見出し画像

素敵な靴は、素敵な場所へ連れていってくれる。 11

「寂しいんじゃない、彼・・・」
目を細めて笑いながら、ふざけたように紗季が言うと、有美は、目の前のジョッキを口へと運ぶ。
「あまりうまくいってないの?」
すぐに真顔になった紗季がそう尋ねると
「まあね、なんか最近、なんかマンネリというか、なんというか・・・・ついついこのままでどうなるんだろうとか、いろいろと考えてしまうのよねぇ」ジョッキを持ったまま、あらぬ方向へ視線を投げかけて、有美がそう言いう。
 

 紗季は自分が注文したものに箸をつけながら、
「なるほどねぇ・・・・」と呟くと
「もうさ、私もそう、なんだけど、若い時みたいに相手に対して、もう情熱的なことはないんだからさぁ、相手によっぽど、嫌なところがなければ、それでいいって思うようにしているんだよ、別にそれで相手が嫌いになるってわけじゃないよ、いやなところといいとこと比べてるいわけでもないけど、その方が、気が楽じゃない?」
 紗季は、いま十歳年上の男性と付き合っている、互いの家を行き来しながら、もう三年たつ、互いにその方が互いに気が楽なのか、有美のように一緒に暮らそうとはしない。
「まあ、三十超えたら、その時考えればいいじゃん」
 今日三杯のビールをお代わりしながら、紗季はそう言って笑う。
「三十かぁ、・・・あと二年もないじゃん」
 有美がそういうと、
「まあそうだけど、あと二年しかないと思うか、まだ二年もあると思うか、それは気持ち次第とおもうわ。」
と、豪快に笑いながらそう話す。
 有美はいつも、こんなポジティブな紗季がうらやましいし、尊敬もしている、詳しくは聞かないけど、たぶん彼との生活も充実しているんだろうとも思う、振り返って自分はどうだろうか

 ふと、スマホを取って、拓海のメッセージを見る、短く「いつ帰る」とあった、有美はこころの中で小さな溜息をつくと、なんだか自分が少し情けないような気持ちなった。
 

「ただいま」と言ってドアをあけると、中から心地よい冷気がながれてきた、拓海はどうやら終日家にいたようだと、有美は思った。
 リビングへ入ると、案の定、横の寝室で、ベッドに横になって、本を読んでいた、朝でかけにみた、パジャマのままだ。一日こんな格好でダラダラと過ごしていたのだろうか。
「おかえり、随分遅かったね・・・」
よほど、読んでいる本が面白いのか、拓海は有美の顔も見ずに、声をかける。
「うん、帰りに少し飲んできた、話が盛り上がって・・・なんか飲みすぎたかな・・」
拓海が寝ている横で、有美は着替えながらそういうと、
「ふーん」と言って、今度は本を仕舞うと、スマホを取り出した。
「なんか、たべた?」
「冷蔵庫の中にあったものを適当に食べたよ、何もしていないから、腹もそうすかないしね・・・。」
 有美はキッチンへ行って、冷蔵庫から麦茶と取り出して、一気に飲むと、キッチンの壁に向かって、小さな溜息を、またついた。
 これは、何の溜息だったのだろうかと、自問する、拓海へ対する溜息なのか、自分自身へのものなのか?
 私は彼に何を期待しているのだろう、劇作家として成功してほしい?
夢を追い続けてほしい?
 紗季が言ったように、相手に欠点がなければそれで、良いとすることもできるかもしれない、けどそれでも嫌な面は目につくし、このままでは、お互いにとってよくないのではないかとも思う。
 有美には、好きとか、愛してるとか、そんな感情の向こう側の世界に、互いに足を踏み入れている気持ちがした。
有美は、拓海に背をむけたまま、
「疲れたから・・・・今日は私も、もう寝るかも・・・」というと、
背中越しに拓海が、答える。
「明日、俺も、またバイトなんだよ、朝少し早めにでるかもしれないから、俺ももう寝るわ・・・」
 そういうと、押し入れからバスタオルを取って、有美の後ろを通り抜けるようにしてシャワーを浴びにバスルームへと向かった。
 有美は、振り返って、拓海のいなくなった、ベッドへ横になると、急になんだか眠くなってきた、頭の中で、まだメイク落としてなかったなぁ、と思いつつ、疲れなのか、すぐに眠りへ落ちた。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。

よかったら、また感想をおきかせください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?