側臥位にて行います。

【実技4】
肩甲骨を把持した状態で骨盤前後傾・左右への重心移動をしましょう

実技4

実技4.5

・支持基底面(坐骨)と上半身重心(TH7)を観察しながら、肩甲骨の動きに骨盤を動きを合わせて重心移動を行います。(*実技2の肩甲骨と骨盤の動きも参照)
・左右の坐骨に重心を移動させて筋緊張の変化を感じましょう。また立ち直り反応や代償も見ましょう!
このときも、手ではなく、セラピストの重心移動で誘導していきます。

まとめ

食事姿勢の崩れによる嚥下機能の低下には、いろいろな原因があります。今回は肩甲骨と胸郭・胸椎に注目してお話ししました。
肩甲骨が外転していると胸椎が前屈したり側屈します。すると、頭頚部は姿勢を保持するために頭部を突出させるなどの立ち直り反応が起こり、嚥下に関わる頸部の筋肉が役割を果たしづらくなります。
肩甲骨を内転下制することで、胸椎が伸展し胸郭は後方回旋します。姿勢が安定すると、頸部の位置が変わり嚥下関連筋が働きやすくなります。
最終的に初期評価時の嚥下が姿勢を変えた結果どのように変化するかが最も大切となります。そして患者様が一口でも多く食事を取れるよう、実際の食事場面を見る機会が増えると幸いです。PT OTST間の連携強化はもちろん病棟連携も大切ですね。

おわりに

 これからも解剖学や運動学、実技だけではなく、臨床で必要な思考過程も含めて共有させていただきます。同じ嚥下障害に悩む患者様を担当されているセラピストの皆さんに一人でも多く知っていただき、一緒に嚥下障害を治療していく仲間が増えることを私達摂食嚥下チーム一同願っております。
また一人でも多くの皆さんに知っていただけるよう、私達の活動を応援していただけると幸いです。今後も摂食・嚥下アシスタントレポートを宜しくお願い致します。

ごあんない

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