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素敵な靴は、素敵な場所へ連れていってくれる。1

有美の場合

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地下鉄の出口を出ると、雨が降り出していた、出口付近で大勢の人が少し滞留しているのが階段の下から見えた、階段を登り切って外を見ると、結構きつく降っていた。
有美は傘を持て来ていなかった。
(どうしようかぁ・・・走ろうか・・・・)
 会社までは、普通に歩いて5分ほどだ、中には意を決して、もう走り出して目的地へ向かう人もいる、有美も「よし」と心の中で気合を入れて走り出そうとしたとき、おはようと言って肩を叩かれた、同僚の紗季が同じように階段を上がってきたところだった。
 彼女は、鞄から折り畳み傘を取り出すと、
 「一緒に入る?」と親切に有美にいういと、二人で、駆け足で会社へと向かった、玄関ホールに着いたとき、二人ともびしょ濡れに近い状態だったが、かろうじて頭と顔はぬれずにすんだ。
「たすかったわ・・・」とハンカチで濡れた服を拭きながら、有美は礼を言う。
 紗季も、服を拭きながら、家出るときは晴れていたのになぁと恨めしそうな目で、外を見る。
 周りを見ると、同じように、雨に濡れながら、駆け込んできた人々が、広い玄関ホールのあちこちで、ハンカチで体を拭いたりしている。
 有美がふと、見上げると、そこには、いつもの絵がある、三人の女性が描かれた大きな絵、青色の鮮やかな絵だ。
 否応なく、ここを通れば目に入ってくる絵、いつもは気に留めることなく、ただただ通り過ぎるだけだが、有美がここで働きだしてから、ずっとここの飾られている、
 こんな、雨の日はその青い色が、余計に、鮮やかに見えるような気がする。
紗季に促されて、有美は、閉まりかけのエレベーターに駆け込む。満員のエレベーターの中は、かすかに雨の香りがした。


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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。

前作に引き続き、1枚の絵をめぐる、女性たちの物語です。

話としては、独立してますが、ところどころに、前作とつながっています。

お楽しみください。

また感想などもお聞かせください。


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