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AKIHABARA/YAMANO ONKYO SHINRI KENKYUJO 秋葉原 山野音響心理研究所 サイコリストラクチャ− 山野音彦

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/Special Story"HOLY GHOST"


 ダイヤモンド(音彦の姪/3姉妹の末っ子/18歳/元WAVE勤務)が音彦のところへ面白いものを持ってきた。

最近みんながしている新型ヘッドフォン。そんなもの子供だましのおもちゃだとばかにしていた音彦だったが、けっこう良い音がする。ところがその新型ヘッドフォンはそれだけではなかった。一緒にパッケージングされているデモCDを聴くとビートが身体にぶつかってくるように聞こえる。どうゆう仕掛けになっているのか不思議だ。前から震動型のヘッドフォンはあったがそれとは違った種類の聞こえ方だ。

スケルトンボディのそのヘッドフォンにはかわいい幽霊のマークと、

『made in japan/ vibra/// ghost /ver.1.0』

の文字が小さく印刷されていた。


 ”1999年、日本中のタガがすべてゆるんだ。”


音彦のデスクのはじにはられた覚え書きの何百ものポストイットのなかの古びた1枚。
そして2001年に入ってもその傾向はさらに、深みに入ってゆく。

『渋谷ハチ公前無差別刺殺事件』
『新宿アルタ前集団暴行事件』
『表参道明治通り交差点暴走ひき逃げ事件』
『銀座4丁目交差点通り魔刺殺事件』ほか23件。


警察官、自衛官、教師による多くのストーカー行為や婦女暴行事件。
大学生の間でプレイ化している、数えきれないカラオケボックス婦女暴行事件。
さらに、1996年から急激に増加する肉親による幼児虐待や致死事件。

「どう思う山野」


ここいくつかの協力の礼にと京都時代からの腐れ縁、警視庁刑事部長追田権三が用意した神楽坂の天麩羅屋。


「俺は、彼等が日常に聴いている音を知りたい。事件を起こすまでに補完されなかった心の状況を知りたい」
「おまえらしいな」と、苦笑いする追田。


 あのヘッドフォンはかなり流行っているらしい。街で気をつけているとかなりな人が使っている。
ルビーもサファイアも持っていた。
彼女たちの言うには、システムアップする面白さもあるらしい。

system 1/本体ベーシックモデル、デモCD/ver.1.0
system 2/ワイアレスプラグイン、デモCD/ver.1.2
system 3/ゴースト・ウーファプラグイン、デモCD/ver.2.0
system 4/ゴースト・ツイータプラグイン、デモCD/ver.2.5
system 5/ヴァイブラ・シンクロナイザー、デモCD/ver.3.0

インターネット上ではVIBRA/// GHOST関係のホームページが何百か展開されて、パワーアップの改造方法 から、どのCDがトリップできるかの情報や、果てはsystem4 から幽霊をみることがある。などという話題が毎日アップされているらしい。

ラジオデパートを散歩する音彦。
不思議なことに、VIBRA/// GHOSTがひとつもない、ラジオデパートに無いものなどないはずなのに。
抵抗・ヴォリュウム屋のおやじにたずねる、ここにはないよ、ありゃ渋谷とかのファッションショップ中心でね。


「でもね山野さん。俺はもってるよ!ほら」


system 5までシステムアップしたVIBRA/// GHOSTを自慢げにみせる。


「これね。心臓ばくばくしちゃってだめだね。かーちゃんに聴かせたら血圧上がっちゃってたいへんだったよ」


山野さんにあげるよ。でもいい歳なんだから気をつけないとね。CDも5枚あるよ。
 研究所にもどりデモCDをVIBRA/// GHOST-system 5で聴きはじめる音彦。
ところがまるでそれは普通のヘッドフォンだった。まえにダイアモンドが持ってきたsystem 1のあの突き刺さる感じがなかった。
不思議だ。デモCDをすべて聴きおわる。何も起きなかった。なぜだ、疑問だけがのこる。

 追田は、山野の言ったことがひっかかっていた。
逮捕、調書、尋問、精神鑑定、起訴、それだけでいいのだろうか?
『俺は、彼等が日常に聴いている音を知りたい。事件を起こすまでに補完されなかった心の状況を知りたい』
その言葉は追田に突き刺さっていた。しかし自分のいる組織はこの方向には動かないことはわかっている。
しかし。何かが見つかりそうな予感があるのも確かだった。

