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東京コロナストーリ―

新しい生活、新しい飲食店

物件の契約終了までは、申告して半年位かかるのはざらである。

30万の家賃なら、180万ないとやめられない。

スケルトンに戻すなら、さらに工事費がかかる。

カツカツの営業している俺の飲食店に、それほど金はない。出ていく額が、サラリーマン家庭とはケタが違うからだ。頭の上でお金が、通り過ぎていくだけでなかなか降りてこない。

例えば、ガス代10万、電気代5万、水道2万、家賃に駐車場代30万に人件費20万!さらに原料の仕入れが、80万とすれば・・・

全部払ったら、さて、自分の給料はどれだけ残るのか。

まさに主要都市の経営者は、露頭に迷っている。コロナウィルスで先が見えないからだ!

家内がいる飲食業は意地だけで営業する。

続けるも地獄、やめるも地獄である!

50万、100万の協力金も、あっという間に消える!

飲食店の悲鳴が、聞こえる。もうだめかも!

無金利の借金をして、営業を続けるのか?

店を閉めるにも、金がかかる。

従業員の生活など、一体どうすれば?

そして、その状況は全国へと、広がる。朝から晩までテレビが放送し、店に行かなくなる。

修行をして、お金を貯め、お金を借りて、自分の描いた店を造る!場所探しに、半年以上かけ、街のリサーチも欠かせない!

人通りはどうか?平日のランチの客層は?

週末はどうかな?サラリーマンはくるだろうか?

駅からの人の流れや!行動目的はどうだろう!

納得いく場所が決まったら契約だ!

立地で今後の大半が決まる!

坪数や客席に、厨房の広さ。換気システム、エアコンの馬力に、グリストラップ。イメージをデザインし!夢が膨らむ!

メニューや客単価を決め、必要な、厨房設備を考え、

図面を作ってゆく!そうしている間も、契約金を支払い、前家賃は発生している!

図面やデザインができ、新築工事の始まりだ!

工期はなるべくスピーディーに!

掛け持ちで、やられると倍の工期がかかりオープンが遅くなる。その間も、家賃が重くのしかかる。

保健所がきて、看板がついたらいよいよだ!

レセプションをしてオープンだ!

あとは日銭商売だ!自分の裁量才覚で、生きていかなくてはならない。

誰も給料は、払ってくれない。

自分で稼いでいくことになる。孤独に背筋が、ゾォッとする事もある。

飲食店は、開店するのは大変だ。

しかし、続けることはもっと大変。閉店する事は、さらに大変である。簡単にはやめられない。

まさに、一世一代のギャンブル

大半の人が負けていく。

そんな時に矢先に起きたコロナ騒動!

人が集まる場所には、休業要請!繁華街は、みるみる人が減り、飲酒は19時までの提供にせよと。

「サンミツ、サンミツ、サンミッツ!」

うるさいよ、もう!坊主の説教か!

飲食店は密集空間という理由ももちろんだが、廃棄する生ゴミとウイルスが、カラスやネズミといった害獣達が周りの町に運ぶからという理由もあるらしい。

そんな理由からか、飲食店やパチンコ屋には「コロナウィルスが身にまとう」そんな重苦しい恐怖がしばらく町全体を覆うようになった。

日銭商売の飲食店は、休みも返上して営業するか、休業するかを強いられる。休める体力のある飲食店は、どれくらいだろうか?俺はまだそれとも、開けていても、客が来ないからといって休むのかと副業を考え、タウンワークや求人ジャーナルと睨めっこを始めた。

近所のコンビニで働いていた中国人の女の子もいなくなった。帰国命令があったのだろうか・・・

片言の「ありがとうございました」もついに聞けなくなった。

飲食店の悲鳴が聞こえる!飲食業だけではない。

芸能界!観光業!製造業にいたるまでパニック状態だ。

コロナウィルスよ、どこへ行く!

世界恐慌の時代を彷彿するかのようだ!

ある時、志村けんがコロナにかかって病死したというニュースを聞いた。ワイドショーでいっていたが両親共感染した場合、現状では、各家庭で対応するしかないという。ベビーシッターはどうなるのか。医療崩壊は起きてないのか。

自粛生活のためにずっと家にいると、だんだん不安になってストレスが溜まってくる。

みんなイライラしているのだろう。

ネット上でかつてないほどの罵詈雑言が駆け巡る。

俺は暫らくワイドショーやネットを離れてそれまであまりしなかった読書にいそしむことにした。

Amazonのオススメにでていたのでジャレド・ダイアモンドの「鉄・病原菌・銃」を読んだ。

なるほど人口が多ければ多いほど病原菌に弱いが、一方で抗体が付きやすいらしいとのこと。中国が最も早くコロナが鎮静化したのはそのせいかもしれない。

日本も綺麗なイメージがあるが、終戦直後は日本は非常に不衛生で、チフスにシラミ、コレラに天然痘など、伝染病が蔓延した。GHQは、DDTを空から散布したり、人々の頭から散布したりして、終息していった。

・・・

まさにいま世界中で戦争が起きている!

