これまでのお話3件はこちらです。 1と2は日本の美術館所蔵の、近代の脚衣でしたが、今回は現代のトルクメンの脚衣をご紹介します(私物)。 前にも書きましたとおり、脚衣は人に見せるものではなく下着ですので、下のように広げて全体を見せる(さらす)ことは現地の人にとっては好ましくないかもしれません。現地の皆さんが気分を害されたら申し訳ないです。 トルクメンの女性用脚衣(バラク)3このバラクは、1997年にトルクメニスタンのトルクチュカ・バザールで入手したもの。縫い方や裁ち目の始末
【お知らせ】アジアの染織専門誌のTextiles Asia16巻2号にThe World of Suzani Embroidered Cloth from Central Asiaが掲載されました。日本にも素晴らしいスザニが存在することを、再び世界へ発信。
前回の記事はこちらです。 トルクメン民族衣装の基本パターン中央アジアには数多くの民族があり、民族衣装も様々ですが、共通点もたくさん見られます。 女性の場合、基本的にはズボンを履き、長丈のワンピースに前開きのコートを着るという構成が多いように感じられます。トルクメンの人たちは、これに頭にスカーフを被り、口元を隠し、外出時は身体をすっぽり覆ってしまう被衣を身につけてきました。女性の脚衣は、原語の発音をカタカナにすることは無理がありますが、バラク、イシュタンと呼ばれます、本稿で
前置き的なものはこちらです。 なお、筆者が現地で出会ったモノたちは美術館には入れておりません。過去に一部の方がウェブで誤解ある文章を書かれていますが、筆者あるいは勤務館のことではありません。 トルクメン民族衣装の基本パターン中央アジアには数多くの民族があり、民族衣装も様々ですが、共通点もたくさん見られます。 女性の場合、基本的にはズボンを履き、長丈のワンピースに前開きのコートを着るという構成が多いように感じられます。トルクメンの人たちは、これに頭にスカーフを被り、口元を隠
トルクチュカ・バザールを懐かしむ トルクメニスタンの首都アシガバードの近郊に日曜市のように特定日だけ開設されるトルクチュカ・バザールがあり、市内から臨時バスに乗り込んで現地へ向かいました。アシガバードからほど近い、カラクム砂漠のある場所にその日だけ市が立つのです。 トルクチュカとは押し合いへし合いという意味らしいですが、全国から人と車と動物が集まって確かにたいへんな賑わいぶりでした。首都では見られない伝統的な着装をした人々を見ることができたのです。 とはいえ、伝統的な民族
ウズベキスタンで行われているカード織りは、2つ穴の長方形のカードを使い、カードを移動して経糸を交差させる技法に特徴があります。 では、織りの実践です。 カード織りのミニ動画カード織りの基本動作 ナイフまたは包丁型の打ち込み具を使い、リズミカルにカードを回し、緯糸を通しては打ち込んで織り進めます。動画はこちら。 経糸の交差 カードを入れ替えて、経糸を交差させます。カードを選んでつまむようにして入れ替えます。図面はありません。迷いなく作業が進んでマジックのよう。 実作
ちょっと体調くずしたり、仕事が立て込んだりして、久しぶりの投稿となりました。今回はカード織り(沼)です。 一般的にカード織りとはカード織りは木や骨、革や紙などで作られたカードの穴に経糸を通して、綜絖の役割をするカードを回してできた開口に緯糸を通して丈夫な紐状織物を作る技法です。 カード織りの歴史と研究 カード織りの歴史は紀元前に遡り、東南アジア、中国、ロシア、中央アジア、西アジア、北アフリカ、ヨーロッパとユーラシア大陸の広い地域で作られてきたようです。 19世紀末にドイ
先週、スザニの家庭内展示について大作を上げたので、今週はお休みします。
