【建築】インドの気候風土に結びついたアーメダバード繊維業会館(ル・コルビュジエ)
インド西部にあるグジャラート州アーメダバード。
都市圏人口850万人を超える大都市だが、それでもインド国内では第5位である。15世紀からイスラム王朝により形成され始め、現在ではインドの他の都市同様ヒンドゥー教が主流だが、市内には古くからのモスクも残っている。
また世界遺産にも登録されている旧市街には今も多くの人々が住み、商い、活気のある町となっている。一般的に"旧市街"というと小綺麗に整備された観光客が多い地区という印象があるが、ここでは海外からの観光客はあまり見かけず、圧倒的に地元の人たちが多かった。
このグジャラート州では綿花の生産が盛んだったこともあり、古くから繊維織物産業が栄えてきた。1861年にはアーメダバードにインド初の繊維工場が設立されている。近年は一時期の勢いはないものの、依然としてこの地域の主要産業の一つであることには変わりはない。
その繊維織物産業がイケイケだった1950年代、繊維工場のオーナーたちが、地位と繁栄を象徴するものとして協会を設立し、本部ビルを建てることになった。設計を依頼したのは、なんとあの巨匠ル・コルビュジエだ。
そのビルは常にクラクションが鳴り響く騒がしい道路に面してあった。
まず目に入るのは格子状のファサード。これはブリーズ・ソレイユと呼ばれ、デザインのみならず日除けとしての機能がある。コルビュジエの建築ではよく採用されている。
そして真っ直ぐ延びるスロープが印象的である。
導かれるようにスロープを上っていく。コルビュジエ建築には、特に1階から2階への動線としてスロープがよく使われている。階段やエレベーターに比べると移動しやすいからだ。国立西洋美術館やサヴォア邸もそうだった。
ブリーズ・ソレイユはプランターとしても利用され、植物が溢れている。本来は無機質なコンクリートなのに、まるで生きている壁のようだ。
ドアや仕切りはなく、外部空間のまま内部につながる。(矛盾した表現だが、言いたいことは伝わる?)
反対側のファサードもブリーズ・ソレイユ。この日の気温は35℃だったが(インドとしてはそれほど暑くない)、比較的湿度が低いこともあり、直射日光が当たらないこの半屋外空間は風が通り抜けて快適!
横に走るバーは手すりではなく散水管。今も機能しているのか?
隣接した部屋はコルビュジエのメモリアルルームとなっていた。
コルビュジエデザインの家具。
照明の配線が面白いが、後年に付け加えられたものだと思われる。
このエアコンも後付け。当初は機械的な空調設備は設けられていなかったという。最高気温が45℃を超える日もあるこの街では、室内でエアコン無しで過ごすということは大変だったに違いない。
今度は階段で3階へ。
どっしりした木製の扉が出迎える。これまたコルビュジエらしい回転扉。
赤と緑の塩梅が良い!
2階に比べて3階は天井が高く、より開放的な空間になっている。
特に何か絶景が見える訳でもないが、木々の緑が充分に美しい。
コンクリートの仕上げにも表情がある。
ブリーズ・ソレイユと建物の間のスリットもカッコ良く見えるから不思議だ。
3階には小さなホールがある。
コルビュジエにしては珍しく?壁は木による仕上げで、湾曲した天井から自然光が入る。照明やエアコンは見当たらないが、いくらなんでも日中は暑くないか? だからなのか、あまり使われている様子はない。
ということはこの空間はホワイエでもあるのか?
この小部屋はクローク?
これは休憩用のベンチ? さすがに座り心地はどうだろう?
さらに屋上庭園に続く階段もあるが立入り禁止だった。コルビュジエは屋上庭園も有名なので、見られないのはちょっと残念…。
それにしても、インドの街中というのは交通量も多くて喧しいのだが、ここは驚くほど静かだ。この建物、敷地は意外に広く、道路との間は大きな庭で隔てられているからだろう。
そしてまだ見学途中だけど、ここまで見てきて、とても居心地が良くもある。暑いインドというのに、爽やかささえ感じてしまうほどだ!
さて1階に戻ってピロティ。これもコルビュジエ建築の特徴。
光の入り方が美しい。
そのまま通り抜けて、小さな裏庭に。
こちら側のブリーズ・ソレイユ、縦のパネルは真っ直ぐに配置されている。これは、近くにある川からの風を遮ることなく建物内に取り入れるためらしい。対する道路側のパネルは、道路からの視線を遮るために斜めに配置されている。
傍には食堂があった。しかし使われておらず半ば廃墟。勿体無いなあ。
この繊維業会館、スペースの半分くらいはオープンな半屋外空間となっている。もちろん壁で仕切られた部屋もあるが、他にもホールや食堂があることを考えると、実際の事務所機能としてのスペースはあまりない。
というのはこの繊維業会館は、オフィスビルというより、オーナーたちの社交・交流の場として建てられたものなので、様々な集まりやイベントに対応できる建物でなければならなかった。
当時コルビュジエはインドのチャンディーガルで新しい都市をつくる仕事をしていたこともあり、ある程度インドのことを理解していた。そしてこの国の気候や地場の建築からヒントを得て、エアコンなどの機械設備を使わずとも快適に過ごすことができるインドの風土に適した建物をつくり上げたのだ。
残念ながら現在はあまり使われている様子はなかったが、近隣の大学と協力して、この貴重なコルビュジエの建築をより有効的に活用しようという動きもあるようなので、ぜひ期待したい。
ところでこのアーメダバードを訪れたのは建築見学が目的だったが、一番思い入れのあるルイス・カーンの建築は見ることが出来なかった。事前に見学したい旨のメールを入れたが丁寧にお断りの返信があり、現地突撃もしてみたが、高い塀と屈強なガードマンに諦めざるを得なかった。そんな失意の中での見学だった。
さらに言えば、実は私はそれほど熱心なコルビュジエ信者ではない。
しかし結果としては、今まで訪れたコルビュジエのサヴォア邸やロンシャン礼拝堂と比べても格段に素晴しい建築だと思った。
やはり建築は実物見てみないと分からないね。
コルビュジエといえばサヴォア邸
ちょっと似ているハーバード大学 Carpenter Center for the Visual Arts
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