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2023年年明けから、デザイン好きなら一度は見たことのあるグローバルブランドの照明を月代わりでL&D Lab.に展示している。いま、6月だが、ちょうど5月の連休明けからの照明をレイアウトしているアルテミデは、イタリアを代表する歴史あるブランド。思いは色々あり語り始めたらきっと文字数がすごいことになりそうだが、まずは展示している照明を改めて一点づつL&D 視点で解説してみたい。
photo : Takumi Ota Photography Co., Ltd.

PIRCE 
ダイニングテーブルの真上にワイヤーで吊っている。調光は、ルートロンのPowPak(パウパック)を使用

PIRCE

ピルチュ(ェ)と読むようで、デザインはGiuseppe Maurizio Scutellà
イタリアのインダストリアルデザイナーだ。このシーリングライトは2008年に発表され、その後ロングセラーが続いている。ただ、意外にこの製品がアルテミデの照明だという、わかりやすいアイコンではないと思う。現に私も、そんなに詳しくは知らなかったくらいなので恥ずかしいのだが。
このライト、すごく光がきれいに空間に反射光として広がる。見ての通り、直下光ではなく、アッパーの間接光なのだ。このように真下に光が落ちてこない照明はルイスポールセン のPhランプなどでもお馴染みで、ランプシェードに複雑に光が反射して照明自体を彫刻のように陰影づける。そして、光が上に半月を描くような方向に広がっていく。このPIRCEもそうだ。インダストリアルだなと思った点は、このシェードはアルミの一枚板で、レーザーカットしてあるだけで上に引っ張るとこのように伸びて立体になる。要は、取り付ける前、取り付けた後に梱包する時にはフラットになるのだ。サイズも、大中小とあり、L&D Lab.に展示したのは大で、直径が約1mほどあるタイプ。天井が高いところで映える。調光も可能だ。LED44wのパワーがあるが、この間接光であることで、グレアもなければ、光の強さもさほど感じない。よく、光の彫刻という言葉を聞くが、まさにこのシーリングライトも光の彫刻の仲間だと思う。


Tolomeo

Tolomeo

アルテミデと言えば一番のアイコンは、これではないか。
Michele De Lucchi デザインの名作だ。説明、解説なんていらないくらいの存在。世の中数多あるタスクライトで、このTolomeo(トロメオ)を超えるものはあるだろうか ? 
・デザイン
・機能
・光のバランス
どれをとっても、タスクライトでは世界一だと個人的には思っている。展示しているフロアライトで言うと、バネとワイヤーの伸縮、円形のベースの重さ、灯具の向きを自由に変えられるバー、ランプシェードの深さ、どの点をとっても絶妙なバランスが優れている点だ。今では、サイズも色のバリエーションもかなり増えてきているが、それこそニーズの現れだ。タスクライトのキングオブキングと言ってもいいかもしれない。好みではあるが、放つ光はやはりまだ白熱の方が心地よいのだが・・。と言うのは、タスクライトだから、基本手元を照らしたり、本を読んだりと「タスク」に必要なライトなのだが、もし光の色が温かい光だと、お茶もしたいし、ワインも飲みたい気分になるからだ。きっとこれからもずっと王者の地位は揺るがないと思うが、LEDにしたときの光質だけ、、、もっと改善していってもらえたら、、切に。

Tizio
石油掘削の装置からインスピレーションを得たというデザイン

Tizio

Tizio(ティチオ)もアルテミデといえばと「これっ!」というライトだ。自分の中では、トロメオに次ぐ名作だと思っている。デザインは、Richard Sapper 
1972年からのロングセラーだ。これが特に優れているのは、見ての通り視界に入っくる器具の中心部に電源コードが無く、どう点灯しているのか ?と言うとアームの接合部の金属部分で通電しているのだ。この3月にアルテミデ・ジャパンの新ショールームオープン時に来日していた現在のCEO、カルロッタさんがとても詳細に説明してくれて「Positive Negative」と。要はプラス(+)とマイナス(−)の接点で点灯する、とてもシンプルな構造。LED化もしているようだが、やはり展示しているローボルトハロゲンが美しいのだ。
ティチオを愛でながらチーズとワインで過ごす時間も粋なものである。


