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読むに値しない本

同窓会に行った時、毎年、年齢の数だけ本を読むことに決めている、という奴に会った
そいつは自分のモチベーションのために読んだ本の感想をFacebookにあげていて、他の同窓生がそれを読んでいた
そいつは地元だったので、他の同窓生と頻繁に会っているようで、読んだ本が会話のネタとなっている

とてもいい循環ができていると思ったので、自分でも歳の数だけ本を読もうと思った
すでに今年に入って一冊読んでいたので、2冊目を読み出した
しかし、この本がつまらない

史上最年少で芥川賞をとった作家の小説だが、芥川賞を受賞してもう20年以上経っている
学生の時に受賞して作家になった人が作家として年月を重ねたら、書くに値することを書けなくなるのだろう
考えてみればそれは当然のことで、作家というのは何もしていないので、何もしていなければ何も書けなない
受賞して「先生」と呼ばれるようになった時点で、何もしなくなってしまうのだ

「何もしない」とは仕事をしていない、という意味ではない
自分というものの定義を考えたり、求めたりすることを「何もしない」という意味だ
「作家」になってしまったら、与えられた役割をなぞるだけになる
「先生」と呼ばれることで、自分は役割をなぞるだけで価値があると勘違いする

歳の数だけ本を読む、という試みを、ここで終わらせるのは惜しい
なぜなら、またあいつに会う時があったら、お前があの時、毎年、歳の数だけ本を読むと言っていたので俺も真似したぜ、と言いたい
それは一言で済む
だが、その一言で、俺はお前を忘れていない、と伝わる

ちなみにそいつとは、高校時代同じクラスになったことはない
同窓会の時に初めて喋った
つまり初対面
それでも、出会いは大切にしたい

そんなわけで、この先どんな本を読むべきか?
今回読んでつまらなかった本は、「5時に夢中」で中瀬親方が推薦していたから読んでみた
かつて中瀬親方が推薦した「ブスの本懐」はとても面白かったので、以来、中瀬親方を信頼していた
しかし中瀬親方は出版会に身を置く人間、おそらく「案件」と呼ばれるものも抱えているのだろう

週に一冊本を読むことはできる
だが、週に一冊、読むに値する本を読むことは簡単ではない
メディアに出ている人の推薦を鵜呑みにしたら、貴重な金と時間を失うことになる
大切なことは簡単ではないのだ

だが、その簡単ではないことを1年にわたって続けることができたら、1年後、そこに楽しさがあるはずだ

フェラーリを新車で買う人は、2台同時にオーダーすることで儲けるという
納車まで2年くらいかかるので、出来上がってどちらに乗るか決め、乗らない方を売るという
フェラーリの新車を複数台買うためには、それまでに一定数のフェラーリを購入していなければならない
金を出したら買える、というわけではないのだ
だから欲しくても手に入らない、手に入れるまで2年待つのは嫌、という人が常に存在するので、新車で買ったフェラーリをすぐに売っても、買った値段より高く売れる

これを読むべき本に置き換えてみる
一冊の読むべき本を選ぶために、二冊の違う本を買う
どちらか一方が読むに値しないなら、その本は読むのをやめる
そのことで、その本を読み進めてしまう時間が手に入る

金より大切なのは時間である
時間とは命
読むに値しない本に命を取られる筋合いはない
無駄な本を読むことほど無駄なことはない
だが、それを恐れて大切な本に出会えないのは比較にならないほどの損失だ

フェラーリ3000万円
本一冊1500円
フェラーリに乗ってるだけが自慢の人間と、歳の数だけ毎年、読むに値する本を読んできた人間
どちらが魅力的なのかは考えるまでもない
読むに値する本を読み、語るに値することを語り、やるに値することをやる
そのために必要なのは行動の断捨離だ
そのためにコストがかかっても、無駄なことをやらないことで得られる時間の価値は、1500円よりはるかに大きい


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