その夜、音彦は研究所のなかで何ものかの気配を感じる。
そして幽霊のようなものを見る。

VIBRA///GHOSTはインターネットとクチコミから一気に拡がる。
そしてメディアに乗ってゆく。
しかし、その頃には街から姿を消していた。
持っている者と持っていないもの。
優越感と劣等感。
レアなアイテムとなっていく。
雑誌は特集を組みそのゆくえを追う。
ショップに持ち込んだのは学生ベンチャー企業だった。
推定100万台をさばいた後、幽霊のように消えていた。
追田は検察庁の先輩をたずね、
すでに起訴されている一連の事件の心理的側面の関係を再調査するためのチーム発足を仰ぐが一笑される。 
諦めきれぬ追田は山野を訪ね、面会人と称して勾留中の犯人達に会わせるように仕組み、
さらに黙認の上で家宅侵入をうながす。

日本はさらに、タガのはずれた人々による犯罪がさらに悪化する。
そして彼等の何人かはVIBRA///GHOSTの使用者だった。
しかしその割合は確定できるほどではなく、その関連は皆無に近かった。

あれ以来音彦は悪夢と不安感に苛まれでいた。

それはVIBRA///GHOSTへの誘惑にも似た禁断症状であった。

VIBRA///GHOSTで聴きたい。VIBRA///GHOSTでないと不安でしかたがない。
そしてもう一度使用する音彦。それはめくるめく甘美な至福の時間であった。

VIBRA///GHOSTを追っていた雑誌記者がテキサスで失踪する。
編集長 山水純一の頼みで、姪のルビーがテキサスに飛ぶ。

音彦は自分自身へのサイコリストラクトを始める。しかし自分の無意識に作用することを、意識してできるわけもなかった。

日本では、若者の間で原因不明の虚無症が始まる。
それはVIBRA///GHOST禁断症状だが誰もその関係に気付かない。
壊れたVIBRA///GHOSTの所有者、修理も新品を買うことも出来ずに暴力で奪う者も出てくる。

テキサスでルビーは雑誌記者の足跡を辿るが、何不自然なこともなく消息がとだえている。
その夜、何者かにレイプぎりぎりの脅迫を受ける。


雑誌記者は同時刻、日本の自宅で唐突に発見される。
彼もまた強度の虚無症にかかっていた。


編集長 山水純一の頼みで雑誌記者のサイコリストラクトに挑む音彦。
心に傷を負って帰国するルビー。
しかし音彦の心理療法ではふたりを癒すことは出来ない。
そして皮肉にもVIBRA///GHOSTが効果をもたらす。

日本での虚無症が推定30万人に達したとき。
日経にVIBRA///GHOSTの記事が出る。(2001年11月26日付)


アメリカ大手ケーブルTV、インターネット、AT&T、ゲームメーカー、広告代理店、石油会社が出資しテキサスの小さなガレージベンチャーが一気に巨大ネットワークコミュニケーション企業に成長。


同時に日本上陸。2001年12月7日。すべてのメディアを利用しての広告戦略開始。

メッセージは、『VIBRA///GHOST @ System 6 @ HEAVEN @20011207 @SHIBUYA』

音彦たちは一見正常に戻った雑誌記者に、テキサス取材の出来事を問いつめるが記憶をなにかでロックされている事を知る。彼がときおり鼻歌で歌っている歌<CANDY MAN>にヒントを求めそれを聴かせるルビー。
記憶が戻ってゆくが目をはなした隙にかれは窒息死していた。

色とりどりの666個のキャンディが体内から発見される。

新聞のすみのちいさな死亡記事。”入浴中ペースメーカー停止30代独身女性。漏電の疑い。”
しかし、それがあのヘッドフォンVIBRA///GHOSTに組み込まれた電極による感電死であることは誰もまだ気付かない。

サファイアは情報収集のためインターネットにHP/『VIBRA///GHOST///HEAVEN』を立ち上げ数々のサイトの統合を始める。
 ダイヤモンドは、大量に人材募集しているVIBRA///GHOSTジャパンへ派遣社員として潜入。
system 6の全貌と2001.12.07上陸からはじまるイベントHEAVEN2001の戦略チームに選曲ディレクター助手として選ばれる。
 依存症のルビーはFMナビゲータに復帰しVIBRA///GHOST特集のなかでリスナーの声としてすこしづつ疑問をなげかる。

