
映画ロケ地巡り × 建築(シカゴ編)
数年前、シカゴを訪れる機会があった。
私のシカゴのイメージは”建築の街”である。シカゴは1871年の大火を機に都市計画が整備され、現在では数百棟の高層ビルが立ち並んでいる。フランク・ロイド・ライトが一時期シカゴを拠点としていたり、ミース・ファン・デル・ローエはイリノイ工科大学の教授を努めていたため、彼らの建築作品も多い。
あるいは、かつてのアル・カポネをはじめとした”ギャングの街”というイメージもある。現在ではそこまで治安は悪くないようであるが、出歩くには注意すべき地区も少なくないようだ。
しかし私にはもう一つ、”映画の街”という印象も強い。実際に多くの映画がシカゴで撮影されている。シカゴが映画やドラマの舞台となった背景には、そうした”建築”や”ギャング”とも無縁ではないだろう。
Rookery Building
1886年に建設されたオフィスビルであるが、建築的にはフランク・ロイド・ライトにより改修されたアトリウムが有名だ。ガラス屋根から光が降り注ぐ明るいこの空間は、丁寧な装飾が施されたディテールと相まって、このビルの不動産価値をさらに高めているそうだ。
このビルは「アンタッチャブル」(1987)においては、エリオット・ネスが勤務する警察署の建物という設定であった。しかしこのアトリウムではロケは行われていない。物語より建築の方が目立ってしまうのかもしれない。
撮影が行われたのはビルのエントランス付近で、中盤の郵便局へのガサ入れシーンとラストシーンに出てくる。この2つの場面、何よりエンニオ・モリコーネの音楽が素晴らしい!
この前の道路でもロケが行われている。(左の茶色のビルがRookery Building、後ろの時計のあるビルはChicago Board of Trade Building)
「アンタッチャブル」では前述のエントランスから続くシーン、「ダークナイト」(2008)では市警本部長の葬儀シーンや、バットポッドに乗ったバットマンとトラックに乗ったジョーカーとの対決シーンである。
実はこの場所を探して求めてダウンタウンを散々歩き回ったのだが、やっと見つけた時は嬉しくて一人でニヤけてしまった。
Chicago Union Station
ユニオン駅はアムトラックや近郊列車のターミナルとして利用されている。
この駅で有名なのは、何といっても「アンタッチャブル」のクライマックスの銃撃戦の舞台となった階段だ。
地下にはグレート・ホールと呼ばれる大待合室があり、階段はそのグレート・ホールと地上口つなぐためのものである。ただし階段は2箇所ある。いずれも見た目は同じなのだか、ロケで使われたのはどちらなのだろう?
このグレート・ホールでも多くの映画がロケされている。
「マン・オブ・スティール」(2013)では、ラストでスーパーマンとゾッド将軍が戦っている。他には「ベスト・フレンズ・ウェディング」(1997)、「チェーン・リアクション」(1996)などがある。
アメリカの鉄道は移動手段として重要視されているとはいえないが、その割に都市部の中央駅にはこのような重厚な駅舎も少なくない。
DuSable Bridge(Michigan Avenue Bridge)
シカゴ川にかかる2層構造の跳ね橋で、1920年に開通した。
「アンタッチャブル」において、ガサ入れに失敗して落ち込むエリオット・ネスとベテラン警官のマローンが初めて出会ったのがこの橋だ。劇中の名台詞、”Here endeth the lesson.”はここで誕生した。いやーホント、この映画はショーン・コネリーが良かった!
Franklin Street Bridge
これも1920年に開通したシカゴ川にかかる跳ね橋である。
「バットマン・ビギンズ」(2005)のゴッサムシティにおいては、アーカム精神病院や刑務所があるナローズ島にかかる橋である。もしナローズ島で暴動が発生した場合、橋を上げれば安心だ。
330 North Wabash(IBM Building)
ミース・ファン・デル・ローエの設計によるオフィスビルである。以前はIBMビルと呼ばれており、ファサードにはH鋼、内装には大理石などミースが得意とする建材が多く使われている。
「ダークナイト」では、地方検事ハービー・デントや市長、市警本部長のオフィスという設定である。
このビルには中にも入らせてもらったことがあるのだが、その後日本で「ダークナイト」を観ていた時に、ハービー・デントのオフィスの窓の外に見覚えのあるH鋼が映っていたので、「もしや?」と思って調べてみたら、やはり実際にこのビルでロケされていたことが分かった。自分のマニアックさが怖い...。
中盤でハービー・デントが記者からバットマンの正体について追及を受けるのは、このエントランスロビーである。
Trump International Hotel and Tower
もちろん”あの”トランプ(トランプ・オーガナイゼーション)のビルである。設計はSOM(Skidmore, Owings & Merrill)。
計画発表時は世界一の高さを目指したが(トランプらしい!)、アメリカ同時多発テロ事件の影響もあり規模を縮小し、竣工時はウィリス・タワーに次いで全米2位であった。2021年現在は全米6位、世界29位となっている。
「ダークナイト」ではバットマンとジョーカーの最後の対決の舞台となっている。当時、完成間際の建設現場でロケされたようだ。
Kluczynski Federal Building(シカゴ連邦センター)
こちらもミース・ファン・デル・ローエ設計による連邦センター(連邦政府のオフィスビルと郵便局)である。
ビル単体だけを見れば、先程のIBM Buildingと区別が付かない。そもそもミースの高層ビルは基本的に同じパターンである。それゆえ模倣も多く、シカゴ市内にも「これミース?」というソックリさんがたくさんある。
この広場に設置されているオブジェが、アレクサンダー・カルダーによる鋼鉄製の彫像フラミンゴである。一目でカルダーだと分かる造形だ。
ミースの黒いビルと対比させるため、カルダーは赤色(朱色)を選んでいる。
青春映画の名作「フェリスはある朝突然に」(1986)で、フェリスがパレードの主役となって歌い踊るシーンは、すぐ近くのDearborn Streetで撮影された。そのフェリスを、彼女と親友が呆気にとられながら見ているのがココ。
ちなみにこの映画、日本ではマイナーであるが、是非観て欲しい私のオススメ作品でもある。
ウィリス・タワー
以前はシアーズ・タワーと呼ばれていたオフィスビルである。2013年に1ワールドトレードセンターができるまでは全米1位の高さであった。
展望室もあり、観光客にも人気のスポットである。またシカゴ摩天楼のランドマークにもなっているので、登場する映画やドラマは数多い。
シカゴ・L(Chicago 'L')
市内を走る高架鉄道である。中心部はループと呼ばれる環状線になっている。
こちらも「スティング」(1973)「ブルース・ブラザース」(1980)「逃亡者」(1993)「あなたが寝てる間に…」(1995)「Shall We Dance?」(2004)など、登場する映画は数えきれない。
なおアメリカの都市部で、ダウンタウンを走る高架鉄道はシカゴのみである。
マンハッタンでは1970年代には廃止され、高架線跡は現在ハイラインとして整備されている。したがってニューヨークが舞台の作品であっても、高架鉄道のシーンは、例えば「スパイダーマン2」(2004)のように、シカゴでロケされることが多い。
それにしても、この高架はどう切り取っても渋く絵になる。
ということで、映画というより、「アンタッチャブル」と「ダークナイト」のロケ地案内となってしまった。まあ個人的な好みも入っていたかもしれない。
また今回当初は箸休め程度にサクッと簡単に書くつもりであったが、つい長くなってしまった。
いずれも次回の反省とする。