WIND PARADE '22のフィッシュマンズ
他にも書きたいライブが多数あるのですが記憶が薄れないうちにこのことを書かなきゃと思うのが先日の秩父ミューズパークで開催された音楽フェス「WIND PARADE '22」でのフィッシュマンズのライブ、ここに来てまた進化するのか!と驚かされたライブでした。
フィッシュマンズのライブとしては3月の「HISTORY OF FISHMANS DAY1」以来、野外でのライブは2019年8月の大阪・泉大津フェニックス「音泉魂」以来となりますが「映画フィッシュマンズ」公開後のある意味総決算的なライブだった「HISTORY OF FISHMANS」からどう変えてくるのかまたは変えてこないのか、大変注目していました。共演ラインナップもこれまでに共演歴の無いアーティスト、特に折坂悠太、カネコアヤノについてはこれまで共演してきたフィッシュマンズ・リスペクト世代よりさらに一段と若い世代のアーティストを起用しています(「HISTORY OF FISHMANS」でも鈴木真海子さん(chelmico)を呼んでいますが)。ここでの欣ちゃんの狙いはナタリーでの記事〜「WIND PARADE '22」茂木欣一(フィッシュマンズ)インタビュー!世代を超えた4組が鳴らすグッドミュージック〜でも語られていますが
フェス終演後に開催された「アフタートークショー」で主催プロデューサー陣から語られたエピソードでかなり明確な目標があったことがわかります。それは
この2つであったのだと思います。
1.はフィッシュマンズにとって重要なライブ会場だった「日比谷野音音楽堂」、人気があり公共性の高い施設ゆえに大変に競争率が高い会場で思うようなスケジュールで取れることが難しい会場です。同じように野外音楽フェスができる場所はないだろうかと探し回った結果見つけたのが今回の「秩父ミューズパーク」でありました。会場の形状そして野音より少し上回る?ほどの規模も充分です。ネックは都心からかなり離れた秩父の山合というロケーションの問題だけと考えられました。主催チームの目論見としてはフィッシュマンズと出演アーティストの魅力でその問題は充分にクリアできると思ったようです。
そして2,の共演者にいたっては出演を打診したアーティスト全員から快諾をもらうという順調ぶりだったようです(経緯については前回の「アフタートークショーに行ってみた」記事をご参照ください)。開催日も夏フェスのピークから少し遅れて9月に開催することで競合もなかったのかな?天候にも恵まれ結果として前々日には全席ソールド・アウトになるという嬉しい開催になりました。
共演した他の3アーティストについては一旦置かせていただき今回のフィッシュマンズのライブに絞り特筆すべきポイントを書いていきたいと思います。
茂木欣一(Dr, Vo)、柏原譲(B)、HAKASE-SUN(Key / LITTLE TEMPO、OKI DUB AINU BAND)、関口"ダーツ"道生(G)、原田郁子(Vo / クラムボン)、木暮晋也(G / ヒックスヴィル)
快晴の秩父は夕方になってもけっこうな日差しでしたがラストのフィッシュマンズのリハの頃にはいい感じで暮れてきました。リハーサルでの欣ちゃんの気合もものすごくキックの踏み込み、得意のグルービーなパターンで各キットの鳴りを丹念に確認しています。譲のベース、ハカセのキーボードも絡んでくると完全にフィッシュマンズのグルーヴ。ギターチームの二人もいつの間にかセッティングを終えていてオーガニックに突入したのが「土曜日の夜」。欣ちゃんはヴォーカルマイクもチェックしながらほぼフルコーラス演奏してました。この強力なフィッシュマンズのリハーサルに会場は全員釘付け、大きな歓声が湧きますがここでなにか今まで違うぞと感じておりました。これもしかして初めてフィッシュマンズを見る人が多いのか?
