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バーチャル株主総会を実際に行って感じた課題

1.これはなに

 ハイブリッド型バーチャル株主総会を実際に行ってみて、今後気を付けるべき点を書き留めました。今後オンライン上での株主総会の実施を考えられているスタートアップの参考になれば幸いです。

2.バーチャル株主総会とは

 経済産業省が発行した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」によれば、「ハイブリッド型バーチャル株主総会」、及び「バーチャルオンリー型株主総会」を指すとしています。また、ハイブリッド型バーチャル株主総会は「参加型」と「出席型」の2つに分かれます。

・ハイブリッド参加型バーチャル株主総会
 リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会をいう。
・ハイブリッド出席型バーチャル株主総会
 リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会をいう。
・バーチャルオンリー型株主総会
 リアル株主総会を開催することなく、取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をする株主総会をいう。
※リアル株主総会
 取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所において開催される株主総会

なお、上記のうち「バーチャルオンリー型株主総会」については、現状選択肢になりえないという見解が優勢です。

第 197 回国会 法務委員会 法務省民事局長の答弁
「会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らしますと、解釈上難しい面があるものと考えております」

ちなみに米国の実務では「参加型」は一般にバーチャル株主総会とは言わないそうです。参加型にした場合、オンラインでつないだ株主は「出席」とはみなされず、リアルに出席した株主との不平等・不公平が懸念されたことから、「出席型」を採用しました。

3.事前準備・課題の洗い出し

 通常の株主総会の準備以外に、バーチャル型株主総会特有の論点について課題を洗い出しました。

(1) 通信環境のバックアップ

オフィスの通信環境が落ちた場合に備え、バックアップとしてポータブルwi-fiを準備。

(2) 議題の採決方法

リアル、バーチャルともに拍手を持って議題の承認を取る。バーチャル出席株主についてはオンラインで確認を行う。

(3) ツールの選択

zoomを利用することにしました。主な理由は下記です。
・普段から利用に慣れており、参加者側でも比較的利用が難しくない
・多人数の参加にも対応できる
・録画機能あり
・主催者側以外の参加者のミュートも主催者側でコントロールできる

議事進行時は主催者以外はミュートにし、質疑応答の際にのみ質問者がミュートを解除して発言するスタイルを取りました。チャット機能は、念のためですがヤジ等の書き込みリスクを考慮して利用制限を行いました。

(4) BCPプラン

リアル会場に出席する役員とバーチャルで出席する役員に分けました。

(5) 総会シナリオの作成

信託銀行の資料を基に、バーチャルでの開催を加味したシナリオを作成・準備。

4.当日の利用機材と配置イメージ

使用ツールは上記の通りzoomとし、株主総会招集通知送付時のメールにzoomリンク先を記載しました。新型コロナウイルスの影響もあったので、証券会社が推奨する短縮版シナリオを参考にしました。用意した機材は下記です。

・ビデオカメラ:リアル会場の様子を映し出す(保存用、zoomは非接続)
・PC3台:
 1 zoomの主催アカウントで、出席のオンライン株主を投影
 (ギャラリービュー)
    2 リアル会場のディスプレイに資料を投影
    3 リアル会場の様子をzoomに投影
・大型ディスプレイ2台:
 1 Zoom主催アカウントの画面を投影
 2 資料を投影

株主総会会場のイメージ

株主総会

4.反省点と今後の課題

(1) オンライン出席者の本人確認

主催アカウント側で株主の名前を確認しミーティング参加の許可を行いました。ただ、ほとんどの株主はzoomのビデオをオフにしたままでしたので、本当に株主本人が参加したのかの確認については課題が残ったと言えます。基本的に株主総会のzoomのリンクは株主しか知らないはずではあるものの、本人ではない他の人物が代理で参加したという可能性は排除しきれませんでした。

(2) 議題の採決の方法

議題の採決については、zoomの画面を通して拍手を持って行い、ギャラリービューで確認することを想定していました。しかし、(1)にもある通りほとんどの株主がビデオをオフにしていたため、拍手している姿を画像でとらえることはできませんでした。参加者をミュートにしていたため、拍手の音も聞くことはできませんでした。なお、リアル会場では拍手を目視で確認)しました。

VC等のプロ投資家に対してであればビデオをオンにするよう依頼することもそれほどハードルは高くないかもしれませんが、個人投資家だと個々の事情もあるので、ビデオのオンを強要するのはいささか遠慮を感じています。

今後も株主総会にzoomを利用する場合、zoomには投票機能が備わっているので、議題の採決について本機能を活用することも選択肢に入ると考えています。

(3) 株主のITリテラシー

今回は結果的に特段の問題は発生しませんでしたが、今後株主が増えた場合、zoom等のツールに慣れていない株主への対応が考えられます。zoomを例に挙げると、ビデオのオンの仕方がわからない、質問したかったけどミュートの解除の仕方がわからずできなかった、等の事象が発生する可能性もあり、株主に対する案内とマニュアルの整備が必要と思われます。

5.参考資料

・経済産業省 「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド

・森・濱田松本法律事務所 「バーチャル株主総会の準備と運営」

・三井住友信託銀行「証券代行ニュース(第103号)2020年株主総会シナリオ作成上の留意点」



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