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AKIHABARA/YAMANO ONKYO SHINRI KENKYUJO 秋葉原 山野音響心理研究所 サイコリストラクチャ− 山野音彦

サイコリストラクチャ−山野音彦
それは、音楽推理心理サスペンスという新しい領域
山野音彦という音楽評論家が、ある特定の人物にとってかけがえのない、
たったひとつの音楽を推理し、探し出し、その人物の良心を蘇らせて
事件を解決へと導く話しである。

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/登場人物


山野音彦 / 

音楽評論家、レコードコレクター、山野音響心理研究所、サイコリストラクチャ−


ナガオカ サファイア /

3人の姪っ子、もちろんあだ名、苗字は長岡、美人3姉妹、90年代の音楽全般を3人でフォローする。  

     
ルビー  /

FMラジオ局のナビゲーター、レコードショップ店員、クラブDJ などをしている。


ダイアモンド /

チャ−リ−ズエンジェルやキャッツアイのような3人。

赤井かえで /

 京都大学心理学部応用心理学助教授、山野とは同級生、研究室にのこる。彼の異端的指向に?、元恋人。


山水 純一 /

音楽雑誌 JAZZ FAN, ROCK'N STONES,編集長。音彦、かえでと旧友。音彦を音楽評論家に仕立てた張本人。


追田権三(ツイーター) /

京都ジャズ喫茶仲間、警視庁刑事部長、山野を頼りにする、仕事の発注人。


宇波隆司(ウーファー) /

その部下、警部補。


鳥緒 真 /

大手家電メーカー系クイーンレコード副社長兼演歌推進部部長。東京ジャズクラブ会長。京都ジャズ喫茶仲間。


白河南海雄 /

大手広告制作会社南海新社社長。戦後ハワイアンバンドで、ワシントンハイツ(進駐軍将校クラブ現代々木公園)や アメリカンクラブ(現在も飯倉片町にある)などで馴した。音彦を息子のように思っている。


JERRY.来栖 /

日系二世元アメリカ海軍広報部FEN(米軍極東放送)設立チームの一人。白河の旧友。横須賀在住。ビッグバンドでクラリネット奏者。


秋葉原ラジオデパートの親父たち /

音彦と数十年の付き合い。レアなパーツや不思議な掘り出し物に必ず答えをもっている生き字引たち。


剣山影男 /

京都大学心理学部応用心理学名誉教授、音彦とかえでの卒論担当だった。音彦の卒論を認めずそのアイディアで博士号をとった男。


そして音彦のブレーンとしてゲスト出演するミュージシャン達。


50-60年代アメリカンポップス、R&B /山下達郎、大滝詠一
50-60年代ブリティッシュ、サイケ、グラム /今野雄二
70年代ハードロック /渋谷陽一
70年代ポップス/小西康陽
80年代テクノ /巻上公一
ビートルズ /財津和夫ほか、チームの必要性あり


さらに謎の組織、CANDY MAN  /

ヴェトナム戦争時に設立された広報組織、真のサブリミナル効果を開発し世論を操作する。麻薬開発も行っている。


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/INTRO

 秋葉原、ラジオデパート。JR総武線高架下、何万種類もの電子部品を扱う高密度圧縮された商店群の有機的な迷路。

そこを訪れる人々は、毛細血管をながれる赤血球に似ている。
オーディオ系真空管を扱う店先。何百もの過去の真空管を頭の中にリストアップしている初老の女主人に家賃の滞納をせめられている一人の男。

山野音彦。
音楽評論家、レコードコレクター。

「山野さん。今日こそは3ヶ月分の滞納家賃キチンと払ってもらいます」
まるで時代劇の大家のおかみさん。

通路に面した顔なじみのパーツ屋親父連は、そのやりとりをにやにやしながら聞いている。
「では、事務所まで来てください」
地下につづく階段へ人をかきわけゆく音彦と怒りの女主人がつづく。
彼の事務所兼住居はこのラジオデパート地下3階の元倉庫である。
親父連はいっせいに顔を見合わせ、指で合図しながら取り立て成るか否かをにぎりはじめる。
毎度のことである。
事務所とはいうものの、そのほとんどは日本でも屈指な彼のレコードコレクションの倉庫である。そしてここ何十年ものオーディオの歴史を語るに十分な再生装置の山。

「これ聞いて、ちょっと待っててください。」
音彦は棚から一枚のSP盤を取り出す。

そして再生装置をひとつ選び真空管が暖まるまでの数分間、紅茶を彼女のためにいれる。

1分間に78回転のターンテーブルにのせたSP盤の溝に、丁寧に針をのせる。
心地の良いスクラッチノイズの奥から、明るく懐かしいタンゴが聞こえてくる。

”バルバナス・フォン・ゲッツイ楽団「蒼空」”

ティーカップを口元まで引き寄せている女主人の動きが止まる。
眉間をかたくしていた表情が和らぎ、瞳は何かを思い出そうとしている。
音彦はそっと別室にゆき、彼女を想い出の時間の中に浮かばせる。
タンゴが終わる。
家賃を封筒に入れて、音彦は部屋にもどる。

