見出し画像

巨匠バート・バカラックの不人気曲に50年目にして初めて会う!


あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします!

前回の投稿から少し時間が空いてしまいましたがその間にいろんな整理とインプットをしていた時、自分の音楽のルーツで一体何だったんだろうと考えておりました。

幼い頃に聴いた音楽はいつまでも心に残るものです。特に音楽の知識が定着していない、とても頭や耳が柔らかい頃の曲のいくつかは今だに自分の頭の中で鳴り響いています。6歳の頃、初めて聴いた「上を向いて歩こう」、小学2年生の音楽の時間で聴いて衝撃を受けた「シンコペーテッド・クロック」、noteの記事にも書いた1970年春の東急プラザで鳴り響いていた「レット・イット・ビー」、そして父親の音楽コレクションで聴いたフレンチ・ポップス・オーケストラの数々。

私が小学生の頃、ポール・モーリア、レーモン・ルフェーブル、フランク・プゥルセルなどのフランスのポップスカバーオーケストラが大ブームの頃でして、60年代末から70年代初めはビルボードやオリコンで1位を獲得するような時代でした。我が家で鳴り響いていた数々の音楽たちが今でも自分の頭の中になり響いていています。その中でも曲名や演奏者名が今だに分からないものが何曲かありそれが一体何だったのか、お正月の間、父親が聴いていたレコードコレクションの中でもイージー・リスニング系の音源を調べていました。父親の数千枚あったアナログ・レコードとオーディオは実家の荷物整理の際に全て処分してしまったので自分の記憶をたどる旅になりました。

それらのオーケストラは映画音楽のヒット曲やヨーロッパでのヒット曲、そしてビートルズやサイモンとガーファンクルなどのヒット曲をカバーしていましたが、その中に作曲:バート・バカラック、作詞:ハル・デヴィッドという名前をレコードの解説書(ライナーノーツ)にいくつか見ることがありました。彼らが手掛ける曲は明るいのに悲しくそしていつもどこか遠くに行ってしまうような気持ちにさせられました。特に気に入ったのが「世界は丸い」という曲で「失われた地平線」という映画の主題歌とのことでした。三拍子系のリズムに乗った終わることにないようなメロディは子供心に本当に世界は丸いんだという気持ちになったものです。当時美少女として大人気だったオリヴィア・ハッセーが出演していたことも子供心に印象に残っています。その後カーペンターズが好きになって彼らもバート・バカラック/ハル・デビッド提供曲を多数取り上げていることがわかるようになります。

時はだいぶ経って大学生の頃、バート・バカラックのことをもっと知りたくて調べた時期があります。その頃はバカラックの情報はあまり無くてレコードとかもあまり見つからなかったのですが大学近くのマニアックなレコードレンタル店で60年代のアルバムやディオンヌ・ワーイックに提供した作品とかは聴くことが出来ました。もっと渋谷や青山の本格的な専門店に行けばあったのでしょうけど当時の自分にはそこまでの行動力は無く、日本でバート・バカラックの情報が容易に入手できるようになるのはCDが日本でも普及した1980年代後半にWAVEなど輸入CDショップが一般的になってからだったと思います。その頃再発されたバカラックのCDやベスト盤的なコンピレーションもいくつか集めましたが「世界は丸い」の原曲を見つけることは出来ませんでした。当時はイージー・リスニングやラウンジミュージック的な音楽はまだ再評価前で再リリースは充分では無かった気がします。

90年代に音楽業界入り音楽出版社との付き合いも出来てそこで出版社が管理するバカラックの全曲集的なものも聞く機会があったのですがその中でも「世界は丸い」は収録されていなかったように思います。もしかするとバカラックの曲だというのは間違いだったのかなと思いましたが、収録されていないのはある理由があったのですがそれについては後で判明することになります。またしばらく「世界は丸い」については忘れていました。

時代はさらにすすんで2000年以降でしょうか。ネットで曲名で検索すると、ありました!「The world is a Circle」が。子供の頃はポール・モーリアによるカバーだと思っていましたがフランク・プゥルセルによるカバーだと判明しました。今聴くと原曲より高いキーで演奏されていますね。イントロのコーラスと主メロに寄り添うハモンドオルガンのサイン波の響きが心地よいです。

しかしバート・バカラック本人のものは見つからず、いくつかあったバージョンも他のアーティストによるカバーばかりでした。そして映画の曲であることを思い出しYoutubeで曲名検索をするとオリジナル・サウンドトラックのバージョンがやっと出てきました!キャストが歌ったテイクはワルツのリズムで子供たちと一緒に歌った歌がとても優しく穏やかなもので自分がずっと探していたものでした。これが2010年頃だったと思います。何とか映画も見ることは出来ないかとネットで検索してみましたが「失われた地平線〜Lost Horizon」は興行的には大失敗したようで日本版DVDは見当たらずわずかに海外版DVDがネット上にあったように思います。単に自分の調査不足のせいではありますがその時点でWikipediaも含め映画や作品の情報があまり無かったように思います。

