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弱点が分かれば、経営戦略論は役に立つ


大学の恩師からお声がけしてもらい、大学時代所属していたゼミ生向けに、「経営戦略論と実践」というテーマで話をさせてもらう機会をいただきました。

その恩師は、ちょうど、先月が退官ということで、何かしらの恩返しをできる機会をもらえたことがうれしかったです。(ぐうたらな大学生活を送っていた私に、学ぶこと、考えることの楽しさそして多面的なモノの見方を教えてくれたのが、その恩師でした。)

何を話そうかなと考える中で、学んできたことを振り返るキッカケになったので、今回のnoteはその振り返りの一部を紹介しようと思います。


経営戦略論って役に立つのか?


私の専攻は経営戦略論だったのですが、大学生であるゼミ生に話をする上で、経営戦略論について当時、どう考えていたかを思い出してみることにしました。

経営戦略論に関する認識の推移
スゲー!!(大学2回生)

実際には役に立たないんじゃないの。(大学5回生)

役に立つ方法が分かる(今)
*多分、これからも認識については、学びながら変わっていく。。。 

大学2回生でゼミに入ったときに、優秀な先輩たちがいっぱいいました。先輩たちの姿を見て、これはすごい。ビジネスを成功させる方法というものがあるんだと思いました。

ですが、学びが進むにつれて、戦略論はどれも正解となるものはないし、頭がいい人が良い戦略を描いても失敗する会社なんていっぱいあるし、実務では、役に立たない学問じゃないのかと感じるようになりました。

そんな学生時代に対して、
今は、多少は戦略論を役に立たせる方法が分かります。

その過去の振り返りをもとに、下記のポイントをゼミ生に、具体的なケースとともに話をしました。

・戦略論がなぜ役に立つと思ったのか?
・戦略論がどのように役に立つのか?
・戦略論が役に立つ可能性をどう上げることができるのか?


経営戦略論に対するそもそもの疑問


本題に入る前に、そもそもの疑問に答えておこうと思います。
経営戦略論なんて学んでなくても、成功している経営者はいっぱいいるんじゃないの?だから、"経営はセンスではないのか?"という疑問もモチロンあると思います。

たしかに、センスの世界があることも事実です。

詳細は後述しますが、経営戦略論を学ぶことは世の中を見る1つの手段に過ぎません。センスがある人はあるがままにその世界を捉え、自然に考えることができます。

経営センスの塊として尊敬してやまない元セブンイレブン会長の鈴木敏文氏の著書ではこう書いてありました。

わたしは2004年にアメリカのハーバード・ビジネス・スクールとイギリスのケンブリッジ大学に招かれ、MBA受講生を相手に講義を行う機会がありましたが、世界的に有名なビジネススクールでも「営業」の授業はほとんどないようです。
それは、「売る力」を説くのが難しいからではなく、常に「お客様の立場で」考え、「当たり前」のことを当たり前に実行するという実にシンプルな原理に行き着くからではないでしょうか?

このように、目の前の世界をあるがままに(当たり前に)見て、考え、実行できるセンスがある人は学ばなくてもできます。経営は当たり前のことを当たり前に考えて、実行していくだけだからです。

しかし、世の中はそんなセンスに恵まれた人たちばかりでしょうか?

私は、よほどセンスに恵まれた人でない限り、経営戦略論を学ぶ意味はあると思います。なぜなら、戦略論を学ぶことはモノの見方のバリエーションを増やすことにつながり、センスに対抗する手段になりうるからです。

また、実際に現場にいる感覚で申し訳ないですが、本当の意味で経営戦略論を学んでいる人は非常に少数だと思います。そういった意味でも、経営戦略論を学ぶ意義は大きいと思います。


なぜ経営戦略論は役に立つと思ったのか?


遠回りしましたが、本題に入ります。

経営戦略論が役に立つと思うようになったのは、逆説的ですが、経営戦略論の弱点を体験したからです。

自分自身の失敗談として、以前のnoteにも書いています。

私はアメリカ勤務時代に、買収後の統合(PMI)そして立て直しの担当をしていました。その当時、経営陣や私が描いていた戦略の絵というものは悪くないもので、狙いとしてはどちらかというと良いものでした。ですが、2つの理由で大きな失敗をしました。

1つ目は人に対する理解です。実行できる人がいないもしくはメンバーのモチベーションが欠ける場合は、良い戦略があっても、もちろん、実行されることはありません。(補足すると、モチベーションは、納得性、やりがい、メンツ、プライド、好き嫌いなど、人間的なものにより、大きく左右されます。)

