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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 34

 しばらく、おみよと権太は抱き合ったまま動かなかった。
 権太が動こうとすると、おみよがちょっと待てと止めた。
 大きく息をしている。
 それを何度か繰り返し、やがて落ち着いたのか、ふいに、
「動いてええで」
 と、促した。
 どうやって動くのか分からない。
「ほな、うちが動くわ」
 おみよのほうが腰を動かす。
 権太のものが、ぎゅっ、ぎゅっと締め上げられる。
「気持ええか?」
 今度は素直に頷く。
「そうか、男は気持ちええんやな。うちは、少し痛いかな……、んん……」
 鼻で息をするような、くぐもった声が漏れる。
「でも……、あんたが気持ええんなら……、それでええ……」
 腰の動きと、あそこの締め付けが徐々に大きくなっていくと、おみよの呼吸も早くなっていく。
 あそこは意識があるのに、頭がぼーっとしてくる。
 そして、あの瞬間、権太はおみよにしがみ付き、大きく腰をうねらせた。
 何度か腰を押し付け、ようやく止まると、不思議と頭が冴えてきた。
「どうや、少し落ち着いたか?」
 権太は頷く。
「良かった。うちも、試しができて良かったわ。また、寂しくなったら言うんやで、抱いてあげるからな」
 そう言って、おみよは着物の裾で自分の股を拭うと、筵から出て行った。
 しばらくぼんやりと天井を見ていると、おみよのくぐもった声が、姉のあれと同じだと気が付き、夫婦の秘め事をしたのだと気がついた。
 おみよと、夫婦になったのだ!
 どうしよう、もう十兵衛と一緒になれない………………そんな不安がよぎった。
 だが、男だから、初めから十兵衛と夫婦になれないのだ。
 やっぱり女が羨ましい。
 ああやって、男を気持ち良くできるのだ。
 十兵衛や山賊が、権太ではなく、姉を求めたことが初めて理解できた。
 ―― ああ、やはり女になりたかった。
 と、権太は思った。

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