05保土ヶ谷

UXデザインでイノベーションを起こせる(起こせない)理由

UXデザインがイノベーション実現の方法論として語られる時がある。これは半分正しく、半分間違いである。以下に解説する。

UXデザインとは

UXデザインとは、まずユーザーに提供したい体験を定めその手段として製品やサービスを設計するものづくりの方法論である。サービス業での実践を前提としたUXデザインを特にサービスデザインと呼ぶことがある。

上述の通り、UXデザインはイノベーションを目的とした活動ではない。にもかかわらずUXデザインがイノベーション実現の方法論として語られる時がある。不思議な話であるが一応の理由がある。

UXデザインでイノベーションを起こせる理由

UXデザインがイノベーション実現の方法論として語られる理由は以下3点で要約される。

1.製品やサービスは手段に過ぎないという視座の転換
2.共感といえるレベルの深い顧客理解の重視
(デザイン思考と共通)
3.試行錯誤の重視(デザイン思考と共通)

ようするに、まず最初にデザイン思考はイノベーション実現の方法論であるという考え方があり、そしてUXデザインとデザイン思考には共通点があり、さらにUXデザインには視座の転換というプラスアルファの要素があるので、UXデザインがイノベーション実現の方法論になり得るという話である。

UXデザインでイノベーションを起こせない理由

ではなぜUXデザインでイノベーションは実現「できない」のか。これもまた以下3点で要約される。

1.すでに視座の転換ができている人には意味がない
2.顧客に共感するだけでは大きな理想を掲げることができない
3.経営的に無制限の試行錯誤が許されない

1.の「視座の転換」について。世の中にはUXデザインという言葉が生まれる前から「まずユーザーに提供したい体験を定めその手段として製品やサービスを設計する」を実践している人達がいる。映画や音楽などの娯楽産業の人達や広義の娯楽を提供している一部の飲食業やサービス業の人達である。この人達はすでに実践しているため視座の転換にならない。

2.の「大きな理想」について。UXデザインでは、顧客に提供したい理想的な体験を架空の体験談として記述するというお約束がある。これを理想シナリオという。しかしひとくちに理想といっても大きな理想と小さな理想があるはずである。単に目の前にある瑣末な困りごとが改善するだけではイノベーションとは呼べない。大きな理想を提案するには提案する側の発想力が必要なのである。

3.の「試行錯誤」について。これがもっとも根深い問題である。大きな理想を掲げることができたとして、その理想が技術的・経済的・社会的に実現可能かどうかはわからない。だから試行錯誤が必要であるのだが、試行錯誤はお金がかかる。洒落にならないくらいお金がかかる。試行錯誤という成果の約束できない泥沼にどこまで資金投入できるかはUXデザインの問題でなく経営の問題であるので、UXデザインでは解決できないのである。お金のない企業の皆様は御愁傷様である。

なんとなく「イノベーション実現のカギは結局はお金」という残念な結論になってしまった。業務としてイノベーションを実現したい企業各位は収入と支出のバランスを大切にして無理のない試行錯誤をしていただきたい。

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