 山野は秋葉原親父連にVIBRA///GHOSTの完全分析を依頼する。

同じ頃、Panasonic,SONY混成チームがVIBRA///GHOST分析にとりかかるが、

ライセンス供与としてVIBRA///GHOSTのブラックボックス化が始まり空中分解させられる。

ひとりの研究員があきらめず自宅で分析続行するが雑誌記者と同じ変死体で発見される。誰一人として秘密に近付けない。サファイアのHP/『VIBRA///GHOST///HEAVEN』にあつめられた書き込みのなかでいくつかのヒントが見つかる。

 "CD使っていないのに点滅するときがある”
 "口でくわえていたら感電した"

そんな書き込みに膨大な量のみんなの答えがつづくハードディスクはハングアップ状態だ。
 そして音彦は"VIBRA///GHOSTトリップベスト100"でリストアップされたCDレーベルに共通性を見い出す。
アメリカのある石油会社が出資しているレーベルが上位を占めていた。
2001.12.07渋谷ハチ公前に誰も体験したことのないイベントが始まる。

のちに、12.07渋谷騒動と呼ばれる事件である。

2001.12.07/13:00/SHIBUYA

渋谷ハチ公前広場はセンター街入口、109-è、正面TSUTAYA/SHIBUYA、三愛ビルなどのJUMBO/TRON、そして井の頭線ステーションビル、東急東横店全壁面はこの日に合わせVIBRA///VISIONとなる。
ハチ公広場を囲む六方位はすべて巨大スクリーンとなりさらにVIBRA///SOUND/SYSTEMではじめて統合された。

この時間ですでに推定10000人の人々が集まり混雑を極めていた。しかし不思議と平穏な空気に包まれ人々は立ち止まらずつねにゆっくりと移動していたためJR渋谷駅出口も緊急閉鎖されることなく、道路閉鎖もなく人々は渋谷へあつまっている。
6基のスクリーンにはTVCMと同じ『VIBRA///GHOST @ System 6 @ HEAVEN @20011207 @SHIBUYA』の文字とカウントダウンする数字が静かに表示されさながら嵐の前の不穏な静けさであった。

2001.12.07/13:00/秋葉原

秋葉原親父連はラジオデパート集会所でへんてこな機材を山ほどもちこみVIBRA///GHOSTの解析をもう何日もつめているが、煮詰まってしまっている。なぜか時間によってデータが不規則に変化するのだ。ヘッドフォンのくせに。
やけになって、分解する前に冗談で電子レンジに放り込んだとき。不規則なデータが線的に変化した。
シールド、、、? するとマイクロ波を受信しているのか?! それが突破口になりイヤーパッド部の金属リング(電極)もわずかな錆から脳との直接的な関わりがありそうなことが推測された。

2001.12.07/15:00/西麻布

ルビーはFM番組のオンエアー前の打ち合わせ、渋谷にレポータを行かせる。彼女のヘッドフォンはVIBRA///GHOST、すでにヘヴィーユーザーとなっている。眼下の六本木通り渋谷方面は前代見物の大渋滞となっている。

2001.12.07/15:00/青山通り

渋谷へ向かう音彦の車、同じく大渋滞のなかにいる。
秋葉原からの話で音彦は追田に連絡をとる。イベント中止を警察のほうから出来ないか?! しかしなんの関連も証明できない、警察は動けない。長い沈黙の後、追田は答える。『非合法だが』

2001.12.07/16:00/SHIBUYA

渋谷ハチ公前広場正面のTSUTAYA/SHIBUYA最上階は、コントロールルームである。
最終チェック段階に入った。ダイアモンドほか日本人スタッフは閉め出されアメリカ本社スタッフがコントロールルームに入ってゆく。笑いながら通り過ぎるかれらの会話に『BEAUTY&THE BEAST/美女と野獣』というフレーズが気になるダイアモンドだった。

