11箱根

サービスデザインでイノベーションを起こせる(起こせない)理由

二番煎じ的なタイトルで申し訳ない。UXデザインとよく似た概念「サービスデザイン 」とイノベーションの関係性について説明したい。

サービスデザインとは

サービスデザインとは、ようするにサービス業で実践することを前提としたUXデザインのことである。UXデザインとの差異は「サービス・ドミナント・ロジックに従う」「包括的設計の原則に従う」の2点である。

「サービス・ドミナント・ロジック」とは、2004年にロバート・F・ラッシュとステファン・L・バーゴによって提唱された概念で、「サービスとは<顧客が利用することではじめて価値を持つ商品>のことであり、故に、すべてのビジネスはサービス業である」という思想である。UXデザインの<UX(ユーザー体験)こそが価値である>という思想とは微妙に異なるが、どちらも<商品の価値を決めるのは顧客である>という結論に至るという点で一致している。

「包括的設計の原則」とは、<店舗にいる店員やバックヤードにいる従業員の職場環境の設計が重要である>という考え方である。サービス業における職場環境の効率性や快適性は、工業製品における信頼性や耐久性に相当するからである。UXデザインにも<顧客接点すべてで統一感のあるUXを提供すべき>という意味で包括的設計の思想があったが、サービスデザインではその思想がさらに拡張された形である。

サービスデザインのプロセスや手法は、実はUXデザインのプロセスや手法と同一である。<商品の価値を決めるのは顧客である>という点で一致しているからである。

サービスデザインでイノベーションを起こせる(起こせない)理由

サービスデザインでイノベーションを起こせる(起こせない)理由は、以前に書いた「UXデザインでイノベーションを起こせる(起こせない)理由」とほぼ同じである。

起こせる理由:
1.サービス・ドミナント・ロジックという視座の転換
2.共感といえるレベルの深い顧客理解の重視(デザイン思考と共通)
3.試行錯誤の重視(デザイン思考と共通)
起こせない理由:
1.すでに視座の転換ができている人には意味がない
2.顧客に共感するだけでは大きな理想を掲げることができない
3.経営的に無制限の試行錯誤が許されない

試行錯誤にはお金がかかるものであり、経営的に無制限の試行錯誤が許されない以上、お金のない企業にはイノベーションは起こせないのである。御愁傷様。

メーカー企業はサービスデザインで視座を転換すべき

正直なところ、UXデザインもサービスデザインも似たようなものだが、どちらかといえばイノベーション実現にはサービスデザインが向いているように思う。なぜならば、UXデザイン活動には「不快感を解消する活動」と「心地よさを増やす活動」の2つあるのだが、心地よさを増やす活動の方はえてして「高級志向」のことだと誤解されがちだからである。誤解を産まないという意味で、サービスデザイン(正確にはサービス・ドミナント・ロジック)の方が視座の転換のきっかけとして優れているように思う。

特にメーカー企業はこれまでグッズ・ドミナント・ロジック(商品の価値を決めるのは企業であるという思想、ひいては高性能競争や多機能競争を良しとする思想)に捕らわれ続けてきた。サービス・ドミナント・ロジックはその反省から生まれている。

商品の価値を決めるのは顧客である。新製品新サービスを開発する際は、このことを決して忘れないでいただきたい

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