現地で、あるいは国内でスザニを入手された方はたくさんいらっしゃることと思います。入手自体が人生の一大イベントでしたよね。 今回は、スザニをどう使うか=飾るか、現代の家庭でスザニと暮らすための、いくつかの方法をご紹介します。本稿は美術館での展示ではなく、一般的な住宅で布ものを展示するためのヒントです。長い年月にわたって保存継承していく前提の美術館コレクションの場合は、まったく異なる手法を使います。 スザニあるけど押入れにしまっているわ〜って方、ぜひ広げてみましょう。そして、
前回は予告編でした。今回は紙にサンプルステッチを刺してみます。 糸2本を針1本に通して、しましまユルマ(チェーン・ステッチ)を刺すことができます。 針と糸の準備 針に2色の刺繍糸を通します。上の写真では25番刺繍糸を3本どり×2色を通しました。なお、このサンプルの糸はスザニに使われる絹糸ではありません。 刺してみます ここでは布ではなく紙に刺しています。
まず、基本のユルマ2種についてはこちらを。 では、今回はユルマに変化がついた作例を見てみましょう。応用編とタイトルをつけましたが、もしかしてマニアック? 今回も19世紀のスザニを熟覧しましょう、そして、いろいろ読み取りましょう。予告的に画像列挙する回です。 これでお分かりいただけたと思うのですが、2色のしましまユルマですよ! 針1本で刺します。 針1本でしましま自由自在。 本日はここまで。 ではまた次回お目にかかりましょう。
何色もの色糸で刺繍するスザニ。 19世紀くらいのスザニのお話です。裏面が意外にきれい。 過去回で、面をボスマ(ブハラ・コーチング・ステッチ)で埋めてから輪郭をユルマ(チェーン・スケッチ)で縁取る例をご紹介しました。 今回は、色面を刺していく場合の順序を見てみます。 上の文様はツボミかアーモンドの身か判然としませんが、水色と青色交互に埋めた面をオレンジ色で縁取っています。縁取りの内部を先に埋めたと推測するのですが、水色と青色のどちらから刺したのでしょう? では、裏側を。 即
イロキは、中央アジア含め世界各地で刺されているクロス・ステッチのことです。スザニのような大きな布、さまざまなものを収める袋まで、イロキを見ることができます。 クロス・ステッチだけで一種の「沼」なので、あくまで中央アジアの一部限定エリアに特化した話だと思ってお読みください。 さて、イロキのスザニは勤務館には所蔵しておりません。刺繍袋にはイロキがたくさんあるのですけどね。国内で知る範囲では、岡山県立美術館さんがイロキのスザニを2枚、所蔵されています。なかなか実物を見ることはでき
前回はかぎ針によるユルマをご紹介しましたが、今回は「普通のチェーン・ステッチ」である針のユルマです。 刺繍枠は使わない かぎ針のユルマは枠を使いますが、針のユルマは刺繍枠を使わずに刺します。 片膝を立て、布端を足で押さえて、布にテンションを与えながら刺すこともあります。 針先はどちらかというと向こうから手前へ向けることが多いようです。 そのあたりのことはコチラ。 ユルマによる表現 ユルマは、かぎ針でも針でも、皆さんよくご存知のチェーン・ステッチですので、ステッチは線
文様を刺す順番 前回はこちら。 線を刺繍する時はひたすら刺します。 では、ユルマで面を埋める時はどこから刺しましょうか? 例によって、師匠と呼ぶべき19世紀のスザニを見てまいりましょうか。 今回、観察するのはコチラのスザニ。 ミヒラーブというアーチ型が特徴的な刺繍布です。中央アジアにはイスラム教徒が多く、1日に5回、聖地メッカに向かってお祈りする際に敷く「お祈り布ジャイナマズ」です。絨毯とは違って、スザニは基本的に床に敷いたり、足で踏んだりするものではありません。そうい
ユルマはいわゆるチェーン・ステッチのこと。中央アジアでは、普通の針で刺す方法と、レース針(細いかぎ針)で刺す方法の両方が見られます。 今回はかぎ針で刺すユルマについて。 かぎ針、ウズベク語ではbigiz かぎ針をウズベキスタンではbigiz(ビギズ)と呼びます。なお、外国語あるあるで、カタカナではウズベク語の発音は再現できかねます、あしからず。 刺繍枠 さて、刺繍といえば、布を丸い枠にはめて刺すイメージかもしれませんが、中央アジアの人たちは基本的に枠を使わずに刺繍しま