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素敵な靴は、素敵な場所へ連れていってくれる。24

 大津が連れて行ってくれたのは、有美たちが使う地下鉄の駅の近くの料理屋だった、L字カウンターになっていて、既に、数組の先客がいた。
有美には少し高そうな店にも思えたし、、多分紗季の選択肢には絶対に入らないであろう。

 大津はよく来るのか、店に入るなり、中の人たちと談笑している。
「ビールでいいよな?」と、大津が聞くと、有美が「はい」という間もなく、ジョッキが目の前に置かれた。
 軽く乾杯をして、大津がおいしそうにビールを飲むと、ジョッキをおいてすぐに、シャツの一番上のボタンを緩めた。
「で、なんだった? 話って?」
 仕事と同じで、大津は単刀直入に聞いてくる、
「初めに、部長にお礼を言おうと思いまして・・・・・」
「お礼? なんのこと?」
「私の異動の件です・・・・」
 と、有美が、言うと
「・・・ああ、依田の事だろう?」と、残ったビールのジョッキを空けてそういった。
「まだ、あまり公にはできないけど、来月、君は正式に今のセクションへ異動になるから・・」
「ほんとですか?」
「君と依田の関係が,あまり上手くいってないことは、少し前から聞いていたんだけど、どうしようか、実は迷ってたんだ、君をどっかへ異動さすのは簡単だけど、問題は、依田課長のプライドもあるし、他の社員たちの事もあるし、その辺のバランスが難しかったんだ。」
そこまで言うと、出された料理に手を付けた。
「君を俺が急遽移動させた日、あの時えらく依田課長に怒られていただろう? たまたまあの時、俺、後ろの方で見ていたんだけど、これがチャンスかも思って、一気呵成に、ああいう事を言ったわけさ・・・・」
「あの時、私もほんとに、切れそうでしたから・・・・・」
 
 有美があの時の、正直な気持ちを吐露すると、
「そうだろうなぁ、あれは少し酷すぎたと俺も思った、けど誤解のないように言うと、別に君を助けようとする気持ちばかりじゃないんだよ、あのまま放っておくと、あのセクション全部がだめになるからね・・・」
有美は、大津がある意味冷徹な組織の論理に基づいて、行動してしてることに改めて驚かされた。と同時に、一介の派遣社員に過ぎない、有美に対してでも、誠意をもって対応してくれる大津に、紗季が敬意を払う事がよく理解できた。
「依田課長に関しては、君もいろいろと聞いていると思うけど、まあ確かに難しい人だし、プライドも高いしね、ましてや、あんな閑職だし、上司はかなり年下の俺だしね・・・・彼の気持ちもわからなくはないけどね。」
 大津は、少し遠くを見るような眼で、ビールのグラスを傾ける。
「依田課長は、私の事について何かいってましたか?」
 有美は、少し気になる点も、聞いてみたかった。
 大津は、少しの沈黙の後
「なにもないよ、もちろん今度の君の異動の件についても、話したけど、はいと言っただけだったよ。」
前に紗季が、有美にそっと囁いた、「静かになった」というのはどうやらほんとだったようだ。

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