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父と姉と涙

夜中に鬼電がきた。
待ってよ。私、夜勤なんだけど。
今貴重な仮眠Timeだったんだけど…。
ふと時計を見ると3:30をさしていた。

眠気眼で携帯の画面を見ると
「姉ちゃん」と出ている。
何事かと思い、目を閉じたまま電話に出た。

「父さんの心臓とまった!」
寝起きにはうるさいくらいの大声で
泣きじゃくる姉の声は
私を逆に冷静にさせてくれた。

何?死んだの?
ただのインフルエンザで
肺炎おこしかけたから入院したのは
昼頃の話だろ?

心肺蘇生で戻ったことは
姉が落ち着いてからやっと教えてもらえた。
それを先に言えよ。

仕事終わったらすぐに行こう。
意識はないらしいけど声をかけよう。
お母さんが参ってるから助けよう。
何時に仕事終わるの?
行くなら車?電車?

矢継ぎ早に質問やお願いが飛んでくる。

姉は父のことが嫌いだったはずだ。

大学に行きたいのに行かせてもらえなかった。
一番上の兄は行けたのに。
付き合う友達を全て反対された。
私がヤクザと付き合っても何も言わないのに。
母が父からの生活費では足りないと
私達の小遣いを待たせる月があった。
姉が金にうるさいのは、きっとこのせい。

でも、父さん死んでも泣かないって
言ってたのに、
死にかけたってだけでその号泣っぷりは、
なんだ。かわいいな、お姉ちゃん。



父は半年後に意識を戻した。
その間、姉は毎日父にメールを送っていた。
退院した父はすべてを読み終えると
大号泣した。

父の涙を見たのはこの日が初めてだった。

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