紅潮した頬の瞳潤ませた少女のような女主人がそこにいた。

たったいままでこの部屋に流れていたタンゴのメロディをくちずさみながら、同じ姿勢のまま夢心地で遠くを見ている。

「奥さん。家賃です、3ヶ月分」
柔らかな声がこたえる。
「夢のようだったわ。毎日が、あの頃」
音彦はちょっと笑ってくりかえす。
「奥さん。家賃です、3ヶ月分」
艶やかな声が返る。
「あら、家賃なんて。出世払いでいいの」
ありがとう山野さんまた聞かせてねと言いのこして店に戻っていった。

『音楽と記憶』---サイコリストラクトの効果。
それが山野音彦がずっと興味を持ちつづけているテーマだ。

 午後7時をさかいに秋葉原の商店の多くは店じまいを始める。
ラジオデパートのひとつひとつの通路に面した2mほどの店もシャッターを閉める。
そして8時には非常灯がところどころともるただの暗い通路になる。
山野音響心理研究所が活動をはじめるのはこの頃からだ。
6ー7分おきに通過する総武線の低い振動も、慣れてしまえば地下3階の不自然な静寂を忘れさせるための味のひとつだ。

無共鳴室でレコードを聞こうとは思わない。
音彦はそう思っている。

デスクに原稿用紙と資料をひろげる。『月刊レコード&サウンドマガジン』に連載しているコラムを書くためだ。”和製ポップス1972”と題した特集を今年の春から始めた。1970年代の日本を和製ポップスから浮かび上がらせようという試みだ。
書き物をするときはあまりレコードはかけない。
どうも聞き入ってしまう。
あげくのはてにアイレイウィスキーの棚へ。
ということが多くて、まずはFMかテレビのニュースを流しっぱなしにする。

 週末の夜には音彦の姪たちは遊びにこない。

自称”援助奴隷美人3姉妹”長女からルビー、サファイア、ダイヤモンド。”もちろん呼び名でえ!”
名字は音彦の年の離れた姉の嫁ぎ先の長岡姓、22、20、18才の姉によく似た美人3姉妹。

多少のバイト代を出して、持ち回りで音彦の夕食や事務所の掃除、資料のデータベース化などをやらせている。
もちろんそれぞれは、音彦の影響でなにかしら音楽関係の仕事についている。
音彦の膨大なレコードコレクションは彼女たちにとっても宝の山なのである。

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第1話 『スクラッチ』

秋葉原、ラジオデパート。JR総武線高架下、何万種類もの電子部品を扱う高密度圧縮された商店群の有機的な迷路。

そこを訪れる人々は、毛細血管をながれる赤血球に似ている。
オーディオ系真空管を扱う店先。何百もの過去の真空管を頭の中にリストアップしている初老の女主人に家賃の滞納をせめられている一人の男。

山野音彦。
音楽評論家、レコードコレクター。

「山野さん。今日こそは3ヶ月分の滞納家賃キチンと払ってもらいます」
まるで時代劇の大家のおかみさん。
通路に面した顔なじみのパーツ屋親父連は、そのやりとりをにやにやしながら聞いている。

彼の事務所兼住居はこのラジオデパート地下3階の元倉庫である。事務所とはいうものの、そのほとんどは日本でも屈指な彼のレコードコレクションの倉庫である。

そしてここ何十年ものオーディオの歴史を語るに十分な再生装置の山。
それが山野音響心理研究所である。
デスクに原稿用紙と資料をひろげる。
『月刊レコード&サウンドマガジン』に連載しているコラムを書くためだ。
”和製ポップス1972”と題した特集を今年の春から始めた。
いつになく筆が進む、そんな夜に限って何かある。

呼び鈴がなる。夜間出入り口のチャイムだ。ドアの前に小包の小さな段ボール箱。
電話がなる。

警視庁刑事部部長追田権三。先日の一件以来連絡もなかった京都時代の旧友からだった。

追田の送らせた小包の中には、何年も前に描かれたらしい子供の描いた自由画、古い120分のカセットテープ、大学ノートに書かれた自作自演の歌のコード譜、そして1枚のレコード、1967頃のナンシーシナトラとリーヘイズルウッドのアルバム。そしてその持ち主の略歴のメモが入っていた。

