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ビジネスの最適解が必ずしもD2Cではない

こんにちは。SUPER STUDIOでCOOをしている花岡です。

前回は会社について長々と語らせていただいたのですが、今回はD2C×SaaSで事業展開するSUPER STUDIOが「D2C」をどう捉えてるのかについてお話しできればと思います。

最近、D2Cはスタートアップにとどまらず、大手企業からも注目されています。D2Cについて有名なメディアが特集を組みだしたり、本が出版されたり、イベントが開催されたり。弊社でも「MASTERPLAN」というD2Cイベントを開催しています。

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そんな盛り上がっているD2Cですが「ECと何が違うの?」「つまりメーカーのこと?」など、中々新しい単語なのでいまいち何のことかわからないという声も多く耳にします。

ですので、この記事では僭越ながらD2Cについて情報発信できればと思います。

結論ファーストで書くと、D2Cとは、デジタル化によって変化した消費行動に最適なマーケティングフレームワークの1つだと思います。

その特徴を有名な方々が定義してくださっており、僕も共感する部分が多々あります。具体的には以下の内容。

①デジタル
②ユニークな体験を与えるプロダクト
③垂直統合したサプライチェーン
④顧客とのダイレクトな対話
⑤データドリブン
⑥VCから資金調達を行って短期間で急成長

ただ、定義だけ見てもイメージしづらいと思いますので、この記事では、D2Cが盛り上がっている背景から、定義の各要素について僕が感じていることをお話しできればと思います。

1. そもそも、D2Cがなぜ盛り上がっているのか

なぜD2Cが盛り上がっているのかは「ものづくりのビジネス化」について考えてみるとわかりやすい気がします。

ものづくりで成功している「Nike」や「Apple」といった有名なブランドは、従来の販売チャネルである小売店(ABC-MART、ビックカメラ等)、モール型EC(Amazon、楽天等)への卸しはもちろん、自社ブランドのリアル店舗やECサイトなど、消費者向け販売チャネルを網羅的に持った上で、マスからデジタルまで幅広くマーケティング施策を実施しています。

しかし、事業立ち上げフェーズでこれらのマーケティング施策を全て行うことは、膨大な投資が要求される上に、投資したからといってビジネス変数が多過ぎて再現性をもった成功をすることも困難。要は参入障壁がものすごく高い状況だったわけです。

そんな中、世の中に「デジタル化」という大きな変化が起きました。

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ご存知の通り、2014年頃からスマートフォンの本格普及により、人々の住処がマスからデジタル(インターネットメディアやSNS)に移りました。

スマートフォンを触って情報に触れることは、人々のライフスタイルになったのです。

どの時代も、ビジネスの中心にはいつも人がいます。
そして、人のいるところにはお金が発生すると昔から言いますよね。

人々の住処がデジタルに移ったことで、人々にアプローチする手段である広告も、マス主体から徐々にデジタルにシフトし始めました。

デジタル広告ではマス広告と違い、誰でも顧客属性別にセグメントがきれたり、費用対効果を見ながら予算制御できたり、リスクなく効率的に広告を配信することが可能です。
昨今ではアドテクノロジーの進化によって、広告の最適化ロジックの精度も非常に高くなり、伝えたいクリエイティブを配信するだけで効率的にターゲット顧客にリーチできるようになりました。

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要は、デジタル面において消費者に直接リーチできる販路が十分な規模で確立されたことで、ブランドは独自の消費者向け販売チャネルを迅速かつ、費用対効果の高い方法で構築することが可能になりました。

これにより、ブランドはコスト的なリスクを抑え、一定の再現性を持ち、かつ迅速にビジネスを立ち上げやすくなりました。

いつの時代も、こういったビジネスには様々な企業が参入してきます。

その結果、現在、「D2Cの波がきている」と騒がれているのだと思います。


2. デジタル化がもたらした消費行動の変化

デジタル化がもたらした、もう1つの大きな変化があります。
それは、消費行動の変化です。

日本は豊かになったことで、消費行動としてただ機能的に役に立つ商品(機能的価値)を買うのではなく、意味のある商品(情緒的価値)にお金を出すようになりました。

意味のある商品とは、商品の生まれたストーリーやコンセプト・世界観などに共感したり、商品から得られる体験に価値を感じたり、何かしらの情緒的価値のある商品のことです。


例えば、電子レンジの機能的価値は、ものを温めることです。
電子レンジは機能的価値の追求によって、オーブンがついたり、食材や状態毎に最適な温め方が選べるようになったり、様々な機能的進化を遂げてきました。
しかし、これらを満たす電子レンジは、豊かになってしまった日本では1万円もあれば購入することができます。

一方で「BALMUDA」の電子レンジは、むやみに増えた機能的価値から無駄を削ぎ落とし、「キッチンを楽しくする」をコンセプトにインテリアとしての要素や、音楽が流れるという新規性を情緒的価値として加えたことで、電子レンジの4倍もする販売価格にも関わらず、消費者に選ばれる電子レンジとなりました。

