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素敵な靴は、素敵な場所へ連れて行ってくれる。 40

 南村の話が、大津の反論もなく尻切れトンボの様に終わると、大津が運ばれてきた魚料理を、二人に取り分けた。ここ柔らかいよと言って、有美にその皿を差しだすと、今度は同じように取り分けた皿を、熱いうちにたべな、と言ってやさしく、南村の前に取り皿を置いた。
 南村は、視線を合わすように大津の方をみて、小さくありがとうと言って皿を取った、今まで話していた声と違い、やさしさにあふれるような声に、有美には聞こえた。
 
暫く、三人が食べることに集中した後、大津が、そういえば、と言って、有美の方へ振り向いて
「前に、何回か見たんだけど、会社のエレベーターホールに飾ってある、あの大きな絵、よく一人で見ているよね」
「あっ、は、はい」
有美は、驚いたように、あわてて返事をした、まさかそんなところをしかも、大津に見られていたとは思ってもみないことだった。
「あの絵、よほど好きなのかな?」
「いえ、そうではなくて」
有美は、説明に困って、どう言っていいものか、とっさには言葉できなかった、
「あの絵の作者、誰だか知ってる?」大津が、続けざまに聞いてきた、有美が少し思い出して答えようとすると、横から南村が、
「ミチオタケヤ、で、しょ?」
 静かにそう答えた
「あれっ? 知ってたの?・・・意外だな」
 大津が驚くように、南村の方を見つめる。あれほどいろいろと言われたのに、大津は優しい目で南村を見つめながら、
「何年か前に、たまたま彼の映画を見たんだよ、それで覚えているんだ、それであの絵の銘板をみたら同じ名前だろ・・・少し驚いて、それで凄く記憶に残っていて。」
 

 そこまで言うと、大津が有美へ向かって、好きなんだね、あの絵と聞いてきた。
「そんなに、絵にも詳しくなんですけど、何となく、少し前から気になって」
有美は、そんな風に大津に見られていたのかと、何か少し恥ずかしいような気持ちになった。
「そうなんだ、いや、あれほど真剣に見ていたから、詳しいのかと思っていたよ」
「南村さんも、よくあの絵、よく見てらっしゃいますよね」
 有美は、会社の帰り際、一人亡羊に絵を見ていた、南村を思い出してそう言った。
 有美の意外な言葉に驚くように、大津は、南村を見つめると、南村はグラスに手をやりながら、
「私だって、いろいろと仕事ストレスがたまるときがあるのよ、そんなときあの絵を見るとなんか気持ちがスッとするの。」
「へえ、お前でもストレス、たまることあるんだね。」
 揶揄う様に、大津がそう言いうと、南村は少し怒ったような顔をする。
 

 「そうそう、その時、すぐ横に、同じように、あの絵を見ている人がいて、それで余計に印象に残っているんだよ。」
「へぇ、それどんな人だったの?」
 すかさずに、南村が聞いてくる。
「うん、それがさぁ、背が高くてすらっとしていてで、そんなに若くはなかったけど、モデルか女優かと一瞬思ったくらいだったよ。」
「あなた、ほんとは、そんな絵の事より、その女の人の方に、興味があったんじゃないの?」
 からかうように、ウイスキーのグラスを傾けながら、南村そういうと
「そんなわけないよ、けれどあの人は、たぶん外からきたんだろうぁ、あれほど目立つ存在の女性、うちのビルではみたこともないし。」
 南村と大津の会話で、有美も「あの女性」の事を思い出した、すらりと伸びた長く、きれいな足と、肩までの黒髪、服装までははっきりとは覚えていないけど、若くはないけれどもそのきれいな体躯と、醸し出している、優美な雰囲気がとても印象に残っていた。
 あの時、彼女も有美と同じように、あの絵を見つめていた。誰だろうと不思議に感じはしたが、その時は、有美自身が絵に夢中で、気づけばいなくなっていたようだった
 私も、思い出しましたと有美がいうと、
「ああぁ、やっぱり君も気が付いていたんだね。」
 と、大津が頷きながらそう言った。
「女の私から見ても、ちょっと魅力的に映る人でしたね。 ほんとだれでしょうね。」
 有美が大津へそう答える。
二人の会話を聞いていた南村が、興味ありげに、
「そんな、きれいな人なら、私もみてみたかったなぁ。」
 小さく呟いた。

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今宵も最後までお読みいただきありがとうございました。

この少し、微妙な三角関係を、上手く表現できているかどうか・・・・

少し自信がないです(笑)

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