見出し画像

素敵な靴は、素敵な場所へ連れて行ってくれる。 2

「この前の会議の資料を作成してもらいたいんだけど・・・・」
名前を呼ばれて、上司の席へ行くと、担当課長の飯田が別の資料を見ながら有美へ話す。
 「わかりました、けど、先に私のステイタスを上げていただけますか?」と有美が言うと、ああそうだったねと、はじめて有美と目を合わせした。
 派遣社員と正社員では、社内クラウドに入れるステイタスが違う、有美のような派遣社員の場合は、そのステイタスを上げてもらわないと、資料にはアクセスできない。その権限はそれぞれの所属長が持っている、以前も同様なことがあった時、飯田はそれをしないで外出して、一日無駄にしたことがあった。  
 席へ戻って、自分のパソコンを見る、まだステイタスは変わらない、ちらっと飯田の方をみる。パソコンへ向かって何かしているようだが、あまり要領を得ない様子だ。
 (たぶん、だれかが呼ばれて、それでやっと私のステイタスがかわるな・・)
 有美は、そう予測していたので、先に自分の用事を済まそうと先に作業進める、十分ほどして、有美のパソコンの表示が変わる。
 再び、ちらっと、飯田の方を見ると紗季がちょうど、彼の席から離れていくところだった、
定年した後もう5年も働いている飯田に、有美は憐憫の情がわいた。
 昼食から帰ると、有美は電話当番で残っていた、紗季にコンビニで買ってきたペットボトルを渡す。
「さっきはありがとう」
紗季は作業の手を止めて、有美の方へ顔を向けて
「いいのにそんなに気を使わなくても、けどありがとう、ちょうど喉乾いていたし」
と礼を言う。
「さっき、飯田さんになんか、呼ばれていた?」
有美がそう尋ねると、紗季はもらったばかりのペットボトルを開けながら、
「ああ、さっきの件? セキュリティ解除の件?」
「もしかして、私のステイタス解除の件だった?」
「そうだったわ、たしか前も一度教えたことがあるような・・・・気もすんるだけどね」
紗季は仕方ないわねという視線を由香へ送る。紗季は、有美に貰ったペットボトルのお茶を飲みながら
「けど、たぶん、彼は今月で辞めるんじゃ・・・・ないかな・・・」
 紗季が、少し遠くを見て、そう言うと
 有美は少し驚いたように、えっ、そうなの?と聞き返す。
「詳しくはしらないけど、そう聞いたわ、たしか契約が切れて、いよいよ本当の定年ね、
また他所から、誰かが移動してくるんじゃない。」
「誰だか知ってる?」有美が聞くと
「知らないわ、けど私たち派遣の身からすれば、だれでも同じだわ・・・・」
 その時、ほかの社員たちが帰ってきたので、その話はそれまでになった、紗季は、もう一度有美に礼をいうと、昼食のために部屋を出て行った、有美も自席へもどると、仕事の続きを始める、初夏の日が大きく室内へ入り込む、誰かがブラインドを順番に閉めていく、オフィスは、午後の活気を取り戻した。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。

前作とは環境も生活も全く違った女性を描いていきます・・・・

お楽しみいただければ幸甚です。


この記事が参加している募集

忘れられない恋物語

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?