【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 35
その後、おみよとの関係はなかった。
おみよも飯の世話などはしてくれるが、夫婦のように馴れ馴れしく接してこなかった。
権太も、恥ずかしくて、必要以上は話しかけない。
だが、おみよとの行為が忘れられず、女は狡い、女になりたかったと思いながらも、あそこは大きくなり、弄ることがあった。
老婆のところに来て、十日ぐらいだろうか?
「ごめん、婆はおるか?」
夕暮れ間近、女たちが筵を持って出かけようとしたところに、男がやってきた。
「これはこれは安寿(あんじゅ)様、こんなむさ苦しいところに、ようこそお出でくださいまして」
老婆は、珍しくにこやかに、揉み手をしながら男を迎え入れた。
「なに、造作もない。新しい娘が入ったと聞いたのでな」
男は、囲炉裏の前に座る。
見ると、坊主である。
寺の坊主が何の用だろうと思ったが、
「安寿様、次はうちを誘ってくださいよ」
などと女たちが言いながら出て行くので、よく来るのだろう。
安寿と呼ばれた坊主は、にこりと笑みを返す。
囲炉裏の火に照らされた顔はほっそりとして、目元はきりりと上がって鋭いのだが、ほころぶ口元は優しげで、不思議な雰囲気を醸し出していた。
老婆は、安寿に白湯を差し、
「もう少しお待ちください。いま、仕度をしておりますので」
「うむ」
と、頷いて口に運んだ。
おみよは、どうしたのだろう?
いつもなら、おみよが客の世話をするのだが………………
権太は、何もすることなく、囲炉裏の前に座っていた。
見てはいけないと思いながらも、安寿を見ていると、目が合った。
安寿は、にこりと微笑む。
慌てて目を逸らした。
「仕度ができました。如何せん、おぼこですので、ご容赦くださいませ」
老婆は、安寿を奥へ案内する。
「それがいいのです」
と、安寿は笑顔でついていった。
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