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素敵な靴は、素敵な場所へ連れていってくれる。 9

昼休みが終わりかけての時間なのか、大勢の人たちが昼食から帰ってくる、少し前まで閑散としていたここも、オフィスへ戻る人や、これから出かける人たちで、騒々しく人であふれるようになってきた。
エレベーターへと急ぐ、紗季の後姿を目で追いながら、有美はふと一人の女性が、ロビーに佇んでいるのに気付いた。
 

 その人は、見上げるようにあの絵を見ていた、あの絵、いつも有美が、毎朝に見上げる、あの三人の姉妹だか女神だが、描かれた絵だ、その人は、まるで放心状態のような感じで、じっとあの絵を見上げている。目の前を大勢の人が通り過ぎていく中でも、微動だにしない、その姿に有美は少し驚きながらも、なにかしら不思議な神々しさを感じるほどの姿だった。
「どうして、あの人、あんなに、あの絵を見つめているのだろう・・・・」
ここに集う誰しもが、さしてあの絵に注意を払うわけもなく、ましてや興味を示すわけではない、ほとんど人は、そこに絵があることさえ無視して通り過ぎていく。

 もう2年近くこの場所で働いている有美にとっても、ほかの大部分の人たちと同様あの絵は、さしたる関心を寄せるものではない。それゆえ、その人の、その佇まいは、有美の興味を引いた。何歳くらいだろう、そう若くはないことは、その横顔からわかる。
 長身で紺色のテーパードパンツに、足元にはパンプスを履いて、肩まで伸びた髪に白いブラウスが、美しく映えている、ガラス越しの外光に反射して、まるで、浮彫のように映る姿は、女性の有美から見ても、美しく感じられた。通りがかりの何人かの人が、彼女へ振り返っていく。
「だれだろう・・・・」
その女性につられたわけではないけれども、有美も改めてその絵を見返した、けどそこにはいつもの絵があるばかりだった。
こんなオフィスビルには、まるで似つかわしくないその女性は、近くにいた警備員と二言三言話したと思うと、再びあの絵を少し見上げて、出口へと向かっていった。


終業時間近く、珍しく紗季がやって来て、今夜食事時行かないかと、有美を誘った。有美も特に用事がなかったので、承諾して、間際の仕事をさっさと、片づけると、下のロビーへ降りすると、紗季が待っていた。
「おまたせ・・・・」
そう言って、二人はビルを出て地下鉄の駅へと向かう。
「ほら、この前話していた、やきとりの店に行こうと思って」
歩きながら、紗季は有美へそう話した。
たまたま、同時期に別の派遣会社から来た二人だったが、年齢も近いせいか、同じ部署されて以降、何かと気が合った。
時にはこうして、仕事終わりに食事にも行ったりする。
ちょうど退け時で、地下鉄も込み合っている。

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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。

★少しネタバレ

主人公が、見とれていたきれいな女性は、前作の主人公です。

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