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【建築】小牧市中央図書館(新居千秋)にルイス・カーンを見た!

ネットやスマホが発達して調べ物が容易になったせいなのか、あるいは単に自分が本をあまり読まなくなったせいなのか、最近は図書館に行くこともほとんど無くなった。いや、行くこともあるが、目的は建築探訪ばかりだ。それらに共通しているのは素人が見ても特徴のある図書館だということ。


このような図書館は、時々SNSでネガティブに話題になることもある。「本棚が高くて手が届かない」とか、「吹抜空間は豪華すぎる」とか、「ガラスの外壁は太陽光を透すので本が焼ける」とか…。中にはイチャモンに近い批判もあって、設計した建築家も大変だなあと思うこともしばしばだ。


ところで図書館の建築的な評価とはなんだろう?

一つは本棚をどのように配置して、来館者が目的の本を探し易いようにできるか、あるいは逆に思いがけない本に出会えるかということだろう。
しかしそれ以外にも重要なポイントがある。それは来館者がいかに快適に本を読みながら過ごすことができるかということだ。大学や学校であれば、勉強・自習やグループ学習に適しているかということも加わる。




名古屋鉄道・小牧駅前には、以前から気になっていた図書館があった。


建築専門誌でも紹介されている小牧市中央図書館である。


小牧市立図書館といえば象設計集団による建築が有名だったが、2021年、老朽化により移転新築となった。今回の設計は新居千秋さん。アメリカの巨匠 ルイス・カーンの事務所でスタッフとして働いていたこともある建築家だ。カーン設計の図書館は、以前フィリップス・エクセター・アカデミー図書館(以下、フィリップス)を紹介させてもらった。

今回は公共建築としての図書館を考えると共に、ルイス・カーン建築の要素も探しながら見学してみた。


小牧市のシンボルは、小牧・長久手の戦いにおいて徳川家康の陣城となった標高86mの小牧山である。


図書館はその小牧山をイメージしている。小牧山は図書館のすぐ近くにあるが、残念ながら他の建物に阻まれて見えない。 


図書館前はイベントの開催も可能な広場となっている。そもそも図書館が建設された目的の一つには地域活性化もある。今後は図書館・広場が一体となったイベントなども企画されるかもしれない。


反対側には市の幹線道路があり、そちら側からもアクセスできる。


四角いボリュームがセットバックしながら積み上がったその姿は、正直に言えば、インスタ映えするような外観ではない。しかしカーンの建築がそうであるように、この建築も特徴は内部空間にある。


どちらからでも入れるが、今回は広場側から入ってみよう。


と、その前に柱が並ぶこの屋外回廊。

少々こじつけだが、フィリップスを思い出した。


中に入ると、オープンで明るいエントランスホールが出迎えてくれる。


図書館というものは収益性ゼロなので必然的に自治体などの公共施設となるが、そうした施設でも近年は有効活用が求められる。こちらも1階は多目的スペースとなっており、図書館以外の用途にも利用できる。


エントランスをさらに進むと出会うのが吹抜空間。この建築のハイライトだ。


形式は異なるが、フィリップスでも建物中央に大きな吹抜空間がある。そこでは最上部の四方のハイサイドライトから光が落とされていた。


それは小牧でも同様。四方のハイサイドライトから光を落としている。フィリップスのような重厚さはないが、日本の公共施設としては、このくらいの軽やかさの方が適している。


特徴はなんといってもこの階段。直線と曲線を複雑に組み合わせた階段が各階を結ぶと同時に、デザイン的なアクセントにもなっていた。


階段は階ごとに少しずらして配置されているので、1階まで自然光が届く。下から見上げると、後に紹介する読書コーナーが飛び出していることも分かる。


階段の手すり、足元照明などのデザインも充分に突き詰めて検討されたのだろう。公共施設に求められる安全性も考慮され、シンプルな美しさがありながらも危険性は感じない。(そう言えばカーンの階段も美しかった)


図書館で重要なことの一つは本の収納。この図書館では本棚もシンプル。一般的に図書館ではスチール製の既製品も珍しくないが、ここの本棚は木製。黒をベースとした色調は床や天井、家具ともマッチしており、明るい空間の中でも落ち着いた雰囲気がある。


読書・学習スペースも素晴らしい。快適に本を読みながら過ごすことができる。全体で700席あるそうだが、分散されているので、それほどあるようには見えない。

1階にはアルコーブのようにガラスに囲まれた明るいコーナー。

現在はあちこちの公共施設でも見かける某カフェ前のスペース。


各階の吹抜けにも読書コーナーが面している。

吹抜けに飛び出しているので、自然光がそのまま降り注いで快適だ。


これらの吹抜けコーナーは人気が高く、開館と同時に席が埋まってしまう。


大きなテーブルもある。


もう少し落ち着きを求めたい人は窓側の席はどうだろう?

ここでもフィリップスを思い出した。


さらに静かに本を読みたい人にはサイレントルームがある。

でもちょっと事務的な雰囲気かな?


本を持ち出して、屋外テラスで読書することも可能。


セットバックした構造を活かして、きれいに植栽されたテラスが広がる。


とても気持ち良さそうだが、実際には暑かったり、寒かったり、風が吹いたり、雨が降ったり…、まあ中々難しい。一休みするには良いが、現実的なことを言えば、本を読む環境としては難しいかもしれない。


こども図書館も充実している。落ち着いた色調の大人エリアに比べて、明るくカラフルなデザインとなっている。

もちろん本棚は子どもでも手が届く高さだ。


所々に設けられた読書スペースは隠れ家的な要素もある。

こういうのは大人も好きかもしれない。


と、このようにこの図書館は本を読む環境のことにも重点が置かれている。これだけバリエーションに富んだ読書スペースがあれば、きっと自分好みの場所が見つかるだろう。

また全体としても吹抜けを持つ豊かな空間でありながら、目立つ意匠・ディスプレイや過剰な重厚さもなく(それはそれで好きなのだが)、といって地味過ぎず、公共施設として建築的にもバランスが取れた図書館だと思うのだが、どうだろうか?


課題があるとすればこの図書館を中心とした地域の活性化。何度か近くを通っているのだが、市の中心駅でありながら、人はいつも少なくて寂しい。

もちろんこれは図書館の問題ではなく、行政と地域が一緒に解決していかなければならない。全国どこでも地方都市が抱えている課題であり、簡単には解決できないと思うが、今回駅前もキレイに整備された。同じ県民としても、今後は少しでも活気ある街となってほしい。




ルイス・カーン設計の図書館

吹抜空間が素敵な同じくカーンの美術館


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