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BTSに見るグローバルマーケティング戦略

BTSのグローバルなマーケットでの成功は周知の通りであり、グラミー賞にも出席することが発表されています。彼らの華々しい成功は大きく取り上げられていますが、そのメカニズムはあまり分析されていないと思います。今回はBTSの成功の背景を分析することで、他のエンターテインメントビジネスのグローバルでの成功のヒントについて考えたいと思います。

K-popの海外市場での成功の道を切り開いたYGエンターテインメント

BTS以前にもK-popのブームの兆しは見えていました。PSY, BigBang, 2NE1をはじめとしたYGエンターテイメントはその成功の道を切り開いたと言えます。彼らは欧米のヒップホップ、R&B、EDMを自国のポップカルチャーと合わせ、洗練させ、展開しました。カラフルなファッションや、英語を多用した歌詞は韓国内だけでなく、海外市場を意識したものになっています。さらにYoutube, Twitterなどのインターネットプラットフォームを活用して、海外に音楽を展開するビジネスモデルを確立しました。ただ彼らも米国マーケットには進出しましたが、大きく成功することはできませんでした。おそらく彼らの戦略はアジア市場に照準を当ててビジネスを展開していくことだったのだと思います。つまり、米国進出もあくまでアジアに輸入する話題作りとしてのものだったのではないでしょうか。
韓国のエンターテイメントビジネスはLAにあるコリアタウンを通じて米国のショービズ界とのコネクションを持っており、YGエンターテイメントもDiplo,Snoop dog, Missy Elliot,ファッションではJellemy Scott などとコラボレーションしています。しかしながら、その時の米国アーティスト側のインセンティブは自分たちをアジアマーケットに売り込むことだったでしょう。

BTSは米国市場での成功を目標とすることでグローバル市場での成功を手にした

BTS (Bighit グループ)はYGエンターテイメントのとった手法を下敷きに進化させ、米国を起点とするグローバル市場を取りに行ったことが成功に繋がったと言えると思います。端的に言えば、米国市場での成功がグローバル市場での成功につながったと言えると考えられます。以下なぜBTSが米国市場を押さえられたのかについて書いていきます。

欧米文化の洞察・内省的な歌詞の導入

BTSの楽曲では西欧的なモチーフや内省的なテーマが歌詞や楽曲に用いられています。例えば最新のBlack Swanではコンテンポラリーダンスとストリングスが取り入れられ、Black Swanのタイトルからもわかるようにどんなに辛く苦しい状況においても自分のやるべきことをやっていこうという決意が歌詞になっています。音楽のテイストとしてはEDMやヒップホップをベースとしながらも叙情的な歌詞や演出が欧米のリスナーにも幅広く共感できるものとなっています。

社会課題への取組とのリンク

また、Love Yourselfというテーマで作られたアルバムでは、自分を愛することの大切さをテーマにしています。この結果、UnicefのキャンペーンにもBTSが採用され国連でも演説しました。こういった社会課題とのリンクはYGには見られなかった要素だと思います。多様な人種・価値観をもつ国民がいる米国にあって、自分は自分でいいんだというメッセージが、LGBTや人種差別などの問題が社会的に取り上げられる米国の現在の雰囲気とも合致していたのではないでしょうか。またこのテーマはグローバルに展開する時も共感を得られると思われます。

米国で今人気があるアーティストとのコラボレーション

YGも米国のトップアーティストとは共演しているのですが、失礼な言い方をすれば若干旬をすぎた大御所アーティストとのコラボレーションが多かった気がします。一方でBTSはSteve Aoki, Nicky Minaj, Halsey, Lauv, Becky Gなど、今米国でも売れているアーティストとのコラボレーションが多い印象です。これは当然米国でも影響力が上がり、グローバルの影響力も拡大する方向に働きます。ジェネレーションZはメジャーなアーティストをほぼリアルタイムでオンラインで同じように見ているはずであり、この中で米国で今売れているアーティストと組むことはBTSにとってもプラスになっていると思います。

ヒスパニック、アジア系をターゲットとしたマーケティング

米国市場を考えた場合には、今後白人の人口割合が減少し、ヒスパニックおよびアジア系の人口割合が増加していくことが予想されます。その中で例えばBecky Gとのコラボレーションはヒスパニックのリスナーを獲得していくためのマーケティングであると考えられます。アジア系についてはBTS自体がアジア出自のアーティストであることが大きなベネフィットになっていることは言うまでもありません。また楽曲はChicken Noodle Soupという楽曲は黒人グループの既存のヒップホップのカバーであり、黒人カルチャーに対するオマージュもあるため、黒人のリスナー層も意識した内容になっていると思います。

米国の18歳以下人口の半分は白人以外になっている

以下の通り米国の18歳以下の人口構成はヒスパニック系、アジア系が伸びてきていることが数字的にも見て取ることができます。2020年にはヒスパニック以外の白人割合は50%となり、マーケットの半分は他の人種によって占められ、今後もこの増加トレンドは変わらないと見られます。このトレンドをしっかり捉えたことがBTSの米国成功において重要だったと考えます。
現在でもグローバルでのエンターテイメントの成功は米国での成功と密接に相関します。つまり、米国で成功すること、特に米国の若者に受けることが、グローバルで成功する上で現状でもかなりキーとなるはずです。そこをしっかりBTSは押さえにいっていると言えるのではないでしょうか。

今や米国ではビートルズとまで比較される存在になったBTSですが、これはそこまで米国でも影響力をもつアーティストとなったという証左でしょう。

まとめ

このようにBTSの成功は①表面的でない欧米カルチャーの参照と共感を呼ぶ歌詞によるクリエイティブ、②ジェンダーや人種といった社会課題への取組とのリンク、③白人以外の米国の若者をターゲットとしたコラボレーションの3つが米国市場での成功をもたらしました。それがインターネットプラットフォームを通じて世界に共有されることによって共感を呼び、同時多発的ヒットにつながったと言えるのではないでしょうか。これらの特徴は、それ以前のK-POPからBTSを一段上の次元にもたらしたと言えると思います。
やはり今でもグローバルな商業エンターテイメントの中心地は米国であり、その若年層の市場でいかに成功するかがポイントなのではないでしょうか。実際に米国市場でブレークした2017年のLove Yourselfの2タイトルはそれぞれ、2016年のアルバムWingsと比較してグローバルで倍近く売れており、2019年のMaps of Personaはwingsの3倍以上の枚数が売れています。音楽がストリーミングで聞かれるようになった昨今ですらこれだけ販売枚数を伸ばしていることは、それだけBTSの人気が伸びていることを物語っていると思います。

上記のような現在の米国市場、グローバル市場の特徴は、他のエンターテイメントビジネスでも知っておいた方が良いポイントなのではないでしょうか。

※New JeansもBTSの成功の延長にあるのだと思います。

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