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人生悪役たち

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記事一覧

詩「人生悪役ⅩL」最終回

2021-01-28

十年の拘束から解放されたタヌキは
とぼとぼと 力無く歩いている
長い 永遠に続くような 廊下を抜けて
鉄格子の向こうから 所持品を返される

絶望の穴蔵から 這い出ることが出来る
ブザーと共に 高い塀のゲートが開き 眩しい太陽を見る
足がすくんで仕方ない
深呼吸をしながら ミリ単位で進む

外は 穏やかな気候で
陽の光は タヌキを明るく照らしている
それでも タヌキは不安で

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詩「人生悪役ⅩⅩⅩⅨ」

2021-01-27

おそらく 見たことのない『彼』が迎えに来るまで
タヌキは 自分の記憶の中の彼を思い出していた

やっと記憶の欠片を見つけると
その姿を 再び白い壁に映していた

白い壁は タヌキが気の毒で仕方なく
涙が止まらなくなってしまった

その結果 酷い結露が起こり
掃除をしなければならなくなった

タヌキは 白い壁の下に置かれた雑巾で
床と壁を磨いてみた

擦ると 床にも壁にも

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詩「人生悪役ⅩⅩⅩⅧ」

2021-01-27

タヌキは 手当てをされると自室に戻った
一人一つの小さな部屋の中
白い壁に見守られながら
高熱と痛みに耐える日々を過ごした

男は 腹いせにタヌキに暴行を加えた
施設長は 男に前任者と同じ罰を与えた
無理矢理 狂人と化すことになった男は
次の日から 監視される側に回った

それから タヌキは厄介者として扱われ
施設を出るまで 自室に閉じこもることになった
接触した者に暴力衝

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詩「人生悪役ⅩⅩⅩⅦ」

2021-01-27

タヌキは その時 彼がどのメーカーのコーヒーを飲み
どんな漫画を読んでいたか思い出せなかった
しかし 彼の顔ははっきりと見えた
声も 煙草の匂いも しっかりと捉えられた

(これは どっちなのだろうか?)
常にタヌキはそう考える
(現実だったら良かったのにな)
常にタヌキはそう願う

まるで ゲームの中のドットの世界だ
彼の顔だけは リアルに浮かんでいる
男は ぼーっとして

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詩「人生悪役ⅩⅩⅩⅥ」

2021-01-27

「さて あなたを迎えにくる人物ですが
 この名前に覚えはありますか?」
男は一枚の紙をタヌキに差し出す
「いや この名前…」と タヌキは悩む

見覚えがあると思いたかった
だが 彼は全くわからなかった
「見たことあるような…
 ないような…」タヌキが呟くと 男はため息を吐く

「まあ 無理もないでしょう
 十年間もここにいたのですから
 あなたは この人の元に行きます
 こ

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詩「人生悪役ⅩⅩⅩⅤ」

2021-01-27

白い壁は タヌキを見つめている
タヌキも 白い壁を見つめている

白い壁は 彼のことを知っている
タヌキの記憶を 映し出されたスクリーン

ネズミもリスも サメもシャチも知っている
キツネもフクロウも知っている

会ったことがない人物は
顔を思い描く

なので 白い壁は
サメとシャチとキツネは ぼんやりとだけ知っている

壁はタヌキに同情する
多くのものを失ったと

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詩「人生悪役ⅩⅩⅩⅣ」

2021-01-27

タヌキは施設内の運動場のベンチに座っている
周りでは 他の収容者たちが遊んでいる
走り回っている者 バスケットボールを投げる者
そんな者たちに囲まれて タヌキは高い塀を眺めている

雀が飛んでいる 烏が飛んでいる
鳴き声が会話に聞こえる タヌキは彼との会話を思い出す
全てがはっきりと思い出せる
これが 本当に存在しなかったものだったら?

そう考えて タヌキは恐怖を感じる

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詩「人生悪役ⅩⅩⅩⅢ」

2021-01-27

「本当ですか? 彼が 本当に?
 僕を迎えに来てくれるんですね!」
タヌキがそう聞くと 男は頬杖をついて答えた
「まあ そうですね あなたはここを出れます

 ただ はっきりとさせておきたいことがあります
 あなたは 強い妄想に囚われている
 十年前 あなたは道端に倒れているところを発見され
 この施設に保護されました

 恐らく事故か何かに巻き込まれて
 記憶が曖昧になっ

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詩「人生悪役ⅩⅩⅩⅡ」

2021-01-27

「うーん どうですかね先生
 タヌキさんは 良くなってますか?」

「いや ちっとも
 ただ 危害は加えないとは思うよ」

「そうですか…
 8年ほど昔 職員に暴行を加えまして」

「それも 薬で緩和されているみたいだ
 抑制が効くなら 近親者に面倒を見てもらえるかと」

「はあ…でも彼は信頼出来ますか?
 タヌキさんの近親者だと言ってますが 絶対に違う」

「大丈夫だよ

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詩「人生悪役ⅩⅩⅩⅠ」

2021-01-27

「それで…」男はメモを止め
「あなたと彼は 兄丸組のトップになったと」
タヌキは モジモジしながら
「はい そうですよ しっかりちゃんと覚えてます」と答えた

「大変だったでしょう? そんなに簡単にいくわけがない」
男はメモを再開した
「ええ まあ でも僕には ヒグマがいましたから」タヌキは落ち着きがない
男は聞いた「ヒグマ?」「ええ 僕のことです」タヌキが答えた

「頭の

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詩「人生悪役ⅩⅩⅩ」

2021-01-27

それからというもの
逃亡する場所もなく 迷った二人は
街の事務所に戻り フクロウの部下たちに会いに行った
事務所に入るなり タヌキはこう呼びかけた

『てめえらの頭は取った!!!
 お前ら!!俺に殺されたくなけりゃ
 俺の下で奴隷のように働け!!!
 出来るやつには 金をくれてやる!!!』

殺気立ったフクロウの部下たちだったが
ヒグマのようになったタヌキに三人が殺されると

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詩「人生悪役ⅩⅩⅨ」

2021-01-27

彼は タヌキに連れられてフクロウの車に乗った
タヌキは もう元のタヌキに戻っていた
死を回避したことを喜ぶ前に
大きな謎が 彼の頭の中を旋回していた

「なあ 本当に何も覚えてないってのか?」
彼はタヌキに聞いた タヌキは頭を抱えて
「はい 何も覚えてません
 フクロウさんを殺してしまいました」と答えた

「まあ 殺されるところだったんだ
 良かったんじゃねえか?」と彼が言

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詩「人生悪役ⅩⅩⅧ」

2021-01-26

肩がわなわなと震えた
その気迫で タヌキが縛られていた木に止まる鳥たちは
一斉に逃げていった
フクロウは ナイフを構えながら警戒した

ロープは簡単に引きちぎられた
同時に フクロウはナイフをタヌキに投げた
タヌキはそれを素早く避け
フクロウの腹を思い切り殴った

数メートル吹っ飛んだフクロウは
着地と同時にナイフを投げた
タヌキの膨れ上がった腕で弾き返され
ナイフは彼方へ

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詩「人生悪役ⅩⅩⅦ」

2021-01-26

タヌキは サメとシャチのように
木に括り付けられた
しかしフクロウは 両手両足に
ナイフを刺すことはしなかった

ロープで締め付けられた手首と足首が
木を一周回って 縛られた
彼は手錠をかけられたまま 這いつくばっていた
(ちくしょう…どうしたら良い!?)と考えながら

「フクロウさん ありがとうございます」
タヌキは微笑んだ フクロウは目を逸らし
「彼はね… 友人があまり

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