戦略と実行に乖離が出始めると、様々な弊害が発生します。これが、良い戦略をマイナス2万点の戦略に変える大きな理由の1つです。

2つ目は良いストーリー(戦略)に対する単面的な理解です。良いストーリーは心地よいものです。ものごとを見るときに、人の性質として、長所(もしくは短所しか)しか見えないものです。また、良いストーリーは納得できる分、容易に思考停止し、ものごとの単面的な理解にとどまってしまいます。私自身、その当時、良い戦略だと信じこんだ結果、打ち手の長所しか見えず、その裏にある大きな短所を見逃し、失敗しました。気をつけないといけないと自分で思いながらも、固定観念を拭い去ることは難しいことです。

この2つの失敗に共通しているのは”人”という要素です。

このように、経営戦略論の弱点は、”人”という要素をうまく捉えることができないことです。

この弱点を実際に体験し、戦略論が失敗する主因が分かったことで、経営戦略論を実践で役に立たせることができると思うようになりました。

どのように戦略論は役に立つのか?


思考の引き出し(本質をたどるための)として役に立ちます。違う言葉でいうと、多面的にものごとを見る手段として使います。(実は、大学時代の恩師が言っていた言葉にそのまま立ち返っています。*サムネイルの言葉)

経営における基本的な疑問
・どう儲けるのか?
・他とどう違うのか?
・価値をどう生み出せるのか?
・今後の拡張性は見えているのか?
・他とどう違いを作っていくのか?
・実行できるチームメンバーはいるのか?
・市場の他のプレーヤーからどう見えるのか?
・キレイなストーリーになりすぎていないか?
(うちだからこそできるストーリーになっているか?)
....などなど

経営戦略論のフレームワークはこのような基本的な疑問に対して、考察をすすめてきた結果がベースになります。このような基本的な疑問が、本質をたどるための思考の引き出しになるのです。

エアコンのサブスク事業を弊社ではやっていますが、エアコンの所有権を顧客に移すか移さないかで議論になったことがあります。この違いだけで、戦略自体が大きく変わります。

アフリカでは、所得が低い人向けには、需要はあるものの、売り切りでは、売れない商品があります。例えば、未電化地域では、ソーラーパネルとテレビがセットで割賦販売されたりします。3年ほどの支払いを続けることができれば、所有権がお客さんに移るというビジネスです。我々に似たようなビジネスは、こういった割賦販売が主流です。

一般的に、お客さんは所有権を欲しがるし、ビジネス的にも所有権をお客さんに移してしまったほうが、管理が楽だからです。これだけを考えると、類似ビジネスと同様、所有権をお客さんに将来的に移すということがベストな選択なように思います。

戦略論の観点から、この状況を捉え直すと、違う風景が見えてきます。

・本当の価値を生み出すものは何なのか?
⇒お客さんが涼しい風を電気代が安くかつ故障を気にせず、使えること。
・他社との違いは何なのか?
⇒省エネで耐久性の高い商品をもっている。
⇒工事担当のエンジニアを育成できる人がいる。
・安物を売っている他社が嫌がることは何なのか?
⇒価格で勝負されること。所有権をキープすれば、サブスク価格をより安くできる。(手間をかけずに、価格勝負しているのに、手間のかかるビジネスを安くやられるのはイヤだ)

これは一例ですが、戦略論を思考の引き出しとして使えば、似たようなビジネスはこうやっているという単面的な見方からでは見えないより解像度の高い選択肢を提供してくれます。(実際は、これだけではなく、もっと色んな視点で見ながら、戦略企画をしていますが。)

余談ですが、ただケーススタディを頼りにするよりも、本質をじっくり思考した上で、戦略を企画することはワクワクして面白いです。

ゼミ生に伝えたかったこと


今まで書いてきた話をまとめようと思います。
経営戦略論を実践的なものにするために、大事にしていきたいポイントを整理します。

1. 経営は人の営みなので、人に対する理解が重要。
戦略と人はセット。実行する人がいない戦略はマイナス2万点。また、戦略を実践するのは人。人を理解した戦略はより実践的なものになる。

2. 戦略論は多面的にものごとを見るツールの1つ。
ありのままの姿を捉えることからスタート。ものごとをみる視点はいたるところにヒントがある。戦略論以外にも、日々の体験や自分とは異なる体験をしている人の知見も大事。

3. 実践の中で、多面的なものの見方をどんどんアップデートしていくこと。
実践から見えるものを大切に。意識するかどうかで大きくものの見方が変わってくる。つまり、実践の中で、自分が見えていなかったことを感じて、言語化していく意識が大事。

少し堅苦しい話になりましたが、企業経営だけではなく、普段の企画づくりや、自身のキャリア選択などでもこの考え方は使えると思います。

私自身、大学時代に、所属したゼミで、優秀な先輩、同級生、後輩を見て、これは日本では勝負にならないわ。と諦めました。そして20代のほとんどを海外で過ごし、勝負から逃げ回りました。(今はアフリカに逃げています。笑) まずは、"学んだことを実践し、実践の中で自分のモノの見方をアップデートしていく"ということが大事だと思います。

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