【留学エピソード①】19歳の衝撃は小説よりよっぽど奇なり


「今日はカップル4組で独り身がいないけど
 ひろも楽しんでね。」

彼女の膝の上に座り、彼女は私にそう言った。


これはわたしがイギリスで暮らし始めて
初のホームパーティーで言われた言葉。

決してイギリス人がみんなリア充だという事を
伝えたい訳ではないので、もう少し読み進めてほしい。

都内の私立高校を3月1日に卒業し
引退したはずの部活で後輩をシゴキ通し
4月に単身、渡英した。

ロンドンから車で5時間強

4月という、海外にしては中途半端な時期にきた
世間知らずなアジア人があてがわれたのは
一戸建て式の寮の1室。

仲間内同士で同じ家に住んでいた
ウェールズ人の女の子2人、男の子3人。

今では名前も覚えてないけど
右左どころかまず言葉が通じない私に

疲れただろうから荷ほどきも全部明日にして
今日は僕のシャンプーを使ってシャワーを浴びて
寝てしまえばいいよ

と身振り手振りと簡単に噛みくだいた英語で
とても親切にしてくれた。

翌日の夜には人生初のパブに連れて行ってくれて
私が日本人だと分かると
きっとイギリスはわかっても
ウェールズには詳しくないだろうと
ウェールズの歴史をゆっくりじっくり詳細に教えてくれた。

僕らはウェールズ人で、イギリス人ではない。
『We're Welsh, not English』
この一言は今でも鮮明に覚えている。
わたしのウェールズびいきは確実に酔っ払いの彼らが作った。
ひとりも名前覚えてないけど。

さて、冒頭に戻る。

どうやら有名な音楽祭的なものの
テレビ放映を
我が寮のリビングで
みんなで飲みながら見るらしい。
Mステスーパーライブ的な。

「今日は友達とかも来てみんなで騒ぐから
 よかったらひろもおいで。」

もはや年の離れた兄姉のように
わたしの世話を焼いてくれる人たちだった。

時間になってリビングに降りると
同寮者が5人、知らない人が3人。
ちなみに男女比は男性5人、女性3人。
そしてプラス私。

みんな気さくで、優しくて
私に向かう時は
ゆっくり簡単な英語で話してくれる。

電気を消して、
大きいテレビをシアターのようにして囲み、
何曲も流れ、酒も進む。

わたしが聞き取れなかっただけで
元々恋愛トークというか
まぁエロトークも解禁されていたんだと思う。

ハウスメイトの女の子に彼氏有無を聞かれた。

単身渡英後1か月
言葉もままならぬわたしに
彼氏なぞできようはずもない。

そこで聞いたのが冒頭の一言。

「今日はカップル4組で独り身はいないけど
 ひろも楽しんでね。」


どうやら全員が顔見知りの仲良し
且つ、お家でグループデートに
いたいけな日本人が招かれていたらしい。

ただ、数が合わないのだ。

男5人、女3人。

まだ当時はLGBTなんて言葉は叫ばれず
日本人で知っている人はごく一握り。
さすがに共学の高校を出たばっかりのわたしには
馴染みがなさ過ぎた。

それでも一応わたしの頭の中は
ゲイのカップルがいるのだ、と
顔に出したりしないようにしながら
答えをはじき出した。

元々あんまり抵抗はなかったし
ダメな理由を述べよ!と言われたとしても
自分達で子供が産めない、ぐらいしか
思い浮かばなかった。。
(ついでに今も容認派だし
これには深い後日経験がある。
それについてもいつか追々。)

さて、
合わない計算を無理矢理辻褄合わせて
初めて見る光景過ぎても
凝視したりしてはいけないと
何度も心で唱えながら
周りを見渡した。


今でもあの場で
『オーマイゴッド』なんて
言わなかった自分を褒めてあげたい

いい感じに酔った彼らは
それぞれカップルと
イチャイチャしていたのだ。

女性同士1組
男性同士2組
男女組 1組

これはわたしが初めて受けた
イギリスでの異文化交流の話た。

そもそも視線を戻せば
わたしに『カップル4組』と
教えてくれた彼女も
彼女の膝の上である。
(ちなみにこの一言のすぐあとに
チューしてた)



ついこの前、大学時代の
部活のメンバーが結婚1周年を祝っていた。

私たちにはたくさんの困難がある。
でもこの1年はわたしの人生において
最高な1年であったことは間違いない。

そんなコメントが付けてシェアされた写真には
綺麗な花嫁が2人映っていた。

留学とは決して学校へ学びに行くだけの話ではない。
ましてや、英語上達を目的に行くようなものではない。

留学におけるわたしの信念はたぶん、この時に作られた。


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