「いつも強引ですね」人の好意を利用して高みの見物をしている。そんな印象を先日いらい追田に抱いている。

「いや、君の言う『音楽と記憶』ってやつがとても興味深くて、俺も確かめてみたいのさ実際に」

『音楽と記憶』---サイコリストラクトの効果。

それは山野音彦がずっと興味を持ちつづけているテーマだ。

「で。持ち主は何者なんですか」

「それは今は言えない。ただ彼は極度の緊張状態のなかにいる、6時間程まえから。はやいとこ楽にしてやりたくてな」

「会って話は」

「出来ない」

そんな不十分な状況では何も出来ない。音彦はそういって断ろうとした。

しかし巧妙な追田のからめ手で音彦は調査を始めざるを得なくなる

期限は12時間後。明日の正午だ。

資料をデスクにひろげる。思い付く考えをポストイットに書き張り付ける。


 自由画/

小学校低学年らしい色鮮やかな原色。/

大きな乗り物の中にいる自分?/

黄色い戦車と黒い怪獣/

大きな鳥と翼のしたの小鳥。 

カセットテープと歌詞ノート/

中学校頃の自作自演のオリジナル曲/

上手くはないが音程は確か/

17曲ものニューミュージックスタイルのもの。

30cmLP/ほとんど新品に近い状態で30年近く経っている/

B面に大きなひとすじのスクラッチ。そのため針が飛ぶ。

略歴/1956年生まれ/小学2年の時に両親が離婚。

何度も聴き、資料を見る。会ったことのない人物を自分の中に浮かび上がらせる。
気になることがある。モノラルラジカセで録音したアマチュアの自宅録音テープ。チューニングの正確さとkeyによってのコード感のこだわり、曲の頭にチューニングがつづく、フレット音痴の安いギターとの追っ掛けっこ。
発声は確かではないが、音程の正確さ。気になる。

そして、17曲の淋しい気持ちと四季折々の情景を比喩として唄った歌。
音彦はギターをとりだし、自分で弾いてみる。

声のでない音程、声の出る音程、自分の音域とは関係なくkeyを設定している。
あれだけ音程やコード感にこだわるのに。

彼の絵をながめる。

小学校2年ー両親の離婚ー大きな明るい色と小さな自分
絶対音感ーコード感ー色彩ー?
この中に彼がいる。

音彦が狂ったようにメモをかきだす。

17曲の歌の中の情景の色彩とkey。


並べなおす。

白い冬のうたーAm
水面の霧  ーAmaj7 key A(ラ)

夏の海のうたーE
夜の蒼い空 ーEm       key E(ミ)

夕陽のなかの時間ーG
秋の夕暮れ ーG/Em     key G(ソ)

明るい陽射しーC
暖かい幸せ ーCmaj7 key C(ド)

夕暮れの部屋の明かりーD key D(レ)

残りの曲も同じ分類に入る。/key F と B は開放コードではない。

夜明けだ。窓のないこの部屋ではこの時間の空の色が見えない。
彼ならどんなコードでこの時間を歌うのだろう。

あと6時間。

音彦はバイト代倍付けを餌に、週末を朝まで踊り明かしているだろう彼の信頼できる3人の姪っ子にスクランブルをかけた。

自称”援助奴隷美人3姉妹”長女からルビー、サファイア、ダイヤモンド。あだ名である。

名字は音彦の年の離れた姉の嫁ぎ先の長岡姓、22、20、18才の姉によく似た美人3姉妹。

多少のバイト代を出して、持ち回りで音彦の夕食や事務所の掃除、資料のデータベース化などをやらせている。

もちろんそれぞれは、音彦の影響でなにかしら音楽関係の仕事についている。
そして、音彦の膨大なレコードコレクションは彼女たちにとっても宝の山なのである。


音彦の頭の中にはひとつのメロディーが流れていた。

ことりがね/おまどでね/おくびをふりふりきいてるよ/
おめめがね/かわいいね/きれいなおとだときいてるよ/
ヤマハ、ヤマハの/おんがくきょうしつ


サファイアは中古レコード屋を洗い、インターネットで誰もが捨ててしまいそうなそのレコードをチャット仲間から手に入れる。

ルビーとダイヤモンドは履歴をたよりに調べた。

推測どおりこの人物は幼稚園から両親が離婚した小学校2年の冬のある日まで、
毎週金曜日の午後この歌を歌っていた。
楽譜のドレミは色分けされた音符がこの時代の進歩的音楽教育方針だった。
そして、この日を境に彼の生活は劇的に変わってしまった。

音彦はそのレコードにあのLPとおなじように、ルビーのしていた指輪でスクラッチをいれる。
3姉妹に罵倒されながら、待っていた追田の部下、宇波に手渡す。

「この時間で出来ることはこの1枚です。思い出すまで何度でも聴かせてあげてください」


誰のための、何のための1枚かは、今回も知らされない。

しかし、昨夜から音彦の事務所で流しっぱなしだったTVのニュース特番で中継されていた事件、

『山の手信用金庫強盗人質立てこもり事件』は夕方までに解決した。

隙をついて警察が突入した時、犯人は何故か泣いていた。それは調書には記録されてはいない。

『人は心のキズの痛みから一時的に逃れるために音楽を聴く。選ばれたその音楽はキズを癒し塗り固める。それは逆に長い時間のあとその音楽によってそのキズを思い出させる原因となる。忘れていれば忘れているだけ鮮明に。』

山野の持論である。


To be Continue 

20220227

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