これはほんの一例ですが、消費者はただ役に立つ商品を買うのではなく、意味のある商品にお金を出すという消費行動が加速しています。

これを加速させている背景には、スマートフォンの普及により日常的に情報に触れたり、SNSで情報を共有するというライフスタイルの変化があることは間違いないと思います。

もちろん、消費者の消費行動が全てそうなることはありえません。
今まで通り、安価で機能的価値がしっかりある役に立つ商品は購入され続けますし、当然、流通数でいえばそちらのほうがシェアはまだまだ多いと思います。

ただ、価格競争合戦では大手企業に太刀打ちできず、市場の成長も旧態依然としていた分野において、スタートアップ企業が独自の世界観をもってユニークな体験を生み出せる商品を作り、D2Cというマーケティングで一矢報いることが可能になったことは間違いないのではないかと考えています。

これもまた、D2Cが盛り上がる追い風になった一因なのかなと思います。

3. SUPER STUDIOが考えるD2Cの定義

さてさて、D2Cがなぜ盛り上がっているかについて、諸々書かせていただきました。

消費者の住処の変化
広告業界の変化
消費者ニーズの変化

D2Cはこれらの変化を経た現代において、最適なマーケティングフレームワークの1つだと考えています。

立場上、よく「○○はECをやっていないからD2Cじゃないですよね」とか「○○は小売店に卸したからD2Cじゃないですよね」とかよく質問されます。

D2Cはただのフレームワークですので、正直、D2Cであるか否かを議論することに意味がないと考えています。

D2Cのマーケティングフレームワークに準拠していたら、D2Cということでもいいと思うし、該当するマーケティングを部分的に使っている事業も自身or他人がD2Cと呼ぶのであれば、D2Cで良いんじゃないでしょうか。笑

大事なのは、なぜD2Cというマーケティングフレームワークが今有効なのかの本質を知り、良いところを活用し、世の中に価値を提供していくことだと思います。

SUPER STUDIOでも、D2Cのフレームワークに準拠することが必ずしもビジネスの最適解ではないと考えており、事業の特性やフェーズ毎に様々なマーケティング手法を取り入れています。

ただ、事実としてD2C的なマーケティングが現在の消費者には受け入れられており、再現性をもってビジネスを拡大できている1つのモデルであることは間違いないです。

当然、歴史を見ても明らかですが、これは消費者行動の変化によって少しずつ変わっていくと思います。

最後に、D2Cの定義で語られているいくつかの要素について、現場でD2Cを遂行している一人としてお話できればと思います。

3-1. デジタル

D2Cは「デジタル」であるとよく言われますが、今からブランドを立ち上げる際に、ECサイトを立ち上げない事は、特別なマーケティング戦略でも無い限り、絶無の選択なのではないかと考えます。

弊社が手掛けている多数のD2C事業も、デジタルファーストで戦略を組むことが多く、そのデジタル戦略をなんの制限もなく実現できるように基幹システム「EC Force」を開発しています。(弊社では、システムもマーケティングの一部だという考えを持っています。)

おそらくD2Cの「デジタル」は、従来と比較すると、デジタルファーストな戦略がコスト・スピード・再現性といったあらゆる観点で合理的なので、デジタルファーストで立ち上げましょうという意味が込められてると理解しています。

実際には、デジタルファーストで立ち上げた後、さらなる事業拡大フェーズでD2Cに定義されていない「リアル店舗の出店」や「小売への卸し」などを行うことは、ブランドの定石になりつつあります。

3-2. ユニークな体験を与えるプロダクト

上記で書いた通り、消費行動の変化によってユニークな体験を与えることのできる商品が求められているわけですから、シンプルに世の中のニーズと合致していますよねというお話ですが、リアルなことに触れると、ユニークな体験を与えるプロダクトは基本的にお高いです。笑

様々な商品を見てもらえばわかると思いますが、「機能的価値のみの商品」と「ユニークな体験を与える情緒的価値のある商品」では、LTVベースで価格差が2倍以上あっても売れるという事実があります。

これはデジタルマーケティングとの相性が良いです。
デジタルマーケティングの多くは、LTV・LTVにかかる諸々の原価・CPAの予実によってユニットエコノミクスが成立するのかを確認していきますが、経験上、ユニークな体験を与える商品だからといって、CPAが異常な安さで取れることはほとんどありません。

ただ、やはりユニークな体験を感じてもらえると、満足度が大きい分、LTVも高くでます。

結果的に、ユニークな体験を与えるプロダクトのほうがユニットエコノミクスは成立しやすいということです。

ほんの一例ですが、全てはマーケティング戦略次第なので傾向の話だと捉えてもらえればと思います。

ちなみに、定義に「ライフスタイルブランド」であるというワードが入っていることが多々ありますが、これは「こだわり」や「体験」を買っていることを表現しているのだと解釈してます。

3-3. 垂直統合されたサプライチェーン

デジタルファーストで戦うということは、自社ECサイトを持ち、運営することを意味するため、広告はもちろん、物流、コールセンターといったあらゆる工程を運営は管理下に置くことになります。

