刺繍布スザニを部屋に飾るためのヒント
現地で、あるいは国内でスザニを入手された方はたくさんいらっしゃることと思います。入手自体が人生の一大イベントでしたよね。
今回は、スザニをどう使うか=飾るか、現代の家庭でスザニと暮らすための、いくつかの方法をご紹介します。本稿は美術館での展示ではなく、一般的な住宅で布ものを展示するためのヒントです。長い年月にわたって保存継承していく前提の美術館コレクションの場合は、まったく異なる手法を使います。
スザニあるけど押入れにしまっているわ〜って方、ぜひ広げてみましょう。そして、目の保養の日々を送りませんか。
大胆にピン打ちする
壁にピンを打ってOKなお家なら、画鋲やダルマピンで直打ちしてしまう方法が手っ取り早いです。
ピンを打つのは、布地の負担にならない位置、あるいは力布をつけた方が傷みにくいです。
気をつけたいのは、鉄製のピンは錆びることがあります。鉄は繊維を傷めますので、ステンレスがおすすめ。ほら、鉄媒染の布は年月が経つとボロボロになってしまいますよね。
これまた大胆にタッカー打ちする
こちらも壁に穴を開けてOKな場合なのですが、タッカーやホッチキスで直打ちもアリです。実は他館さんの展示室でこれを見かけて、びっくりしました。
やはり鉄製のタッカー針はやめておいた方がいいと思います。タッカー針が錆びたら取れません。それから、タッカー針を外す時に布本体を傷つけないように。
ピンとは違い、外す時のリスクを思えば表側に保護布をかましたいかも。
なお、ピンもタッカーも私はしません。
スザニにリングや紐を縫いつける
スザニの上部あるいは四隅にリングや紐を縫いつけ、壁にピンで留める、あるいは突っ張りポールにリングを通したり、紐で結びつけたりします。突っ張りポールは文字通り突っ張って固定したり、後述するように突っ張りポールに紐やワイヤーをつけて吊ります。
スザニの裏側上部に筒をつけてポールを通す
スザニの裏側の上部に布で作った筒を縫いつけます。筒にポール(突っ張りポールは長さ調整が容易で便利)を通して、紐やワイヤーで吊ります。
筒の作り方の一例
ポールの直径や諸条件によって最適な筒は異なりますが、参考として筒の作り方です。水通ししたシーチングや晒しなどの木綿布をミシンで筒に縫います。筒の布は経糸方向をタテにします。必要に応じてアイロンをかけます。筒の左右は切りっぱなしでも折り返して縫ってもいいです。
筒をスザニに縫いつける
筒の上下をそれぞれスザニに縫いつけます。ここは手縫いでがんばっていただきたいですね。
縫い糸は強度のあるポリエステル製の手縫い糸を。ミシン糸は手縫い糸と撚りの向きが異なりますので、手縫い糸を使う方が効率よく縫えるはず。針は縫えればなんでもいいです。
ただし、ミュージアムピースクラスの年代があって布が傷んだものは(今は書きませんが)別の縫い方が推奨されます。
石膏ボード壁用のフック
ホームセンターなどで見つけた石膏ボードの壁専用と銘打ったフックは、手持ちのものは耐荷重7kgと書いてあります。
スザニに取りつけたリングやポールをこのフックに引っかければ、展示スペースの可能性がぐっと広がります。この手のフックやピンは様々な種類がありますので、より適したものを見つけていただきたいです。
釘を打ってよいお家なら、あまり気にしなくていいんですけどね。
ピクチャーレールのススメ
美術館やギャラリーには天井近くにピクチャーレールが設置されていて、ワイヤーやフックを使うことでかなり自由な展示ができるようになっています。
一般住宅でも完成前ならオプションでピクチャーレールをつけてもらえば、リビングや書斎がまるで展示室ではありませんか⁉︎
壁から少し出っぱってしまうけれど、後付けできるピクチャーレールも販売されています。
ピクチャーレール、美術館じゃないのに大げさな…と思われるかもしれませんが、スザニだけでなく布ものや額ものまで、展示替えもハードルが下がるので、おすすめいたします。
ピクチャーレールを導入したら、同じメーカーのフックやワイヤーも偶数個揃えておくと、額ものも気軽に吊れます。