2001.12.07/16:00/SHIBUYA

サファイアは東急屋上時計台にインターネット仲間と陣取り、モバイルで同時中継をアップするセッティングをしている。

2001.12.07/16:55/外苑前

音彦は車をすて。渋谷へ向かって歩き出す。
渋谷から唸るような歓声が聞こえる。
待ち望む人々のカウントダウン。
VIBRA///GHOST @ System 6 @ HEAVEN @20011207 @SHIBUYA がもうはじまる。

2001.12.07/16:58/SHIBUYA
コントロールルーム。

『BEAUTY&THE BEAST/美女と野獣』とかかれたメモリーが VIBRA///SOUND/SYSTEM に差し込まれる。

2001.12.07/17:00/SHIBUYA

VIBRA///GHOST @ System 6 @ HEAVEN @20011207 @SHIBUYA スタート。

4時間後(渋谷騒動ニュース映像と体験者や入院している人々の証言による構成。)

・渋谷上空、報道ヘリからの映像/17:10/あふれかえる人々めまぐるしくフラッシュする6基のVIBRA///VISION
・代々木オリンピック体育館/緊急医療所/21:25/包帯姿の女子大生の証言/

 『すばらしかった!あんな体験今までなかった!え?覚えてるのは空が割れて、光の天使が、キューピッドだよね、 見たでしょ!』

・代々木オリンピック体育館/緊急医療所/21:31/男子中学生の3人組/

 『、、、なんかこうみんながひとつってゆーか、こころが、、』

 『天使が空から何億も降りてきて、俺の胸に光の矢をバッシュッ!て、そっから記憶ねー』

 『えー?なんかさ、オナニーしていていきそうな瞬間、頭ン中金色でさ、気持ちいーの!』

・東急屋上時計台からデジカメで撮られた人々/17:15/サファイア達の声がする/

 幸せそうな人々の顔、ゆっくり身体を流れに任せている。

 『そろってるねー!動きが、、、メッカの礼拝見た事ある?』

 6基の光りがそろってくる、変化が起きる。

 『見て!あそこ、え?嘘?!』

 人々が融合を始めるように見える、恋人同志が、見知らぬ同志が、隣同志が、触れあう、接吻、求めあう。

 立ち上る熱気、エロスに魅入られた推定3万人の人々。
・代々木オリンピック体育館/緊急医療所/21:40/フリーター20才女/

 『ボタン?やだちぎれちゃったのね、夢のなかにズーッといたって感じ。』至福の表情が一転する。

 『でもアイツら!右翼?それから機動隊!邪魔しやがって!!』まるで吠える野犬のような表情。


17:35 渋谷ハチ公前の熱狂を止めたのは右翼の宣伝装甲車20台と突撃単車部隊100台。

爆音と最大音量の160個のスピーカから叩き出された勝手な選曲の軍歌や御詠歌、ゴジラの主題歌や演歌。
それに被るアジ演説が調和されたVIBRA///SOUND空間をぶち壊す。

そして警察官、機動隊の突入。エロスの夢からさめた人々はわけ分からぬままに逃げまどい、宣伝装甲車を倒し、バイクを燃やした。だが不思議な事に右翼の隊員はその場から姿を消し、誰一人逮捕される者はなかった。

横倒しになった宣伝装甲車の車体には『日本愛国青年同盟』と描かれている。

VIBRA///GHOST japan は右翼団体と警視庁を相手どり損害賠償を請求する。
実在しない右翼団体『日本愛国青年同盟』。

ゆえに警視庁は矢面に立たされる。ある大物政治家の仲介で VIBRA///GHOST 輸入関税特別軽減措置と交換に和解。

事実上 VIBRA///GHOST はタダ同然で日本に輸入されることになる。

同時に、科学技術庁と厚生省がVIBRA///GHOSTの虚無症状と心理的精神障害者に治癒効果があることを示唆。

結果的にVIBRA///GHOSTは完全なる善としてのイメージを定着。

音彦は、秋葉原チームの技術分析に足りない臨床知識を補うため、

元恋人の京都大学心理学部臨床心理学助教授赤井かえでに協力を要請する/被験者/ルビー。

ダイヤモンドは次のイベント2001.12.24の準備のなか、証拠をつかむためVIBRA///GHOST社内で活動を再開するが、素人ゆえあやしまれ消息途絶える。2001.12.24まであと14日。

(以下次号)


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