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デジタル国家のあるべき姿とは? コペンハーゲンIT大学で学ぶデジタル政策(DX)


コペンハーゲンIT大学とは?

デンマークの大学院留学1年目後期は必要単位の半分を所属しているデンマーク工科大学(DTU)で、もう半分をコペンハーゲンIT大学(ITU)という別の大学の講義を受講しています。

大学間での単位互換や共通の申請システムによりかなり手軽に他大学の授業も受けられるのもデンマークの良さだと思います。

DTUに比べITUは大学は割と新しく、デジタル分野に特化しており、インタラクションデザインやソフトウェアエンジニアリング、ITマネジメントに関する研究が充実している、DTUとはまた違った雰囲気をもった大学です。

そこで私はDesigning Interactionsと Digital Stateという講義を受講しているのですが、今回はそのDigital Stateという授業のお話です。

デンマークはじめ北欧は公共のデジタル化がかなり進んでおり、個人番号の普及、電子署名、個人に割り当てられた電子ポストなど大体のやりとりはデジタルで完結されています。

そんなデンマークにおいてデジタルと国家がどのように捉えられているか?を学ぶ授業ですが、大きく5つのパートに別れて構成されています。

1. The State in Everylife
2. Motivations for Digitisation
3. Technologies of Digitisation
4. Global Comparisons
5. Scandinavians Studying the State

各授業ごとに授業前に課題図書・論文が提示されて、それを基にディスカッションが進むのですが、分量が多く準備が結構大変です…

個人的に日本との違いとして感じるのは人類学やユーザー中心のデザイン思想が根付いていることです。実際に授業でもJames C. Scottをはじめとする人類学の書籍や論文を読んだり、技術的な側面だけではなく、国家と市民の関係を基にデジタル政策のあるべき姿を考えていきます。


日本のデジタル政策

日本ではDXというと、「イノベーション」や「効率化」といった技術や経済的側面が強く押し出されていますが、デンマークではあくまで市民の生活をより便利に、暮らしやすく、そして文化をより豊かにするためにどうするかを、市民参加型の仕組み作りによって実現しています。(近年は北欧諸国も新自由主義的側面が強くなっていますが…)

例えば日本のデジタル政策が記載されている「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」では「国民の利便性」や「効率化の追求」、「人にやさしい」といった言葉が並ぶものの、機能中心的であり市民にとって使いやすく、効果を実感できる仕組みをどのように作るために何が必要か、どのようなプロセスが必要か、はあまり語られていません。


デンマークのデジタル政策

一方で、デンマーク政府が2016年に発行した2020年までのロードマップとして提示しているDigital Strategy 2016-2020はこちら。

個人的に特筆すべき点は、まずデジタルソリューションは使いやすくあるべき、ということを最初に挙げている点、そしてどのように市民によって扱いやすいサービスにすべきかに言及されている点の2点です。

まず、デジタルソリューションのあるべき姿として、以下のように述べられており、デジタルソリューションが使いやすく、人々の生活をより便利にしなければならないことが明言されています。

"デジタルソリューションは使いやすく、迅速で、よく行き届いたものであるべきである。公共部門は、質の高いデジタルサービスとデジタル福祉ソリューションを提供しなければならない。デジタル化は、生活を便利にし、人々の自立を容易にし、公共サービスの質を向上させるものである。
"Digital solutions must be easy-to-use, quick and ensure high quality
(...)The public sector must offer high-quality digital services and digital welfare solutions. Digitisation should make life easier, make it easier for people to help themselves, and improve the quality of public services. "(p.14)


さらに、ユーザージャーニーに即したサービス設計を行うことで、よりサービス利用者にとって使いやすいデジタルソリューションを目指すことを述べています。

"市民や企業は、サービスを利用する際、より使いやすく、包括的なサービスを受けることができる。例えば、離婚や起業など、特定のユーザー・ジャーニーに取り組むことで、より簡単で分かりやすいセルフサービスのプロセスを実現できるだろう。"
"Citizens and businesses will experience a more user-friendly and coordinated service when their need for service goes across digital solutions and authorities. Work on selected user journeys, for example divorces or business start-ups, will secure easier and more straightforward self-service processes." (p.24)


おわりに

以上のように、市民にとって使いやすいソリューションとは?どうやってそのソリューションを実現するのか?が国家レベルでも考えられているからこそ、リアルな生活に基づいた使いやすく有益なデジタルソリューションを実現しているのでしょう。

ちなみにデンマークのデジタル化の成功において「信頼」というキーワードもあるのですが、それはまた今後機会があれば書きたいと思います。

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