右上 : YANZI T  左下: Eclisse


YANZI

建築ユニットNeri & HuによるデザインのYANZIは、ツバメのイメージがあるそうだ。確かに"鳥"を想起させるデザインだ。これは、ペンダントライトや他にもバリエーションがある。今回はテーブルライトを展示している。アルテミデ独自開発のスイッチで、スムーズに調光もできる。光の質も、CRI90だ。
L&D的にLab.に展示する照明は基本的なCRI90以上と決めている。空間にベースとして配置している照明の光質が演色性(太陽光を100と捉え、そこにどれだけ近づいているかの指標)を95以上のものにしているので、できるだけ差がない光質の器具を選んでいる。

Eclisse

イタリアの巨匠Vico Magistretti デザインの名作照明だ。これは、MaMAのパーマネントコレクションにもセレクトされていることでも目にしたことはあるのでは無いだろうか。月の満ち欠けのようにランプシェードを動かすことで、光の表情を変えられる。1965年から発売スタートしているという半世紀以上も愛されているライトだ。これが一つ空間にあるだけで、緊張感が和らぐ。当初、このライトは展示予定していなかったのだが、1ヶ月近く経ってみると、L&D Lab.の中で、物言わぬアルテミデのブランディングディレクトのような存在になっている。


Curiosity 

Curiosity

ポータブルライトはいまや、照明の確固としたカテゴリーだ。多くの照明ブランドには必須アイテムになってきているが、アルテミデからもいくつかのポータブルライトが発表されている。その中から、セレクトしたCuriosityはDCUBE designの創設者、davide oppizziのデザインによる。このポータブルライトは、自由度と予測不可能なバランスさえも良い意味で思い浮かぶのだ。照明としての機能と、ディスプレイができる副産物的な意味もあるが、光そのものの役割、意味がこのライトにはある。そこに光、明るさがあると人が気づくのは、光が当たった対象物が視界に入ってきた時である。このライトも上部の光源がONされただけと、そこに"もの"が置かれた時とでは印象が違う。何もないフレームの中に絵があることで、見る価値が生まれるように、光の存在は対象物があって初めて伝わってくるのだから。


IN-EI ISSEY MIYAKE "Mendori" 

IN-EI ISSEY MIYAKE "Mendori"  

見る角度によっては巻貝のようにも見えるが、実は、真正面から見ると雌鶏(めんどり)なのだ。三宅デザイン事務所の研究開発チーム Reality Lab.による再生素材を使用したプロダクトの一つだ。IN-EI というように、日本の美意識の骨頂ともいえる谷崎潤一郎の名エッセイ"陰翳礼賛"、そして、イサム・ノグチのAKARIへのリスペクトがネーミングと製品のコンセプトに含まれている。故・三宅一生さんとReality Lab.のものづくりにかける情熱とプロフェッショナルなデザインの力、そしてアルテミデの開発力から生まれた現代のAKARIであり、"陰翳礼賛"だ。

紹介の後で

今回、アルテミデ・ジャパンの協力、ルートロンアスカの調光器協力もあり、L&D Lab.は、ガラリと印象が変わった。名作照明ならなんでもというモチベーションで展示しているのではない。もともと、ベースに演色性の高い低色温度高演色LEDの光が制御システムで配置されているL&D Lab.は、先にYANZIのところでも書いたように、後から空間に配置する照明とのバランスが肝になる。低演色LEDのものが入るとバランスが崩れ、どんなに形のデザインが優れている照明でも見映えが悪くなる。そして、光の向きと色温度、照度の調整も重要なのだ。毎回、空間のベースライトと配置する意匠照明との相性やバランスを考えて設置している。名作がより美しく生きるために。
そして、今回ここで紹介した写真は全て、写真家の太田拓実さんの撮影によるもの。太田さんとは、知り合って10-20年くらいが経つが、間接的に撮られた写真にはお世話になってきたが、直接関わったのは今回が初めて。アルテミデの一つ一つの製品のスペックを事前に情報としてインプットされて撮影に臨まれた。写真家の方は、照明に携わる私たちのような者の立場をとても理解してくれる職業の人たちだ。彼らも「光」とは常に向き合い、戦っているから。共通の言語もあるのも心強い仲間だ。
これまで何人かの写真家の方と関わってきたが、今回また新鮮な感覚を覚えた。前から、同郷出身と知っていた太田さんではあるけれど、なんとなく心地よい緊張感が撮影当日あり、自分も楽しく時間が過ぎていったのを思い出す。照明と空間との関係をよく理解されている写真だと思った。
このアルテミデの照明展示は、
6月23日(金)まで。ぜひ、日没後(19:00過ぎ〜がベスト) により多くの人たちに見にきてほしい。

東京都江東区福住1-13-2 
LIGHT & DISHES Lab. 
03-3630-9490 (平日10:00-19:00)
contact@lightanddishes.com
 

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