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「あなたは電車です!」 〜『誰でもすぐに戦力になれる未来食堂で働きませんか』より

 小林せかいさんの新刊『誰でもすぐに戦力になれる未来食堂で働きませんか』を読みました。

 2016年に貸し切り読書会を開催したご縁で、本書を献本いただきました(せかいさん、ありがとうございます!)。

誰でもすぐに戦力になれる未来食堂で働きませんか

 せかいさんは、東京・神保町にある 未来食堂 の店主。カウンター12席だけの定食屋さんで「ただめし」「まかない」「あつらえ」「さしいれ」などユニークな仕組みを取り入れており、TVや雑誌でも多数紹介されています。

 今回の新刊は、タイトルだけ見ると ”まかない” リクルート本かと勘違いしそうですが、そうではありません。

 サブタイトル「ゆるいつながりで最強のチームをつくる」が示すように、「人」や「チーム」にフォーカスした本です。一人で始めた未来食堂で、一人を超える体験をしてきたせかいさんが、さまざまな場で活用できるヒントとして自身の実践をまとめた ”ビジネス書” に仕上がっています。(↓本の全体構成は、表紙・裏表紙にびっしり!)

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 読みどころはたくさんあるのですが、以下では、特に興味深かった2つの観点にしぼって紹介します。

小林せかいさんの“人間観”

 本書には、「人は、○○な生き物だ」という表現がいくつか登場します。(太字は引用の際に追加したもの)

人は、自分に負担がない限り、意外と他人を手伝ってくれる生き物です。(p.24)
そもそも人は、進んで熱量をもちたがりません。ニヒルになりがたる生き物です。(p.32)
人は、自分に非があるとは認めたがらない生物ですし、… (p.66)

 「〇〇の生き物」というフレーズを収集している僕にはどれもニヤリと頷けるものでした。特に、「ニヒルになりたがる生き物」は、いまどきの職場や趣味グループでも感じることが多いのでは?

 他にも、いろんな角度から人間の本質的な性質が語られています。

“悪い人”は大した問題ではありません。根幹を揺らされる真の驚異は、“良い人”からもたらされるのです。(p.43)
なぜなら人は、自分がフォローされた程度以上に、人をフォローすることはできないからです。(p.130)
人間というのは、自分がやりたいことを直球で聞かれても意外と言語化できないものです。(p.138)
『人の善意は有限』(p.152)
人は、チームに参加する時、その雰囲気を見て判断しています。(p.160)

 これらの記述は「人間ってこんなもの」という評論で終わらず、「だからこそ、こんな工夫を!」と実践例や提言までかなり具体的に書かれています。例えば、“言語化”については「あえて答えに詰まる質問」をすることで、やりたいことの自問自答を繰り返してもらう。“キラーアクション”では、最初に声かけする台詞とその後のリアクションを想定した次なる台詞まで…。

 未来食堂で延べ1,000人以上の “まかない”さんを受け入れ、一緒に働いてきた経験から、人間に対する深い理解が生まれ、“誰とでも一緒にやっていく” ための仕組みや工夫に落とし込まれている。そんな風に感じました。

 観察とトライ&エラーから生まれたであろう人間観。
 本書の読みどころの1つです。

リーダーとしての覚悟

 強く心惹かれた2つめのポイントが「リーダーシップ」に関する記述です。

 未来食堂は、基本的には店主 小林せかいさんが一人できりもりしており、他に社員やアルバイトはいません。それでも、入れ替わり立ち替わり “まかない” さんが日々の運営を手伝いにきます。これは、毎日新たなチームが生まれ、その日替わりチームで未来食堂を運営していくようなもの。

 1章「組織……どうやって場をつくるか」には、せかいさんがチームのリーダーとして心がけてきたことや大切だと思うことが書かれています。

リーダーに必要なのは熱量です。目的に向かって邁進する姿勢です。(p.32)
目的地(=チームの目的)、乗客(=メンバー)がいて、ではあなたは自分を何とイメージしていましたか? 運転手でしょうか?
だとしたら大間違い! あなたは “電車” です! (p.48)
「良い空気」は意図的につくらないと発生しません。そして、リーダーが醸す空気以上に、全体が良くなることはありません。(p.78)
リーダーは「実行が簡単であり、やれば必ず感謝される」キラーアクションを見つけることが大切です。(p.88)
リーダーであるあなたは、自分の持っているコントロール力を自覚し、くれぐれもそれをいたずらに振り回すことがないよう、心がけましょう。(p.106)

 個人的には「あなたは電車」というフレーズとイラストにガツンとやられました。運転手ではなく電車自身であるという喩えと「あなたが進まないと何も進まない!!」というメッセージには、胸の中でザラザラする感覚が起こります。「引っ張っているか?」「乗せているか?」「進んでいるか?」と…。

 未来食堂に行った方は、カウンター内にいる(特に混み合うランチタイムの)せかいさんの凛とした表情や立居振舞いを見たことがあるでしょう。僕も、初めて訪れたときには想像とのギャップに「お!」と驚きました。(余裕のある時間帯に話しかけると、また違うんですけども 笑)

 上で語られているリーダー像を読み、あらためてせかいさんの振る舞いを思い出してみると、あれは未来食堂という「場」におけるリーダーとしての覚悟が現れたものだったのかな、と想像しています。

おわりに

 小林せかいさんの4冊目の著書『誰でもすぐに戦力になれる未来食堂で働きませんか』について、「人間観」「リーダーとしての覚悟」の観点で紹介しました。

 自分自身、つい仕事を抱え込みがちなタイプなので耳に痛い言葉が多く、それゆえに役立ちそうなヒントもいっぱいもらった読書体験となりました。

 本エントリに挙げた他にも、3章「自分……どうやって自分に向き合うか」、4章「巻き込む力で「一人」を超える」など紹介したい箇所がまだまだあるのですが、そちらは本書を読んでもらうってことで…。

 なお、発行元の祥伝社では、試し読みサイトも用意(なんと冒頭40ページが読める太っ腹提供!)されているので、本の内容が気になる方はまずはこちらを覗いてみてください。


 ちなみに、本書ができあがるまでのデザイン上の技や工夫を、倉又美樹さん(未来食堂ロゴの作者でもある)が note 上に公開されています。

 本エントリのTOP画像に選んだ「あなたは電車」部分も、せかいさんが描いたイラストを倉又さんが本書にあわせてデザインしたものなのだとか。

 デザイン上の工夫の数々や、本書制作過程でのせかいさんとのやりとりも面白いので、本づくりに興味がある方はぜひ読んでみてください。

おまけ(という名のお節介)

 ブックカバーをつけて本書をきれいに読んでいる方へ…。
 あなたはちょっと損をしています(笑)。ぜひカバーを外してみてください。きっと「あなた」を勇気づけるメッセージが見つかるはずですので。

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