とんぐ侍

〽︎とんぐ　とんぐ　とんぐ侍ざむらい
　つかみどころのない侍さむらい

〽︎とんぐ　とんぐ　とんぐ侍ざむらい
　今日は何をつかもうか

〽︎とんぐ　とんぐ　とんぐ侍ざむらい
　明日あしたはでっかい夢つかむ



【韓流ドラマ好き過ぎるの巻】

とんぐ侍ざむらいは韓流ドラマが大好きである。
特に時代劇。
何度目の再放送だろうか、というドラマだって、とても丁寧に観ているのだ。
なんなら、同じドラマでも、
違う放送局で、
同日に、
進み方が何話分か前後していようが、先回りしても観るし、
復習のようにも観ている。

録画を観れば良いのでは…？
そう思ってしまうのも当然であるが、
とんぐ侍ざむらいが楽しむのは、
日本語吹き替えバージョンと、吹き替えなしの字幕バージョンなのである。
そろそろ韓国語のひとつや２つ話せても良い頃かもしれない。

「世子セジャ」
「殿下チョナー」
「尚宮サングン」
「内医院ネイウォン」

等々…。

よく観るドラマに出てくる階級等を覚え、
ドラマの間のCMの最中は、登場人物に感情移入しながら、韓国語の階級名を口にしたりしている。
一緒に観ているとんぐの女房と、同じリビングにいながら在宅ワークをしている長男も空気のような存在に徹している。

とんぐ侍ざむらいの声と、CMの夢グループ石田社長と専属歌手の保科ほしな有里ゆりさんの掛け合いだけが、とんぐ侍ざむらい一家のLDKに響く言わば時報のようなものとなっていた。

とんぐ侍ざむらいは韓流時代劇の中でも、医療に携わるストーリーがお気に入りのようだ。

今日も、これからドラマを観ようという時にタイトルを告げてくれた。

「『ミホジュン』観よか〜」



…これは、いくら空気に徹しているとは言え、ツッコミどころしかない…。

「父上、それは『ホジュン』です。
　ミホジュンは、美保みほ純じゅんさんで、日本の女優さんです。
　先日の録画で観た寅さんに出演しておられたから、少し混同されているのですよ」

リビングの窓際に座ってiPadで仕事をしていた長男が、その手を止めて、
とんぐ侍ざむらいに言った。

「え？　あ、そうか。
　え？　そう？　イヒヒヒ（笑）」

とんぐ侍ざむらいは少し照れたようにして、夢グループのCMに集中した。
目線は真っ直ぐ、石田社長を見て、
四次元ポケットからアイテムを取り出すドラえもんのような商品紹介の音声おんじょうに耳を傾けていた。

今のとんぐ侍ざむらいにとって、夢グループのCMだけが恥ずかしさを掻き消し、その後に始まる「ホジュン」に向き合わせてくれる心強い味方だった。

〽︎とんぐ　とんぐ　とんぐ侍ざむらい
　明日あしたはでっかい夢つかむ


とんぐ女房の姉・とんぐの義姉が、夢グループで購入したエアーベッドで転がり落ちた漫画のような光景を思い出しながら、
今、夢グループが一押しとする商品たちの紹介を微笑ましく見つめるとんぐ侍ざむらい。

「ホジュン」の後は、「水戸黄門」の録画とリアルの3連発が待っているのであった。

【とんぐの長男・次男成長記録の巻　其の一】

とんぐ侍ざむらいは、子どもたちを幼少期からそれぞれの人格として認め、
のびのびと育ててきた。
丸大ハンバーグばかり食べさせてきたわけではないが、
「大きくなれよ」と、心身共の成長を願い、時には親友のように接してきた。



今日は、長男の成長記録を紹介しよう。

長男は、とんぐ侍ざむらいのとびきりの明るさ・誠実さと、
とんぐ女房の優しさ・聡明さを受け継いでいる。
今や一家の一番のしっかり者である。

長男が、小学校2年生のことである。

担任の先生が2年間担当することがほとんどの中で、
1年生と2年生とで違う先生が担任になった。


長男や生徒たちは新学年なので、
新しい教科書、新しいノートに囲まれ、ルンルン♪気分である。

1ページも読んでいない教科書も、新品のものをもらった初日だけは、
宝物のような扱いをするものである。


そんな新しい環境にキャッキャする子どもたちには、
担任が誰であろうが関係なかった。


しかし、当時の保護者たちの間では、参観日なんかに前の先生と今の先生を比べるような発言が甚はなはだしかった。

長男は、教室の後ろに立ち並ぶ保護者たちに、背後から蹴りを入れられたような衝撃が走っていた。
心臓がドキドキ、バクバクしていたという。
子どもながらにとても悲しかったようだ。

そして、正直な子どもたちは家庭内でのそういった話をそのまま口にすることがある。そういったことが重なったある時、
長男は2年生の担任となってくれたウエムラ先生の前まで行ってこう言わずにはおれなかったようだ。

「ぼくたちの先生はウエムラ先生です。
　シオミ先生は1年生の時の担任。
　ぼくたちは今2年生になって、ウエムラ先生が大好きです！」

当時の長男が持つボキャブラリーの全てを出し尽くしての、
ウエムラ先生への大信頼だった。

何人かの子どもたちが、その場に群がり、「ウエムラ先生大好き」コールがあちこちから飛び出たのだそうだ。

帰宅後、一部始終を長男が静かに伝える姿が頼もしかった。


長男曰く、
「ウエムラ先生にこそ、悲しい思いをさせたくないし、
　にこにこした、ぼくたちの新しい楽しいクラスにしたかったんや」と。

〽︎とんぐ　とんぐ　とんぐ侍ざむらい
　明日あしたはでっかい夢つかむ

子どもたちが生まれて初めて直面する、社会の全てである自分たちのクラスに、
子どもたちの誰もが、自身の胸につかえていることを自由に口にすることができるサポートを、惜しみなくしてやりたいと思う当時の若きとんぐ侍ざむらいであった。

〽︎とんぐ　とんぐ　とんぐ侍ざむらい
　つかみどころのない侍さむらい

〽︎とんぐ　とんぐ　とんぐ侍ざむらい
　今日は何をつかもうか

〽︎とんぐ　とんぐ　とんぐ侍ざむらい
　明日あしたはでっかい夢つかむ

とんぐ侍ざむらいの日記のような旅は、まだまだ続く。
いつでもキミの隣となりに座すわり、笑いと励はげましをくれる。


〽︎とんぐ　とんぐ　とんぐ侍ざむらい
　ともに未来の夢つかもう

＜写真・文　©︎2022  いけだひろこ＞