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COVID-19と真鯛

緊急事態宣言が発令された。

新型コロナウイルスの全国的な感染爆発を防ぐために発令されたものだが、東京や大阪などの大消費地の飲食店が一時休業を余儀なくされ、仕入先の生産者は行き場をなくした生産物を前に途方に暮れている。生き物である生産物は成長を止めてくれない。収穫や水揚げした野菜や魚は、買い手がいなければ廃棄処分となるしかない。

三重県南伊勢町の漁師、橋本純さんも頭を抱え込んでいた。海に浮かぶ5つの生簀には、立派に育った真鯛4万匹がぐるぐる回遊している。真鯛の市場価格の暴落に加え、飲食店との取引が止まり、大半の真鯛の出荷先がなくなってしまったのだ。毎日の餌代もバカにならない。2年後に出荷するための稚魚を入れるスペースも確保できない。

「このままだと生簀から海に放つしかない。管理されて育った養殖真鯛は自然界で生き抜くのは難しい。真鯛の命のカウントダウンが始まっている。人に食べてもらうために育て上げたこいつらの命を無駄にしたくない」。

そう語る橋本さんから相談され、急遽、ポケットマルシェに真鯛を出品してもらった。すると、たちまち大きな反響を呼び、1日で150尾の在庫がすべて完売してしまった。

「学校休校で入学式がなくなってしまった甥っ子のために、尾頭付きの真鯛でお祝いしてあげたい」、「アジしかさばいたことがなかったが、真鯛の三枚下ろしに挑戦してみたい」、「同じ真鯛をポケマルで購入した女友達とオンラインでご飯会やり、鯛飯、兜煮、昆布締め、あら汁を楽しみました!」などの声が続々と寄せられている。

外食にかけるお金と時間が減った分、生産者から直接に生産物を購入し、時間をかけて楽しむ「家ごはん」。生産者の側からも「家にいる時間が長いときは気晴らしに普段しないことを」と、様々な手づくりセットが出品されている。納豆づくりセット、味噌づくりセット、ナメコ栽培セット、ハーブ栽培セット、ぬか床セットなどなど。

緊急時に、困っている生産者と困っている消費者がつながることで、それぞれの困りごとを解決していく。ポケットマルシェの生産者と消費者は日常からこのようなお互い様の関係を紡いでいる。

大量生産大量消費の既存流通では、生産者と消費者の距離は離れる一方で、お互いの顔がまるで見えなかった。顔が見えないと牽制すべき相手になってしまうが、顔が見えると生産者も悪いことができないし、消費者も手数がわかるからスーパーより高くても買う。さらに、相互理解が深まり、感謝し合う関係になれる。顔の見える近接性が「倫理」と「共感」を担保するメカニズムが実装された《食の共同体自治》、それがポケットマルシェなのだ。

そのことの時代的意味は、数値化され、類型化されることで、マスの消費社会に埋没してしまった"個"を再生し、浮上させることに他ならない。"個"が立ってこそ、個と個の間に関係性は生まれる。ポケットマルシェでは、一人の生産者と一人の消費者がインターネットを通じた食材の購買と情緒的なコミュニケーションを通じ、エンド・トゥ・エンドのつながりを楽しみ、育んでいる。それは激しく流動化する社会にあって、セーフティーネットの役割も果たしつつある。

拡張家族のような関係に発展している例を紹介したい。ポケットマルシェ利用回数800回を超える奥村美絵さんは、東京都知事の外出自粛要請会見翌日から始まった食料品の買い占め騒動を報じるニュースを見て、私に連絡をくれた。

「今日もたくさんの生産者さんから、食べ物に困ってないか?トイレットペーパー類はあるか?気が滅入ってないか?なんなら子供連れて遊びにくるか?とご連絡をいただいています。親戚より心強い生産者さんたち。売り手と買い手だったはずの関係は、いつの間にかなんだか名前のつけられない絆でつながっていたんだなと。ポケマルを知らなかったら、きっと私もスーパーの行列に並ぶ側だったと思います。次に台風や日照りで生産者さんたちがお困りのときは、真っ先に心を配り、行動するつもりです」。

世界規模のパンデミックによって資本主義的な競争から一時的に離脱した私たちは今、外出自粛などの行動変容を求められている。そしてどうやらこの行動変容は長引きそうな気配だ。ならば、資本主義的な競争が抱えていた根本的な問題を解決する方向に行動変容をし、それが常態化していけば、新しい社会を創造することができるんじゃないだろうか。新型コロナウイルスのような新興感染症も、人類の生存を脅かす気候危機も、元をたどれば資本主義のエンジンである経済成長の隠れたコストが発露したものなのだから。

食を通じて、分断された生産者と消費者が、都市と地方が、人間と自然が連帯する社会になる。地球の裏側から運ばれてきた背景の分からない食料ではなく、できるだけ近場の、せめて国内でつくられた、生産者の顔が見える旬の食べ物を無駄なく大切に食べる。自分たちが食べるものを決める力は、自らの暮らしを豊かにするにとどまらず、世界を変える力にもなるのだ。

そんな行動変容の先頭に、ポケットマルシェが立ちたい。

追記)本日、橋本純さんが「真鯛養殖緊急事態宣言」を発令するそうだ。コロナゼロ。5670尾の真鯛をポケットマルシェで販売し、在庫ゼロになったときにはコロナが収束していますようにという願をかけて。みなさん、応援よろしくお願いします。


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ポケットマルシェ CEO / 東北食べる通信 編集長 / 日本食べる通信リーグ 代表 / 岩手県議を経て、2011年岩手県知事選に出馬し、討死。事業家に転身。2019年2月カンブリア宮殿出演。著者に『都市と地方をかきまぜる』、『人口減社会の未来学』など。岩手県花巻市出身。44歳。

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