見出し画像

メモ書き シェイクスピア「ヴェニスの商人」 物語構造の二類型

金を必要とするのはバサーニオだが、アントニオがシャイロックから金を借りる。

Bに急な資金需要が生じるが、Bが直接に他者から融資を受けるのではなく、Bと密接な関係にあるAが奔走してCから融資を受ける、あるいは受けようとする。それゆえに何かが発生する。

夏目漱石の『それから』では、金を要する三千代は代助を頼り、代助は誠吾などから信用供与を得ようと苦しみながら駆け回る。

同類型が事件の背景枠組みをなす最高裁昭和37年8月10日判決(民集16巻8号1700頁)。



「放蕩息子」類型で見れば、放蕩息子たるバサーニオが、芸妓ならぬ貴婦人ポーシャを得ようとし、必要な資金を確保するために、奴隷ならぬ無二の友アントニオが奔走する、ともいえる。

アントニオが手練手管を弄し(実際は古代ローマ貴族風生真面目さで)、騙され役たるシャイロック(実際は復讐心からの陰謀込み)から金を引き出し、これを使ってバサーニオが見事ポーシャの心を射止める、となればハッピーエンドの古典的喜劇である。

ところが、アントニオ・シャイロック間に見過ごせない毒があり、この解毒を巡ってポーシャが円環を閉じようとするかのようにヴェニスに渡り、変装(つまりは演技)により高度な言語活動を展開し、信用供与の手段役アントニオ(つまり物語起動因たるバサーニオへのガソリン源)が救出される。環が閉じる。

結果、この法廷において(一応キリスト教徒側からすれば)文化が華開き、これは結局バサーニオのspeculationないしVentureに起因するがゆえに、開化はやはり放蕩息子がもたらす、ということになろうか。



参考文献
・シェイクスピア(安西徹雄 訳)『ヴェニスの商人』光文社古典新訳文庫,2007.
・木庭顕「夏目漱石『それから』が投げかけ続ける問題」『憲法9条へのカタバシス』所収,みすず書房,2018.

2024.6.17



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?