大変な分、従来の方法ではブラックボックスだったコスト構造も管理下になるため、様々なマーケティング戦略を組み高速なPDCAを回すことも可能という意味で、垂直統合されたサプライチェーンは武器になると言えます。

消費者に提供したい体験を設計し、マーケティング戦略として実行した際、広告面、ロジやコールといったあらゆるユーザとの接触点に一貫性を持った施策を仕込む事が可能であり、それは明確にLTVを引き上げることを意味します。

ただ、これらを全て管理することはものすごく大変なため、部分的にD2Cソリューションを提供する弊社の「Apollo D2C」というサービスが大変ご好評いただいております。


3-4. 顧客とのダイレクトな対話

デジタルファーストなマーケティングでは、商品を販売する前からSNSで対象顧客を集めてコミュニケーションを取ったり、リリース後もブランドからPUSH型で会員にオンライン・オフライン含めてのコミュニケーションを取ることも多々あります。
また、コールセンターに集まる顧客からの問い合わせも重要な対話の1つだと考えています。

つまり、デジタル面を“入り口”に消費者と繋がり、オンライン及びオフラインでも顧客と対話することで、想定通りユニークな体験を感じていただけているかを確認したり、対話で得られた顧客からのフィードバックを商品改善や新たなマーケティング施策に活かすことができることは、非常に大きなメリットだと考えています。

ただ、「消費者の声を聞く」ということを、消費者の声をなんでもかんでも反映させると捉える方がいますが、僕たちは経験上、消費者の声をそのまま取り入れることは、必ずしも商品をよくしないケースが多いと考えています。

表面上の声ではなく、消費者がなぜそう答えたのかの本質を探り、消費者の真の声を見極め施策に落としていくことが非常に重要です。

また、消費者とのコミュニケーションという意味では、クラウドファンディングは相性も非常に良いので、弊社でも立ち上げ時には、活用させていただくケースも多々あります。

3-5. データ・ドリブン

データ・ドリブンな意思決定が優れていることは改めて言う必要はないと思います。
自社ECを持つことで、あらゆるデータを管理下におき、精度の高いデータ・ドリブンな意思決定で行うことができるのは大きなメリットと言えます。

実際に自社ECにおいて、事業によっては、立ち上げから3ヶ月程度でユニットエコノミクスが成立するかを早期に確認することできますし、データから問題箇所を容易に特定することもできます。

また、人は言葉では嘘をつくこともありますが、行動では嘘をつきません。
そういう意味で、僕たちはECのデータを、消費者のアクティビティログだと捉えており、もう1つの重要な消費者の声だと考えております。

ですので、消費者の生の声による定性的な情報と、データ分析から得られた定量的な情報を掛け合わせて、より本質的な情報をインプットしながらビジネスの意思決定を行うことが事業を真に良くすると考えています。

弊社でも、D2Cプロジェクトの健康状態をデータの観点から常に可視化し、それに加えてリアルの定性的な情報を付き合わせながら施策の意思決定を行っており、一定の再現性を持った形でビジネスが成立しています。

3-6. VCからの資金調達

この定義に対しては様々な意見を聞くことが多いです。
「VCじゃなくても良くない?」とか「資金調達なしでもいけるくない?」などなど。
僕も初見そう感じましたし、共感しますが、D2Cはあくまでもフレームワークなので、ベターだという程度に捉えておけばいいのでないかと思います。

事実、資金調達が必須というわけではないと考えています。全てはマーケティング戦略次第なので。
ただ、上記で述べた通り、デジタル&データ・ドリブンの大きなメリットとして、早期に事業のユニットエコノミクスの成立可否をある程度高い確度で見極めることができます。

そのため、資金を出す側(VCや銀行)にとってもお金を出しやすいですし、お金を受け取る側も、アクセルを踏めば拡大することはある程度見えているわけだから、資金調達との相性が良いのは事実だと思います。

ただ、売上を伸ばすための無理なマーケティングは、ブランドイメージ、つまり体験を損ねるリスクもあるため、バランスが大切であり注意が必要です。

また、ユニットエコノミクスが成立していないのに過度な資金を投下して、IPOを前提にするのは全く本質的ではないなと思います。実際、LTVあげるって簡単ではないので。


以上、D2Cについて書いてみました。


最後に、途中でも言いましたがD2Cは現代にマッチしたマーケティングフレームワークというだけなので、D2Cの定義に準拠することがビジネスの最適解ではないと考えています。

ですのでSUPER STUDIOも、現段階ではD2Cというマーケティングフレームワークを採用することが多いですが、本質的には商品や事業のフェーズに応じた最適なマーケティング戦略を実現していくことが重要だと考えています。

そのために、マーケティングの一部であるシステムのアップデートを追求していきますし、ものづくりをビジネス化するマーケティング戦略についてもどんどんブラッシュアップしていく事業会社でありたいと思います。


長々と書きましたが、お読みいただきありがとうございました。

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