そしてこの正月に自分の聴いてきたものを手繰り寄せるべくポール・モーリアやフランシス・レイのストリーミング未配信アルバムなどを検索していた影響なのか、なんと一昨日ぐらいからおすすめ動画に Lost Horizo​​n 1973 - The World Is A Circle のシーケンスが現れるようになりました!GoogleのAIレコメン機能、恐るべし。

大人たちの会話イントロから子どもたちの「Why?Why?Why?」のコールを受けてのキャサリン先生の歌い出し、抱え上げられた子供の「Woh woh」や、コメディアン・ハリーのレスポンス、まるでこの曲自体が一つの物語のように、そして曲が終わりに再びストリングスによる主題メロディがオーバーラップする〜ストーリーは全くわかりませんが先生と子どもたちが輪になって歌うシーンの美しいこと!音だけずっと聴いていた自分にとっては映像は想像していたもの以上のイマジネーションを与えてくれました。50年経って初めて聴覚と視覚が繋がる大きな感動でした。

バカラックさんのWikipediaによると「失われた地平線〜Lost Horizon」は興行的な失敗と同時にバート・バカラックとハル・デヴィッドの長らく続いたソングライター・コンビにも終止符を打つ作品となったようです。1973年リリースのバカラックのソロ作品「Living Together」からしばらくリリースがストップしているのもこのことが影響しているかもしれません。アルバム中には「失われた地平線〜Lost Horizon」で使われた楽曲も数曲、手直しされて収録されていますが「世界は丸い」は収録されず仕舞いでした。先に書いた音楽出版社の全曲集の資料にも掲載されていなかったのも同じ理由が起因しているかもしれません。バカラックさんのWikipediaによるとバカラックの自伝にこのあたりの記載がありそうなので日本版を入手してみたいと思います。

さらにこのnoteの中でも「失われた地平線 (1973年版)」について詳細にかかれていたShiominさんの記事を発見しました。大変充実した内容なので勝手ながら引用させていただきたいと思います。

こちらの記事では「失われた地平線」の原作やあらすじ、初映画化の1937年版の詳細とともにバカラックが提供した各音楽トラックの映像シークエンスも引用されており見ることが出来なかった「失われた地平線 (1973年版)」の大体の雰囲気を知ることが出来ます。Shiominさんの記事によるとこの映画は全世界で公開されたにもかかわらずほとんどヒットしなかったようですが何故かブラジルだけで大ヒットしたようです。1973年なら「ポセイドン・アドベンチャー」や「ウエスト・ワールド」などが公開されておりましたが「失われた地平線」の情報は全くキャッチ出来なかったです(笑)。アマゾンのレビューには劇場上映を見た方のコメントもあったので公開はされていたようです。しかしながらこの映画の再評価が近年高まっており関連のYoutubeにも称賛のコメントが集まっているようです。またバカラックさん自身も2008年のシドニーライブでのメドレーを皮切りに自身のライブでも「The world is a Circle」を取り上げておりその辺りが映画の再評価にも繋がっているかもしれません。

個人的にとても面白かったのは劇中の「Living Together, Growing Together」、中間部にオリヴィア・ハッセーとシャングリラのラマ教ダンサーズが踊るシーケンスの箇所がガムランとカリブ海音楽に影響を受けたサウンドで、まるでイエスの「海洋地形学の物語」やキング・クリムゾンの「太陽と戦慄」を思わせるものがあります。下にLost Horizonの音楽だけを集めた動画を引用しておきます!

また「The Things I Will Not Miss」という二人の女性が図書館で歌う曲は楽器の重ね方が後期ジェントル・ジャイアントというか、細かいシーケンスリフを多用して後のテクノのような打ち込み音楽を予想させるような表現をしておりとても興味深いです。サントラの制作も同じ1972年から1973年ごろ、バカラックさんにもプログレッシブロックなマインドがあったのでしょうか?そういう意味で「失われた地平線〜Lost Horizon」のサントラはかなりプログレッシブな雰囲気を思わせる箇所が他にもあります。興味を持った方はぜひ他の曲も聞いてみてください!

というわけで大変とりとめのない記事になりましたがずっと自分の頭の中になっていた音楽に50年目に初めて対面出来た自分的には大事件を書いてみました。バート・バカラックやフレンチ・ポップスを含めたイージー・リスニングについてもまだ書きたいことがありますので別の機会に書いてみたいと思います。それでは!

この記事が参加している募集

思い出の曲

最後まで読んでいただいたありがとうございました。個人的な昔話ばかりで恐縮ですが楽しんでいただけたら幸いです。記事を気に入っていただけたら「スキ」を押していただけるととても励みになります!