【建築】北欧らしさあふれるオーフス市庁舎(アルネ・ヤコブセン)
いつだったか「ココ良いでしょ!」と見せてもらったあるケンチクの写真。そこには北欧らしい木のぬくもりのある空間があった。それ以来そのケンチクは、いつか訪れてみたい場所の一つとなる。
そして数年後のある日、私はオーフスを訪れた。抜けるような青空という表現がピッタリの日だった。
オーフスはコペンハーゲンから電車で3時間半。デンマーク第二の都市である。
駅を出ると地図で市庁舎の場所を確認しようとしたが、その必要はなかった。駅から市庁舎の特徴である大きな時計塔が見えたからである。
設計はアルネ・ヤコブセンとイーレク・ムラ。どちらもデンマークを代表する建築家だ。特にヤコブセンは家具のデザイナーとして日本でも有名である。
そんな二人の作品であるが、外観は大理石による仕上げで、デザイン的にもあまり暖かみがあるとも言えず、良く言って”普通”または”イマイチ”である。
時計塔はアンバランスに大きい。ただし時計塔は当初の設計案にはなく、シンボリックな市庁舎とするために市民側からの要望で付け加えられたものらしい。
塔を囲む足場のようなフレームが垂直感を強調している。
メインエントランスは駅とは反対の旧市街側にある。やはり地味で目立たない。
内部も天井が低く、抑え込まれているような印象さえ受ける。
しかしさらに先に進むと…、
素晴らしい別世界が広がっていた。
思わず感嘆のため息が出るほどの光のアトリウム!!
白を基調としながらも、天窓からの光と木による仕上げが北欧らしい空間をつくっている。(この”北欧らしい”という言葉を安易に使ってしまうが、もう少し適切な表現がないかと思う。自分の語彙力の無さを思い知る...)
エレベーターは用がなくても乗りたくなる程素敵!
「どうぞお上り下さい」とでも呼ばれているような階段。もちろん上がります!
ベンチも曲線の具合が美しい!
こちらはハンス・J・ウェグナーのベンチ。
床はオーク材による寄せ木仕上げ! ヘリンボーンの模様が美しい!
このケンチクの最も美しい場所は、絶妙なカーブを描く地下への螺旋階段だと思う。下の階はやや仄暗いのだが、開口部から光が差し込み、階段だけがスポットライトを浴びて浮かび上がっている。オブジェもアクセントになっている。
最後にカーブを反対方向にキュッと返していることもポイント。
隣にはイベントにも利用できる市民ホールが続く。
壁一面が全面窓なので、こちらも充分過ぎるほど明るい空間となっている。
壁がまた凝っている。空調設備などは目立ち過ぎることなく、このスリット状の壁に埋め込まれているようだ。
ペンダントライトは、器具を吊るケーブルと電気の配線が別。通路下の天井から適度な弧を描くように配線されている。これもデザイン。
こちらはエントランスホールのライト。
さらに奥には執務室が並ぶ。ここも光の回廊だった。
周辺は公園として整備されている。この日は空の青さと公園の緑と市庁舎のグレーという色合いが絶妙にマッチしていた。外観は”イマイチ”と書いたが、こうした風景にケンカすることなく収まっている。
今回「美しい」という言葉を何度も使ってしまった。まあそうとしか言えないのでやむを得ない。
この市庁舎の開館は1941年。80年経っているが、古さも新しさもなく、ただ居心地の良さだけを感じさせる。コレって結構難しいことだ。
もちろん日常のメンテナンスも欠かせないだろう。また日本の役所でありがちな張り紙やポスターもなく、庁舎をデザイン的にも大事にしていることが分かる。当初設計者がその設置に積極的ではなかったという時計塔も、今となっては市のシンボルにもなっている。
このケンチクは正にデンマークデザインの象徴の一つでもあった。
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