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デジタル時代の行政システムアーキテクチャーとは

※2020年に書いていたものを投稿し忘れていたので改めて投稿します。ただデジタル庁ができてこの視点はますます重要になっていると思います。また本投稿は拙著「行政をハックしよう」のアイデアソースにもなっています。

行政のデジタル化で考えなければいけないことは①国民にとって利便性の高いサービスの提供と②政府内の効率的なオペレーションの実現の2つである。この2つは行政が現在も抱える大きな課題だ。

これらを達成するためには、大局的なシステムアーキテクチャーの視点が欠かせない。個別最適ではなく、全体最適の中でシステム全体がどう構成されるべきか考えられていないのは、行政の縦割り的な考え方に起因し、90年代以降繰り返し述べられてきているところだが、一向に見直される気配がない。一方で政府のデジタルトランスフォーメーションを進めるにはその考え方を改めることが待ったなしになってきている。

デジタル行政サービス・スタックの整備が不可欠

デジタル上でリアルの個人を特定しながら、使いやすい行政サービスを実現するにはデジタルサービスの果たす役割を階層にして関係性を整理する必要がある。これらの階層群を「スタック」と呼ぶことにし、各階層を「レイヤー」と呼ぶことにする。これらの階層の重なりが整理できていなければ、共通した機能を重複して構築してしまうといった非効率が生じてしまう。以下どのようなレイヤーが必要か考えてみたい。

①基本機能レイヤー
まず「リアルの自分」を「バーチャルの自分」と紐付けるデジタルIDの機能は不可欠である。これは以前も自分のnoteで紹介した通りだが、バーチャル世界で実在する当人が手続を行なっているのかを確認できなければ、その人の権利関係を変更することはできない。そのための仕組みが「認証サービス」になる。
次にその人が意思決定をしたことや、支払いをするといった行為をデジタル上で特定する機能が必要になる。「電子署名」や「電子決済基盤」がこの役割を果たす。加えて、デンマーク、エストニア等の北欧諸国などはデジタルロッカーという形で行政から情報を受取る機能も提供している。これらの機能は重複を避けるため、政府・自治体全体で一元化されるべきであり、もっと言えば民間にもAPI公開して活用可能にすることが望まれる。特にインドではIndia Stackと呼ばれる形で基本機能を国民に提供し、この結果として貧困層が銀行口座を開設可能になり給付が得られるようになったほか、デジタルアクセシビリティが高まり、社会全体のデジタライゼーションを加速した。

②アプリケーションレイヤー
各種行政手続を実施するためのアプリケーションは①があって成り立つ。①をAPI連携し、目的に合わせた行政手続のシステム化を進めることが重要である。しかも同じような手続を何度もスクラッチから作っていてはコストも時間も大きくかかってしまうため、開発したソースコードを再利用できるような管理体制や、クラウドリソースの管理などを戦略的に進める必要がある。シンガポールはこれをSingapore Governemnt Tech Stack(SGTS)と呼んで整備している。

③データマネジメントレイヤー
行政手続において重複したデータのやり取りを排除するためにはベースレジストリーと呼ばれる基本台帳の整備が必要であるほか、データ交換の機能や、システム間のデータアクセスの関係性をコントロールする機能が必要になる。この点はエストニアのX-roadが有名だ。 加えて、データ項目やデータ形式が標準化されていなければこれをやり取りすることはできないため、その標準化が重要になる。

④オープンデータレイヤー
行政サイドの手続などで得られたデータをCSVやAPI などで公開すれば民間企業やシビックテックの方がそのデータを元に新しいサービスを開発するといったことが可能になる。加えて政府が開発したソフトウェアでもオープンソースにすれば、それを市民が参画して改善していくといったことも可能だろう。

全体最適のために行政全体のシステムアーキテクチャーを考える

上記のようなスタックを整理した際にそれぞれのレベルで課題があり、これらを解決していかなければいけない。
①のデジタルIDと認証サービスについては、個人向けにはマイナンバーカード、事業者向けにはGビズIDがあるが、本人確認にハードルがある。これは④のレイヤーのベースレジストリーが政府内で連携していないことに起因する。公的に本人の情報を持つ行政機関のデータがカード発行事務を行う行政機関に共有できていれば、本人確認のスピードはもっと早くなるはずだ。
電子署名も商業登記電子証明書については取得の手続が煩雑であり、費用もかかることから十分普及していない。
電子決済についてもペイジーなどはあるがe-commerceやモバイルペイメントなどと同じレベルで標準化されたモジュールはまだ開発されていない。これらの基本機能をソフトウェアとして開発し、APIでシステムに組み込めるような形を作っていき、行政システムにも連携できるようにしていかなければならない。

②のアプリケーションについても多くの政府の行政手続は1つ1つITベンダーに委託する形になっており、行政組織内で共通の手続システムを開発していく工夫がなされていない。機能をモジュール化し組み合わせてサービスを開発する仕組みを作らなければ、抜本的なスピードアップできない。
農水省が進めるe-maffの取組みや、経済産業省の進めるgBizformの取組みなどはこうした事情を踏まえてローコーディングツールを活用している。
加えて、サーバなどのリソースもクラウドを活用しこれを管理していく仕組み作りが必要になる。ガバメントクラウドの動きはまさにこれを目指している。

③についてはベースレジストリーについて複数の行政機関が同じようなデータを取扱っている重複事務を廃し、1つの機関にユーザーから登録された情報を、他の行政機関がデータ連携して活用する形にしなければいけない。
加えてこれまで書面を中心として管理されてきた行政手続データは省庁間で記載方法やデータ形式も含めて標準化されているケースが非常に少なく、システム間で共有しづらくなっている。

④もユーザーからのフィードバックを得ながらユーザー中心のサービスを開発する上で重要だが、ほとんどの行政機関がそこまでの意識が醸成されていない。
データをCSVやAPIで公開することのメリットを理解していない行政職員がほとんどであるほか、ソフトウェアのオープンソース化の意味を理解している職員はさらに少ないだろう。

政府がデジタルサービスを作ればそれをユーザーが使ってくれると思っている行政機関が多いが、それは大きな間違いであり、使い勝手が悪ければユーザーは使わない。
ユーザー中心のサービスを効率的に実現するためには、データやシステムの機能を縦割りで保有するのではなく、APIを通じて政府全体で利用できるような形を目指すべきである。



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