「Practical Empathy」QAセッション

前回の投稿では、共感を育てる方法をテーマにした書籍「Practical Empathy」の読書会の内容について紹介しました。今回はその本の著者Indi Young(@indiyoung)さんと読書会メンバーで行ったQAセッションについてシェアします!

以下会話形式でお送りします。

(hiroko)
こんにちは。私達の読書会ではあなたの本「Practical Empathy」を読んで以下のようなことをディスカッションしました。
・日本では定性調査の重要性がまだ理解されていないケースがあり、コストをかけずに実施して効果を実感してもらったりしている
・ニュートラルに聞くことがトレーニングによって可能になるという本の内容はとても役に立つ
・日本人はシャイなので、たくさん話してもらうのが難しそう。日本ではあなたのことを知りたいとちゃんと伝えることが大事そう
・組織においてリスニングセッションして、上司と自分の意見が違うときはお互いにリスニングセッションをするのが良さそう
・共感のマインドセットを広げるためには色んな所でリスニングセッションをするのが良さそう

ここまでで何かコメントがあったらいただけませんか?

(Indi)
「Empathy」はいろんな捉え方があって、「どう感じるか」とか心と関連づける人がいるけど、私は「聞くこと」として捉えたいので、体の一部を選ぶなら耳だと思う。
どう心を開くか、どう自分を見せたいか、何を言うべきか、どうやって誰かを納得させるかとかではなく、ただ座ってだれかのことを理解しようと耳を傾けること。Reactionは得ることができるけど、得たいのはfeelingではない。「質問のアジェンダはないし、特に言うこともないけど、これから良い形であなたをサポートしていくために理解したい」というもの。

これは、授業でちょうど話したところなんだけど、クライアントの上司などステークホルダーに対しても、リスニングセッションをすることがある。同じ言葉に対する理解が違ったりするし、彼らのこと、彼らの話す言葉がより理解できるので、プロジェクトを始めるときには最適。時に、2-3人のステークホルダーたちは、それぞれ違う話し方をすることもあるので、彼ら自身がそれぞれを理解する上でも良いと思う。

日本人はシャイ、という文化的な違いについては興味深いポイントだと思う。​​

リスニングセッションでラポールを築くために何がうまくいったか、何が役に立ったか、日本での経験を聞きたいけれど、私が国際的にプロダクトを対象としたユーザーリサーチで、プロダクトに対し意見・文句を言うことが控えめな人の場合、プロダクトについてではなく、あなたがどう感じるかを聞きたい、と説明すると積極的になってくれることがある。


あなたの頭に何が過ぎったか(what went through your mind)が聞きたいの、という風にセットアップの仕方に気を使うようにしている。

私は対象者を探す時はリクルーターに多めに候補者を頼むようにしている。
サンプルサイズが12人の場合、18-20人くらい、より多い人を候補者として選定して、彼らに電話でいくつか質問して最終的にセッション参加者を決める。

文化的によく話す国の人でも、時によって明確に何を感じていたか、全てを一般化してしまい、自分の言葉にできない人がいる。
過去に、韓国からアメリカに移住した人々に対して、アメリカのマーケットに関する調査で、たくさんの候補者を不選定とせざる得ない状況になった。

なぜなら特定のテーマ「夕食の料理について」具体的に話すことができなかったから。夕食を作ることはとても日常的なことで、「夕食を作る」というテーマに対して、彼らは「昨日の夕食」のことではなく、「いつもの夕食」について話すことしかできなかった。

日本人に対しても、事前に電話で直接話す方法は、この人は話してくれる人なのかをチェックするために使えるのでは。でも、実際のところはよくわからないのでみんなに聞いてみたい。

(日本での経験はどう?みたいな流れがあり、)

私自身は日本に行ったこともないので、もし日本で調査をすることがあれば、あなたのような方々を探してコラボレーションするでしょう。

実はこういう質問を最近受けることが多くて、クレジットカード会社とベトナムでリサーチをすることがあって、そういう場合にはベトナムの文化で育ち、リスニングができる人を探す必要がある。通訳を介してセッションを私がすることもできるけど、自然でないし深掘りもしにくい。その人と関係を築いて、心を開いてもらって、実際に何が心の中で起こったのか聞く必要があるから。
もしテレパシーがあるなら、完璧だと思うけど(笑)。
信頼を形成することが大事だから、同じ文化背景、言葉を持つローカルな人を見つける方がうまくいく。

話す人は最初は様子を見ている、あなたが誰かわからないし。あなたは、特定の質問はせず、ジャッジせずに聞くことに徹する。その中で、相手は心を開いてくれ始めるかもしれない。でも例えば途中であなたが相手が言ったことを間違って解釈し、それを伝えたとき、また相手は心を閉じるかもしれない。その場合また開かせる必要がある。ときにその繰り返しをしなくてはいけない。これはアメリカ人でさえも同じこと。誰かに内面について語るのは普通のことではないから。文化に関係なく、どこでも普通ではない。(笑)。

でも、これまでの経験から言えることは、内面を話すことで人は楽しくなってくるということ。誰かにジャッジされない信頼関係があるなかで内面を聞いてもらえることは滅多にないチャンス。内面を聞いてもらえる、つまりは自分のことを説明する機会は私たちには滅多にない機会なので、大抵人はオープンになる。人々は快くやってくれる。

(eiko: いつリスニングセッションの手法を取り入れるべきですか?)

