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【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第二章「性愛の山」 36

 しばらくすると、奥からあの声が聞こえてきた。
 はじめは誰の声だろうかと思っていたが、おみよの声だと気が付き、驚いた。
 おみよが、あの坊主と、あのことをしている?
 おみよは、権太と夫婦になったのではないのか?
 これは裏切り?
 いや、これでおみよと夫婦にならずにすんだのだ、ほっと安堵した。
 が、同時に、おみよとの行為を思いだし、下半身がむくむくと起き上がってしまった。
 流石に、近くに老婆がいたので、弄ることはしなかったが………………
どのぐらい経っただろうか?
 安寿が戻ってきて、再び囲炉裏の前に座った。
 老婆は白湯を差し出しながら、
「如何でございましたか?」
 などと訊く。
「いえ、なかなか」
「まあ、顔はあれですが、悪くはないと思いますが?」
「ですな」
 と、安寿は笑顔で答えた。
「ところで……」、安寿は椀を置いた、「先ほどから気になっていたのですが、そこの子は?」
 権太の話になった。
「さすが安寿様、お目が高い。上物でございますよ」
 権太は、老婆に背中を押され、安寿の前に出た。
 坊主は、にこにこしながら、権太を前から後ろから眺める。
「うむ」と、力強く頷いた、「いいですね、安仁(あんじん)様が喜びそうです。この子は幾らですか?」
 老婆は両手で示した。
 安寿はにこりと笑い、「結構です」
「では、明日遣いのものを寄越しますので、よろしくお願いします」
 と、帰っていった。
「さあ忙しくなったよ、あんたは明日お寺に行くんだ、もう休みな。寝不足で安仁様にあったらいかんからね」
 強制的に筵の中に入らされた。
「おみよ、おみよ、何してんだい、こっち来て手伝いな、いいべべ出して……」
 老婆の声が響き渡って、むしろ眠れなかった。

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