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遠くへたどり着く方法②_アンパンマンも「エフェクチュエーション」によって生まれたかもしれない

先週「遠くへたどり着く方法①」という記事を書いています。

こちらは高い目標とその実現に必要なステップを設定し、それに向かっていく方法でしたが、今回はそれと異なる方法で「今ある状態から遠くへたどり着く」考え方といえる「エフェクチュエーション」について書いてみます。


エフェクチュエーション:5つの原則

はじめに「エフェクチュエーション」とは何なのかについて、書籍の内容から簡単に記載します(既にご存じの方は、ここは読み飛ばして問題ないです)

「エフェクチュエーション」とは経営学者のサラス・サラスバシーさんが、熟達した起業家達を対象にした実験をもとに見出した概念で、きわめて不確実性の高い問題に対して彼らが使っている思考様式で、5つの原則から成り立っています。

優れた起業家は、最初から市場機会や明確な目的が見えなくても、彼がすでに持っている「手持ちの手段(資源)」を活用することで、「何ができるか」というアイデアを発想するという意思決定のパターンを持っているようです。これが「手中の鳥の法則」

アイデアを実行に移す段階では、リターンの大きさではなく、うまくいかなかった場合に起きる損失が許容できるかという基準で意思決定が行われます。これは「許容可能な損失の原則」

書籍の中でエフェクチュエーションと反対の概念として「予測に基づき機会を特定して成功する見込みの高いプロジェクトに投資していく」アプローチである「コーゼーション」が紹介されています。
コーゼーションでは、アイデアを実行に移す前に誰が顧客で誰が競合かを識別し、市場の機会や脅威を予測しようとしますが、エフェクチュエーションで行動する起業家は、あらゆるステークホルダーとパートナーシップを構築を模索します。これが「クレイジーキルトの原則」。

パートナーが持つ手段を「手持ちの資源」に加え「何ができるか」を問い直し行動を変えていくことがあります。こういった予期せずもたらされた事態を活用していく行動パターンは「レモネードの原則」。

このように最適なアプローチを事前に予測しようと努力するかわりに、自分自身がコントロール可能な要素に行動を集中させることによって、望ましい結果を生み出そうとする。この思考様式は「飛行機のパイロットの原則」と呼びます。

エフェクチュエーションの5つの原則
出典:『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する5つの原則』

人気観光地を作った人も、当初はそんな計画を持っていなかった

書籍では5つの原則について、日本企業の事例も多く交えながら紹介されています(この点が先日紹介しているOKRとは異なり、親近感が持てるところです)ので、気になる方はぜひ読んでいただければと思いますが、特に私が感銘を受けたのはスウェーデン・ユッカスヤルヴィの「氷のホテル」(アイスホテル)ができるまでのプロセスでした。

アイスホテルはその名の通り、氷と雪でつくられたホテルで、春には消えて無くなり次の冬には新しいデザインのアイスホテルが造られるそうです。

↓アイスホテルの紹介記事。いつか行ってみたい・・・

ここではアイスホテルを作ったイングヴィ・ベリークヴィストさんが、どのようなプロセスをたどったか簡単に記載します(書籍の内容を意訳してます)。

①ユッカスヤルヴィに訪れて以降、自然に魅せられ、近郊の都市で会社員をしながら、毎週末、川でラフティングをしはじめる。

②ある日観光客から「ボートに乗せてほしい」と頼まれ、「ラフティング体験」がビジネスになるのではと考える。
観光案内所で働く知り合いに相談し、土曜日だけラフティング体験を提供するように。(→手中の鳥&許容可能な損失の原則)

③これがヒットし、毎回集客が見込めるようになったため彼は会社を辞めて起業。
しかし、夏場しか稼げないという課題に直面。
そんな中、冬場にオーロラ観光に来るという日本人と知り合う。
日本には「雪まつり」があることを知り、雪まつり会場へ。
そこで「雪と氷なら自分たちの地域にもある」と考える。
さらにホテルで旭川出身の氷の彫像家と意気投合し、ユッカスカルヴィで氷の彫像のアートフェスティバルを行う構想を描き、実行。
それまで冬の観光資源の無かった場所に欧州中から人が集まる。
(→クレイジーキルトの原則)

④しかしながら、フェスティバル当日、冬には珍しい雨が降り、作品が崩れかかる事態に。
この時会場には「氷を削り出す道具」「技術を持つアーティスト」「来場した多くの人々」「豊富な雪と氷」があり、ベリークヴィストさんは来場者に「一緒に新しいものを作りだすワークショップ」を提案。
この時、あるグループが「イグルー(ドーム型の簡易住居)」をつくり、そこでの体験が来場者から好評を得る。
(→レモネードの原則)

イグルーのイメージ
出典:クリエイティブコモンズ

⑤翌年以降、こういったイグルーのなかでアート展を実施。
しかし海外から来たゲストが周辺のホテルが満室で泊まれないという事態に直面し、イグルーで寝泊まりしてみたところ、想像より快適な体験だったことがわかる・・・

という具合に、予測不能な事態が起きながらも5つの原則を使いながら進むことでアイスホテルの事業が形作られていきます。
書籍にはこの後のエピソードも含め詳細に記載がありますので興味ある方は読んでみてください。

アンパンマンが世に出てくるまでも、エフェクチュエーション的

ここで「人生のピークはいつやってくるかわからない②」という記事で書いた、やなせたかし氏がアンパンマンを生み出すまでのプロセスもまた「エフェクチュエーション」的だと思えたので、そのあたりも触れていこうと思います。

先述の記事でアンパンマンが世に出てくるまでのポイントを書いており、ここでは要点を拾ってみます。

①少年時代、雑誌の挿絵に熱中。学生時代はデザインの勉強をする。

②会社員時代に、副業的に漫画の投書をする(→手中の鳥&許容可能な損失の原則)

③フリーになり来る仕事を拒まず様々な経験を積み、永六輔や手塚治虫、サンリオ社長などとの関係もできる(→パッチワークキルトの原則)

④これまで積み上げた関係も元に『詩とメルヘン』という雑誌を刊行(→手中の鳥の原則)

⑤雑誌にアンパンマンを連載し、絵本も出すものの、大人には不評。ところが、ある時子どもに人気があると気づき、子ども向け作品にシフトし成功する(→レモネードの原則)

とてもエフェクチュエーション的だと思うのですが、いかがでしょうか?

遠くへ到達するために大事なのは・・・

最後に、書籍の中でも重要と感じた「私は誰か」という点について触れたいと思います。

アイスホテルのベリークヴィストさん、アンパンマンのやなせたかし氏、いずれも当初予想していなかった事態に遭遇し続けるのですが、彼らの意思決定には「私は誰か」というアイデンティティが強く反映されていたと言えます。

ベリークヴィストさんは「ユッカスヤルヴィの自然に魅力と可能性を感じている」というアイデンティティ、やなせたかし氏には「漫画家か、挿絵画家になりたい」というアイデンティティがありました。

当初想像もしてなかったアウトプットを出し「遠くへ到達した」二人ですが、共通しているのは「アイデンティティ」と関連したアウトプットだったということです。

このアイデンティティは、誰かに命令されて身に着けていくものではなく、様々な物事を体験し、自らとの対話を通じて形成されていくものと思います。それが人生を遠くへ動かす原動力となるのです。

私も引き続き、外からやってくる様々な物事にただ流されるだけでなく、アイデンティティを忘れずに過ごしていきたいと改めて思います。

では今回は以上です。



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