第6回:ギリシア、トルコ、インドネシアの音楽
第6回目の特集は「ギリシア、トルコ、インドネシアの音楽」です。
二世紀ギリシアの作曲家であるメソメデスが作った古代音楽、現代のブラスバンドの元祖となるトルコ軍楽隊の音楽、インドネシアのジャワやバリ島のガムラン音楽をご紹介します。
[今回ご紹介する楽曲]
1.Hymn to the muse by mesomedes / 古代ギリシアの音楽
古代ギリシアのクレタ島に存在した作曲家のメソメデスが制作したと言われる楽曲です。
ギリシアでは紀元前5世紀に数学者のピュタゴラスによって音階(音の配列)が発見されたと言われています。(ピュタゴラスが鍛冶屋の前を通りかかった時に、鍛冶屋の打つハンマーの重さの違いによって毎回音程が異なる事に気づいたのが始まり。彼は弦の長さの比率を変えると音程が変化する事を発見しました。弦の長さの比が2:1になるとオクターヴになり、3:2になると完全5度、4:3だと完全4度になる。この様な聴感上の美が綺麗な正数比になっている事から、ピュタゴラスは数字の秩序が世界を構成すると考えていました)
その後、ピュタゴラスによって発見された音階は西洋音楽に大きな影響を与え、現在もその影響下にあります。
古代ギリシアでは「キタラ」と「アウロス」という二つの楽器が使われていました。「キタラ」は七本の弦を張った竪琴の様な形をしており、「アウロス」は二本の縦笛(3~5つの指孔が空いている)を口にくわえてV字型にして吹く楽器でした。
先日ギリシアのアテネを旅した時に、紀元前の楽器を当時の情報をもとに再現制作をする工房へ立ち寄りました。再現されたキタラを弾かせてもらったのですが、音程の構成が現代の楽器とかなり異なり、とても不穏な不思議な響きをしていました。(彼らはそれを癒しの効果があると言っていました)
工房の方と長時間立ち話をしたのですが、彼が言うにはピュタゴラスは二つの楽器を発明したらしい。
一つは、弦をスティックで叩くサントゥールやダルシマーに形が近く、二つのブリッジでチューニングを変えられるもの。
もう一つは、木製のテーブルに小さなシンバルの様な金属板を四つ取り付けた打楽器で、金属板を叩いた後に手を使って音程を操作するものでした。過去にそれらの楽器も再現したそうで写真を見せてもらいました。
ギリシアと言えば哲学者のソクラテスが有名ですが、ソクラテスは音楽を大切なものだと認識していて、かなり歳を経てから楽器の練習をしていたという話も聞きました。
ソクラテスの弟子だったプラトンはアカデミア(現代のアカデミックという言葉の語源になっています)という学校を作ったのですが、そこでは弁論法や数学、幾何学、天文学とあわせて音楽も教えていたと言われています。
数の比率と音程の関係性を含み、多分に数学的に解釈をしていたと思われます。
2.クタワン・プスポワルノ / 中部ジャワ、マンクヌガラン王宮のガムラン
インドネシア/ジャワのガムラン音楽です。
ガムランという言葉は「ガムル」(叩くという意味)から派生した言葉で、叩いて鳴らす楽器・演奏という意味になるようです。
ほとんどが打楽器で構成される合奏音楽となっているのですが、ただの打楽器ではなく音程を奏でる事が出来ます。
東南アジアの音楽文化では、銅鑼(どら/ゴング)と鉄琴/青銅琴(メタロフォン)を使用して合奏する音楽が存在します。(東南アジアでの青銅の歴史は紀元前1500年頃までさかのぼります)
青銅楽器は木製や竹製の楽器とは異なる響きを持ち、音を発した後の余韻の響きが長くなります。この事がガムランのサウンドを方向付けています。
ガムランには意味が込められていて、楽器のセットごとに意味があります。
セットごとに楽器の音色、調律、装飾のデザインなどが統一されていて、それぞれのセットには名前が付けられています。(「高貴な黒雲」「流れる水」「香る雨」など)
セットの異なる楽器を他のセットと組み合わせて使用することは出来ません。ガムランでは楽器に精霊が宿ると考えられており、一番大きなゴングの側で香を焚いて、花と供物を備えたりします。
