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素敵な靴は、素敵な場所へ連れていってくれる。 27

  小さな物音で、布団の中で目が覚めた。
 拓海が帰ってきたんだと思った、有美が寝ているベッドのすぐ横で、着替える音、冷蔵庫を開ける音、水を使う音、いろいろな音がした後、少し静かになって、拓海がベッドへそろりと入ってきた。
 拓海は、後ろから、ゆっくりと有美を両手で抱きしめると、有美の髪を何度もやさしく、滑らかして、そっと彼女の耳に、時間をかけてキスをする。頬を撫でるように、降りてきた彼の指が、唇に触れた。自然と有美の唇が少し開いた。
 有美は、寝たふりをしたまま、少し寝返りをうった、いつもなら、拓海に応えていたかもしれないけど、前に経験したあの、彼の腕からすりぬけていくような感覚が、急に思い出されて、今夜はとても応えられそうな気にはならなかった。
 拓海は、それを察したのか、両手を有美の体から離すと、すぐに眠りについた。
 

 声をかけられて、はじめてその声の主が南村だとわかった。
 久しぶりに一人で、銀座まで出かけた、街は休日で人が多かったが、驚いて後ろを振り返ると、南村が笑顔で立っていた。
 会社ではいつも、スーツを着ている彼女も流石に休日は、青いワンピースにウエッジサンダルで随分と印象が違って見えた。
「あれっ?偶然ね・・・一人で買い物?」
「はい、買い物というわけではないんですけど。」
朝から、何となく拓海といることに少し萎えてきて、気分を変えようと思い、まだ寝ていた彼を起こさないようにしてそっとアパートを出てきた。
有楽町に昔よく通っていた店があり、あてもなく、そこへでも行ってみるかと思い、あてもなくぶらぶらと歩いていた。 
「暑いよね・・・・・」
 南村はそういうと、身長が有美よりは、はるかに高い彼女は、差している日傘をすこし、有美の方と傾ける。
「時間ある? なんか冷たいものでも飲まない? わたし、あつくて少し休もうと思ってたのよ。」
 

 そういうと、ビルの日陰に少し移動する。
 有美は本音を言うと、休みの日まで、会社の人間と一緒の時間を過ごすのは、あまり好きではなかったけれど、異動の件以来、何かと有美に気を使ってくれている、南村に対してあまり無碍なことも少し憚られた。
「時間は、あるんで、お付き合いします・・・・」 
 有美がそういうと、南村はにこりと口元を緩めて、
「じゃあ、行こうか。」
 そういって、先に歩き出した。
 南村が連れっていってくれたのは、中央通から少し、裏に入った、ビルにある、高級そうな和風の甘味屋だった。
 有美には、南村のいつもの、クールなスーツ姿と、この和風の甘味屋との組み合わせが、凄く意外に感じられた。
 店内は、どことなく気品の感じられるような、女性客ばかりだった。。
「何にする? 私は、いつもここへ来たら、これにするんだ」
 南村は、メニューにある宇治金時のかき氷を指さす。
 有美も暑かったので、同じでいいですと返事をした。

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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。

前にも少し書きましたが、何気ない日常を飾り気なく、自然に描く

というのは、難しいと感じます。私の能力の問題もありますが(笑)

お楽しみいただければ幸いです、物語はまだまだ続きます。



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