問題がどこにあるかを理解したい時(problem based study)に便利です。

何かをデザインしようという時、ユーザーのどのような振る舞い、Thinking style、行動のセグメント(behavioral audience segment)に対してデザインするのかを決める必要があります。リスニングセッションは、そのデザインの目的に対して、様々な人がどのような異なる視点・切り口を持っているのかを棚卸しして理解するのに役立ちます。

メンタルモデルダイアグラムはJobs-To-Be-Doneと相性が良いのです。メインジョブは目的、各ジョブはメンタルスペース、サブジョブはその下のタワー、というように。

次に、だれのためにデザインしたいかを考えます。どのタワー、jobに興味があるのかを考え、そこでだれかになりきってシナリオを書いてみたけど、彼らのライフスタイルがわからないなら、それはリサーチをするタイミング。あるいはなりきろうと思うけど想像で作ってしまうとき、たとえばステークホルダーがこうだよ、と言っているけどそれを示すデータが出てこないとき。

他には、ステークホルダーやクライアントの違う部署の人とセッションするとき。一緒に仕事をする上で彼らのマインドを理解することで、彼らが理解できる形で話すことができるようになる。

これも本にも書いたことだけど、もし自分がリードしているチームがあれば、各メンバーと数ヶ月に一度リスニングセッションを行うと良い。
自分がヒエラルキーの上にいる時、話を伝える立場であって、話を聞くことは少ないので。最近どんなことを考えていて、解決できない問題があるとか、トレーニングが必要なこととかチームとしてうまく行っていないパターンが見えてきたりする。

(eiko: それはチームビルディングに使えるということですね、最初の例は問題を理解する目的ですね?)

そうですね。 1つ目は、クライアントのための調査で使える。何かデザインする時、誰のためにデザインするのかわからない時。
or
これは戦略に関するものだけど、もしデザインしろと言われたものに対して何も知らない時。あるいは十分に知らない時。一度クライアントにこれをデザインする予定です、と言われてリサーチして見たら、ターゲット層は必要性を感じてなくて、他のものが必要だということが判明したことがある。

(eiko: こういうリサーチに対しての最終的なアウトプットは何ですか?エバンジェリストになることについては本に書かれていましたが、他に共有してもらえるものはありますか?)


Empathic mindsetというのがあるけど、それは私たちが答えを知らないもので、答えを知らないと言ってもいいもの。もし知っているようなふりや知っていると仮定すると間違いを起こす。それはリスク。ときに、仮定していることすら私たちは気づいていないこともある。そんなときこのマインドセットを使ってチーム内で定義してみると良い。「ちょっとまって、いまやろうとしていることは自分たちがそう思うから?またはユーザーがそう考えるから?」という質問をする。
これをやるのは、その疑問について考えるのに役に立つ。

もう1つの価値としては、これは2つに分けることができて、どの方向に進むべきかの戦略部分。そして、それを決めるために選べる全ての方向が出せるということ。
イベント参加者が作ってくれたポスターがあるんんだけど、

画像1

(画像:Indiによる画面共有のスクリーンショット)

リスニングセッションの後、メンタルモデルダイアグラムに落としたら、進むことができる全ての道筋が出せる。

ステークホルダーとのディスカッションやJob-To-Be-Doneを通して、メンタルモデルから導き出されたThinking Styleによって作成されたアウトカム(成果)を定量あるいは定性調査をして1つの方向を選んでいく。

このポスターには複数のパスが示されていて、いまその一つが選ばれている状態を表している。5年後は違う方向へ進むかもしれない。

(eiko: 我々はアウトプットとしてはスライドとかビデオを思いつくが、そういうものは作らないのですか?)

メンタルモデルダイアグラムとthinking styleはいつも作る。

ある大学が、障がいを持つ従業員を採用する過程において、担当者がどのように法に準拠・対応していくかについてを書き出したモデルです。これは大学の授業ためにつくったもの。障害者の従業員を雇ったときにどのように従業員がルールを守るか。この例は私のウェブサイトからダウンロードできる。

画像2

(画像:https://indiyoung.com/the-value-of-understanding-the-problem-space/)


従業員の障害に対応する必要があることに気付くと、さらに怪我を招いてしまう職場になる可能性があることに気付く。これがリスニングセッションからでてきたステートメントです。