生活必需品の店は営業しているけれど、何となく非日常に少しずつ浸されていく。

家に帰って、捌ききれなかった乾麺の入った段ボールを眺めていた。

ユーチューバーが「部屋で過ごしましょう」とよびかけて、劇場の公演も、スポーツクラブも!オープンカレッジも!コンサートも!映画の配給も!何もかもがオンライン!

そういえば某居酒屋のテレビCMも部屋の中で美味しそうにビールを飲んでいるのに差し替えられているのに気が付いた。

オンライン文化のおかげかしばらく前から回線が混んでいる。時間帯によっては、画面がすごくカクついてイラつく!

もっとも読書をし始めたきっかけがこの遅延であるから、今となっては後悔していない。

ともあれこのまま無為に自粛を続けていては飲食店の収入がゼロ、いや家賃や経費を払うからマイナスである。

デリバリーやクラウドファンディングで知恵を絞って何とかマイナスを減らそうとしたりはしているが、何せ世界中が不況なのだ!日本だけではない。アメリカも!中国も!ヨーロッパも!中東も!他のもろもろの全ての国の経済が一気に冷え込んでしまった!

みんなの出せるお金にも限りがある!

先の見えないコロナでの恐怖にお金は使いたくない、というのが人の心理というものだ。

コロナで失業してカップ麺や野菜を盗んだ強盗犯が逮捕されたらしい。その気持ちが痛いほどわかる。緊急時にはだれしも自分や家族を守るのに精いっぱいなのだ!

いかんいかん、気持ちが滅入っているときにネガティブな情報をめぐるのは良くない。

飲食店は、最悪、何かしら食べ物があるから、飢えはしのげるが、資金繰りがつらい!

客が来なければ、金が出ていくだけだ!

心機一転、窓を開けてベランダにいく。

フー・・・

空気が美味い。

幸い外出禁止や自粛の効果か、世界中で空気がきれいになってるらしい。

最近筋トレを始めて禁酒喫煙をしたためか、味覚が良くなっている気がする。

うん、まだ大丈夫だ。

しかし、一日中スマホばかり見ているせいか目が疲れてしょうがない。

医療についての知識はついたが、果たしてこれが程度正しい情報なのか、ネットがこれほど発達した今の世でも答え合わせを教えてもらえない。

人生の正解はネット上にないようだ。

渋谷の交差点の人通りはだいぶ少なくなったようだ。

人通りの少ない交差点に普段なら物寂しいと思うところだが、安心している自分に何だか不思議な感情を覚える。

ヘリの騒音が聞こえる。ここのところ毎日のようにきている。

ドクターヘリで感染者が運ばれているのだろうか。

外出先でも何でもないことが不安に思えてしょうがない。

『外出をもっと減らせ。もっと減らせ』と催促するように

「うるさいな、買い物が終わったら帰るよ!」

俺のストレスは通帳にお金が入らないと根本の解決にならない。

緊急事態宣言の対応で分かったのは、政府が「頑張ろうニッポン」「コロナに負けるな」と声を上げてもほとんどの国民は政府を信用していないということだ。アベノマスクも、唐突に始まったり、不良品、不衛生だったり、受注業者との癒着が怪しかったりのゴタゴタで、肝心な事が先に進まない。

まったく、気分転換に外に出たのに余計に考えが巡ってしまって、却ってイライラしてしまう。言いたいことは山ほどあるが、これ以上ストレスをためるのは良くないな。

・・・閉店しよう。

うん、それがいい。

飲食店は開店するのは大変だが、継続するのはもっと大変だ。

だが、辞めるのは、さらに大変だ。

チェーン店が複数店舗の内の一つを閉めるのとは、わけが違う。

人生の岐路だ。悩んで当たり前だ。

救世主は表れない!

これからの生活。落としどころを考える。

俺は暫らく目先のことはマスクを作って、日銭を稼ぐことにした。

指先を動かす単純作業はストレスの解消にもつながる。家族や親戚に配り、買いたい人は弁当とセット販売して口コミで取り上げられるようになった。

一方で自粛中にみていたユーチューバーに憧れ、動画投稿を始めて、収益化を目指したが、こちらは上手くいかなかった。まあ素人が一人でとっているので、当たり前といえば当たり前だ。

もちろん借金返済には到底及ばないが、とにかくがむしゃらになってそれ以上は考えないようにした。

仕事を失うとか、家賃に困るとかはよりも、自粛生活による日ごろのストレスから解放されたい。とにかく病気になってしまったら基も子もない。

体が大事である。最近は睡眠もしっかりとって、一層健康に気を遣うようになった。

健康っていいな!

後編に続く




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