そして時間になると初めて聞く得体の知れないボイスコラージュのようなBGMに乗ってメンバー登場。それぞれ位置につくとおもむろにリズムがスタートします。1996年12月赤坂BBLITZの時の「Go Go Round〜」に近いイメージですがより深みを増した譲のベース、スペーシーなハカセのキーボード、DARTSさんと木暮氏のギターもエフェクティブに飛び交い一気にフィッシュマンズに世界に引き込まれました。そしてそのまま「なんてったの」に突入。もうこの時点で日は落ちて会場は真っ暗、ミュースパークの会場全員はフィッシュマンズの音宇宙に巻き込まれているようでした。そして原田郁子さんのヴォーカルをフィーチャーした「頼りない天使」。ハカセの弾くシンセパッドとリード音に導かれ「King Master George」からの秋の楽曲2曲はフィッシュマンズの力を見せつけます。
ここで欣ちゃんのMC「本当にこの日を楽しみにしていました。虫の声まで歓迎してくれているようです。ひさしぶりに野外で思い切りフィッシュマンズの曲を鳴らすことができるということで、思い切りやりたいと思います!」と満員の野外音楽堂に本当に嬉しそう。そしてメンバー紹介では特に柏原譲のベースを「今日も響かせています。あの支柱にヒビが入るぐらい響かせると思います!」と紹介すると、譲がブイブイとベースをグリスアップさせ「ヒビ入った?」と返す辺りが最高でした。「次はフィッシュマンズの記念すべきデビュー曲、『ひこうき』!」。欣ちゃんのヴォーカルも絶好調、木暮&DARTSの熱いギターソロも交え、このまま初期曲を中心にしたピースフルなライブを展開していくのかと思いきやここで異変が起こりました。
欣ちゃんのカウントとともに演奏されたのは「Smilin' Days, Summer Holiday」、ハードな楽器パートの応酬が特徴のこの曲でミューズパークの空気はガラッと変わりました。茂木&柏原の鉄壁のファンクリズムに乗せて原田さんのオートチューンヴォーカルとハカセのマジカルなシンセサイザー、DARTSのハードなギターが飛び交います。照明もダークな色調に転換しもう一つのフィッシュマンズの側面を見せつけます。そして続く「WALKING IN THE RHYTHM」の不穏なループリズムに乗って今回のライブの最初のピークがここでやってきます。「スペシャルゲストを紹介します!」という欣ちゃんの紹介で呼び込まれたのがなんとカネコアヤノさん。大歓声の中、パーカーっぽいラフな格好で歌詞カードを片手に恥ずかしそうにステージに入ってきたカネコアヤノさんですが「歩くスピード落として、いくつかの願いを信じてぇぇ」と歌い出すと彼女の周りに一気に磁場を作ったかのように見えました。佐藤君が居なくなってからのフィッシュマンズのライブで始めてみた光景でした。カネコアヤノさんはほとんど欣ちゃんの方を向いたままで客席側からはほぼ横向きか背中側しか見えなかったかと思いますが異様な佇まいでした。真っ赤な照明の中で演奏される「WALKING IN THE RHYTHM」、終盤で「WAKING〜」のコーラスが徐々にテンポダウンしてブレイクかと思いきや、いきなり早いロックビートを欣ちゃんが叩き出すとカネコアヤノさんはこの世のものとは思えない絶叫(スクリーミング?)をしてエンディングのブレイク〜ダダンっ、あ〜っ!ダダンっ、あ〜っ!という仕掛けをやってそのまま曲は終了しました。30年以上フィッシュマンズのライブを見てきたつもりの自分ですがこれまで経験したことがないような魔術的な光景でした。そしてそのまま「Weather Report」のイントロが流れてきたときは天上から救いの光がさしたかのように思えました。
世田谷3部作からフィッシュマンズ好きになった方には「Weather Report」はやはりアンセムのようでおおらかで開放的なビートに会場はすごい盛り上がりです。そして近年最もカバーされたフィッシュマンズ曲である「いかれたBaby」の最後のリムショットの後にもう一つのピークがやってきます。「みんなでじっくり音楽を感じることができて、本当に素晴らしい夜になりました。本当に心から感謝しています!」「今日このステージで一緒に立った素敵な仲間を紹介します」とカネコアヤノさん、折坂悠太さん、岸田繁さんを呼びこむと演奏されたのは「ナイトクルージング」。カネコ、折坂、岸田の3人がステージで並び歌い始めます。最初のバースは折坂悠太さんの「誰のせいでもなくていかれちまった夜にぃ」は帝王のような豊かな響き、2つ目のバースは岸田さん、「ああ天からの贈り物ぉ、いえ〜」の力強い美しさに圧倒されました。相変わらず恥ずかしそうなカネコさんをいたわるような原田さん、そして欣ちゃんのファルセットで繰り返される「ラ〜ララ〜ラララ♪」のリフレイン。この奇跡のような風景は会場にいた全員が受け止めた正に”天からの贈り物”でした。
この最高潮のところでライブは終わるのかなと思いましたが最後に再びフィッシュマンズだけで演奏された曲は「SEASON」。今日もステージにレスリースピーカー(ハモンドオルガン専用の回転スピーカー)があるなと思っていたらこの曲のイントロでハカセのオルガンとともに荘厳に響き渡っていました。欣ちゃんの歌声は今日の素晴らしいフェスティバルのフィナーレに相応しい穏やかな鎮魂歌のように聞こえました。本当に最後まで素敵なライブになりました。
自分の中ではカネコアヤノという魔術的なヴォーカリストとフィッシュマンズの邂逅に驚かされたライブでしたが、後のツイッターやソーシャルを見るとこのライブで初めて生のフィッシュマンズを見たという方がかなり多かったように感じます。佐藤伸治が居なくなってからも断続的に活動をしていたフィッシュマンズですが近年の再評価と「映画フィッシュマンズ」が公開されさらに大きく客層が拡がっていながらも、実際の関東圏でのライブはZepp Tokyo「闘魂2019」と恵比寿リキッド2DAYSライブ「HISTORY OF FISHMANS」の抽選に応募が殺到した限られたライブだけとなりほとんどの方がライブが見れていない状態が続いていました。都心から距離は遠かったけどやはり3000名以上の客数を収容できるキャパシティを持つ秩父ミューズパークは素晴らしいライブ空間を提供してくれました。また子供は無料ということで自由席エリアではキャンプシートで家族でいらっしゃる方たちも少なからずいたようでフィッシュマンズ結成30年の歴史を感じました。いろんな世代のファンの方に初めてフィッシュマンズのライブを体験してもらい、部外者ながらフィッシュマンズとともに音楽人生を歩んできた自分にとっても大変に嬉しいフェスになりました。
他の共演者を含めた公式レポートはコチラです。
他のアーティストについても後日書いてみたいと思います。
それではひとまずありがとうございました!