ステートメントがそれぞれ色付けされていて、それぞれの色はthinking styleを意味しています。それぞれに付いている三角や角はコンテクスト、ステートメントのタワーの下には実際のケーパビリティ、現在のサポート状況を示している。このタワーに対しては、全くサポートがない。あるいは、少しだけサポートがあるなどが一目でわかる。
それぞれのThinking Styleは、それぞれ問題解決において別々のアプローチをとっている。手厚いサポートがある部分は、1つのThinking Styleに対してだけであることが見える。
5年後または今、まだサポートされていないもう一つのthinking styleをサポートしているでしょう。

thinking styleはラベルや説明だけでペルソナの代わりにする。
写真とかでもデモグラフィックな属性などは入れません。
Mediumにでもデモグラフィックスを入れることの問題について書いています。
もしだれか翻訳したい人がいたらぜひ。(笑)


(eiko: 本の中では、感情を書き込んでおくことで時間が経ってもステートメントが使えると書いてありました。賞味期限の長い感情のメモの取り方はありますか。)

発言を書き出す際に、カッコを使って笑いとか、皮肉、シニカル、とか発言の隣にも書いておくので、あとでメモを見た時に発言内容を素のままで受け止めない、(ex. 皮肉を込めて言った内容を真に受けない)。録音データも大抵あるから、振り返らなくてはいけない時はトランスクリプトを見ながら録音を聴くようにしている。覚えているかどうか確認するために。

thinking styleセグメントを作るときに、改めて録音を聞き、トランスクリプトを読み、そのすぐ後でParticipant description を書く。例えば、総括的な内面的思考、反応やGuiding Principleなどを、1つの段落フォーマットで書き出します。そうすると、Thinking style を見つけるために、それぞれの人を比較しやすくなる。メンタルモデルダイアグラムを作るのは難しい。トランスクリプトから全ての部分を抜き出さなくてはいけないから。

量的データというのは色々な解釈が可能なので、メンタルモデルダイアグラムという形を取ることによって、その意味付けをより具体的な形で表現することが可能となります。これは特にステークホルダーにとって役に立つアプローチです。

徐々に人を追加していきます。最初はドラフト版で小さく始め、そしてまた小さいテストを追加する。繰り返して検証されていく。

ある航空会社で8つのテストしたとき、普通こんなことしないけど、一回12〜15人のテスト8回を19カ月かけてやった。最終的には100人の人から出てきたthinking styleは、とてもソリッドだった。

でもプロジェクトがおわって、その関わっていたステークホルダーが去ると、組織で価値を理解されず使われなくなってしまった。また更に後任の人が発見して使うこともあるけど。

この航空会社の仕事は、これまでとは異なるアプローチでトラベルプランを手助けできるようなそこから新しい航空会社が作れるくらいのものだった。基本的に現在の航空会社のサイトでは、空港を選んでくださいが最初に来る。でも人々が考えることは「あの島に行きたいんだけどどうやって行ったらいいんだろう、いけるのだろうか?」「このビジネストリップにいくときにこことここに行って子供のピアノリサイタルに4時にアメリカに帰らなくてはいけないけど、戻れるだろうか?」だったりする。

(eiko: とっても興味深いですね。そのようなこういったセッションは、まずどうやってはじめるの?)

スクリーナーで話す。会う時はすでにお互い知っている状態。この間の「夕食を作る」というテーマの時は、数日前の電話で話した時に、なんとなくメモとったりしておいて、などと伝えておいた。その後の話は、質問リストはなく、すべてその場で自分と相手との間ででてくる。

話がそれるとき、「でも昨日はどうだった?」とか「その前に同じ料理を使った時はどうだった?」などと話を戻す。

(eiko: フォーカスしたいエリアを決めておいていつもそれを思って話しているんですね)

メンタルモデルダイアグラムとJob-To-Be-Doneとの大きな違いはニュートラルなマインドでどんな視点を持っているのか理解できること。ジョブはタワーやメンタルスペースが定義できない。人々がなにを思っているのかを理解している必要がある。これもMedium書いたと思うけど、「もし娘が成長して他の国に住んで、彼女を訪れるとしたら.…その時あなたの人生で何が大切なのか」を心を開いて聞きたいとき、私がなにが大切なのかとは聞かずに、話してくれる方法について書いている。

質問に答えられたかな?
皆さんと話せてよかったです。

QAセッションここまで。セッションのモデレーター・日本語への翻訳はAQ(@aqworks)のEiko Nagaseさん、Michi Mighita(@michimgt) さん、Tomomi Sasaki(@tomomiq)さんがしてくださいました!

QAセッションを終えて

どのように良いインタビューイをリクルートするかの実践的なTipsや、メンタルモデルやJob-To-Be-DoneにどうつなげてUX戦略をデザインしていくのか、実例も見せていただきながらで学ぶことの多いセッションでした!リスニングセッションはいつ用いるのが良いのだろうかという読書会での疑問がありましたが、リスニングセッションは定性調査の中でも戦略策定やチームビルディングなどのフェーズで用いる手法なのだなと感じて面白かったです。

第2回の読書会も企画予定です。興味のある方はDesign Research TokyoのCompassをチェックしていてください!

(2022/10/16追記)

イベントレポートが増えてきたので、マガジンにまとめました。読んだ本のサマリやイベント当日の様子をまとめています。よかったらご覧ください。



いただいたサポートは、日本のデザインリサーチャー・UXリサーチャーの実践に役立つ活動に使わせていただきます。