ゴングを制作する鍛冶師も断食や瞑想・祈祷を行い、ゴングに宿る精霊をなだめた後で制作作業に移るようです。楽器はとても神聖なものだとされているのですね。
音楽的にも西洋音楽と異なる音程を持ち、一オクターブを等分で分けた音階が使用されています。(音階にはいくつかの規則性があります)
3.陸軍行進曲「ジェッディン・デデン」 / オスマントルコ軍楽隊
トルコ軍楽隊の音楽です。
オスマン・トルコ時代、15世紀に東ローマ帝国を滅ぼした時期、トルコの軍隊は非常に強かったのですが、その頃にはすでに軍の中に軍楽隊が存在していて、敵軍への威嚇や自軍の士気を高めるために音楽を演奏していたと言われています。
周辺ヨーロッパの国々ではトルコの軍楽隊を見て影響を受け、各国が軍楽隊を作るようになりました。トルコの軍楽隊は現代のブラスバンドのルーツと言えます。
トルコ/イスタンブールへ行くと、軍の歴史的な武器や楽器が並ぶ軍事博物館という場所があるのですが、平日に行くと毎日30分ほど軍楽隊が生演奏を聴かせてくれます。(演奏が終わると軍楽隊のメンバーと写真を一緒に撮る事が出来ます。サービス心溢れる軍楽隊でした)
ベートーヴェンやモーツァルトが「トルコ行進曲」という楽曲を残していますが、彼らはトルコ軍楽隊の音楽にインスピレーションを得てそれらの曲を書いたと言われています。
当時と現在では軍楽隊の演奏曲の内容は異なっているようですが、とても特徴のある個性的な音楽だと思われます。
日本人の自分からすると、甲子園の応援をしているブラスバンドを彷彿とさせるサウンドなのですが、そういったもののルーツでもあるという事のようです。
4.バラガンジュール・クノ / バリのバラガンジュールとシダンのアンクルン
バリ島のガムランです。
ジャワのガムランと使用している楽器は同じなのですが、バリでは同じ楽器を常に二つずつ、一対にして使用するという特徴があります。そして、対になった楽器の一方は高めに調律し、もう一対を低めに調律します。同時に同じ音程を鳴らした時に微妙な音程差が生まれ、音にうねりを生み出しています。(現地での生演奏を聴くと、高域の音の粒子が空気中に広がるのを感じられます)
もう一つの特徴は、一つのフレーズを二人で分担・掛け合いをしながら演奏するという形をとっている事です。(二つのパートが組み合わさって、一つの旋律に聴こえるような形態をとっている)
バリでは二元的な価値観があり(空と大地、山と川、善霊と悪霊など)相反する二つの要素がお互いに補い合い調和するという考え方が演奏にも現れていると考えられます。
[Happy Sad / 草野洋秋 プロフィール]
https://www.happysadsong.com/
Happy Sad ホームページ:
- HAPPY SAD / Sound designer Hiroaki Kusano (happysadsong.com)
作曲作詞、歌、楽器演奏、録音、ミックスまで一人で行うというスタイルで活動する サウンドデザイナー/シンガーソングライター。2013年、表参道ヒルズにて開催されたMTVとLenovo 主催のクリエイターコンテスト「CO:LAB」にて、自作曲 「Everyday」が国内DJ部門優勝/ファイナリストに選出される。
並行してゲーム作品のサウンドクリエイター職として多数の作品でサウンドディレクションとサウンド制作に参加している。
(Netease Games, Funplus, NHN Playart株式会社, 株式会社スタジオキング,
株式会社ノイジークローク等のゲームパブリッシャーやサウンド制作会社においてサウンドディレクター/サウンドデザイナーとして数多くのコンテンツ制作に関わる)
近年では、CM広告音楽やTV番組BGM、海外アーティストの楽曲リミックス制作等にも参加。BGMや効果音の制作、映像に対して音を付けるMA作業、そして作品全体のサウンドイメージを提案 / 映像側や企画側の要望をヒアリングして音に落とし込むサウンドディレクション業務まで包括的に対応。