テグスは家で使わなくても…
美術館ではワイヤーやテグスを使うことが多いですが、個人的には美術館ではテグス、家ではたこ糸を使います。
テグスは透明なので、スザニだけを鑑賞していただけると思っています。ワイヤーの存在感をなくしたいのです。
テグス使用の難点は結ぶのに慣れと技術が必要。テグスって割合強度があるので、シーツサイズくらいの大きめスザニでも4号で充分です。太い方が強いだろうと10号テグスなんて使うと、結んでも緩みがちで結局やり直すことになろうかと思います(個人的経験)。釣り人がいらっしゃるお家ならテグス使用もいいですね。
欧米などでは角材とベルクロも
ところで、欧米では、タペストリーや絨毯を吊る時にこんな方法がよく使われます。
ベルクロ(マジックテープ)のふわふわ側を作品裏の上部に縫いつけ、ベルクロのギザギザ側をタッカーなどで角材に留めつけ、ベルクロで布と角材を固定したものをヒートンで吊るような仕組みです。この方法は角材の重量があるので、ワイヤー吊り一択になると思います。
欧米でコレクションされたスザニの中にはこの方法で飾られていたと推測できるものがあります。
ウズベキスタンの美術館では
さらに、本拠地であるウズベキスタン国立美術館や国立装飾芸術美術館では、スザニを目の粗い布に縫いつけたものを木枠に張った展示が見られます。
ソビエト時代の展示の方法なのか、それとも脆くなった絨毯などを別布に留めつける方法をスザニにも適用したのかわかりませんが、パネル装にしてしまうので、たたみシワの心配はなくなります。展示替の時に動かすのがたいへんだろうなと見るたびに思います。しかし、現地では展示替をあまりしませんねぇ。
たこ糸は意外と便利
話題がつい外国に行って脱線しましたね。
さて、ポールをフックやピクチャーレールのハンガーに取りつけるのに、わが家でははたこ糸を使っています。理由はテグスじゃなくても、家の中で使うなら充分な強度があり、入手しやすいから。
吊る際には、必要本数のたこ糸を同じ長さの輪に結んでポールに通し、ハンガーにかけます。一旦離れて、左右のバランスや水平を確認します。
たこ糸は天井から垂直になるようにバランスをとり、水平でない場合はたこ糸をハンガーに1回、2回と巻いて長さを調整します。天井と床面は意外に水平でなかったり、布は重力がかかると伸びたりするので、調整が必要になると思います。
直射日光、紫外線は苦手
布ものは直射日光や紫外線によって褪色したり、傷んだりしやすい、どちらかというと脆弱な素材です。外出中はカーテン閉めたりしてあげてください。蛍光灯は意外に紫外線を発しています。LEDは紫外線がたいへん少ないそうですね。
たまには展示替?
大きなスザニは壁面を占拠(!)しますので、言いかえれば、展示替によって部屋の雰囲気をガラリと変えることができます。例えば、プスケントやタシケントの真紅オイ・パラックは秋冬に、ブハラやカルシの白地に草花文といったものを春夏に展示してはいかがでしょう。
複数のスザニをお持ちなら、ローテーションして展示替することで作品保護にもなります。
以上、お家でのスザニ展示について、徒然なるままに書いてみました。スザニも大小さまざま、裏地の有無など、モノによって展示方法を見つけましょう。余ってるクッションカバーも飾っていいのでは?まだもう少し書き足りないことがあるのは、またの機会に。
どなたかのご参考になれば幸いです。
さあ、あなたもスザニのある生活を楽しみませんか?
なお、こんなのも過去に書いております。pdfは埋め込めるのでしょうか。
「染織品の展示と方法について-「所蔵作品展 岩崎博染織コレクション受贈記念 シルクロードをめぐる布の旅」の場合-」『広島県立美術館研究紀要』第15号 2012年
https://www.hpam.jp/htdocs/images/about/BulletinNo15_Fukuda2012.pdf
「染織品の展示と方法について(2)「令和3年度 秋の所蔵作品展 中央アジアの衣装と刺繍」の場合を中心に」『広島県立美術館研究紀要』第25号 2022年