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詩小説『引越物語』⑯まいど!おおきに⁈

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今回のお話は下線からです^ - ^





「いらっしゃいませ。」

「売上アップしに来たよ!」
菜摘の声が閑散とした店内に響いた。

「んもうー、そんなにはっきり言わないでよ。なっちゃん一人?」
未希が、マリオに汚れたお皿を手渡しながら言う。

「うん!なっちゃん一人でなんでもするって決めたが。」
鼻息荒く菜摘は言った。

「あの…お話中のところすみません。」
学生アルバイトの麻美が未希を呼ぶ。

客は菜摘以外に一人もいなかったが、フロアで話すことではなさそうだと未希は判断し、厨房へと歩いて行った。意気消沈した麻美が後に続く。

「どうしたの。顔色が悪いよ。」

「無理です。辞めさせてください。」
顔面蒼白の麻美は、もう気持ちを固めているようだった。

「わかった。すごく残念だけど。いつまで来られるの?あと何週間かな?」

学生さんを雇えば、こういうことは珍しくない。学業が忙しくなって辞める人もいれば、他のバイトとの時間調整がつかなくなって辞める場合も多々あった。

「一応この後に来てもらうバイトさんのこともあるから、良かったら理由を聞かせてくれる?」

「あのお客さんだと思うんです。毎日インスタ見てるし、最近は近所で何度も見かけるようになって…。」
怖くて仕方がないのだろう。ずっと震えている。


バイトのある日は朝から嘔吐しそうだと話す麻美を見て、未希はオーナーとしてスタッフを守れなかった自分を責めた。

「あのお客さんよね…。」

毎日のように来ては、コーヒー一杯で何時間も居座る。

必ず厨房が見えるテーブルに座り、麻美が出てくるや否や「麻美ちゃん、今日のヘアスタイル可愛いね。」「麻美ちゃん、ボクの新しいシャツどう思う?」などと、忙しく動き回っている時に限って話しかけてくる客がいる。

パートのスタッフが代わりにオーダーを取りに行くと、あからさまに不機嫌になるのだった。

未希はオーナーとしてではなく、高知の母として泣きじゃくる麻美の背中を優しくトントンとした。

そして、日本語がまだ十分にわからないマリオに、彼女がストーキングされていることを伝えた。

「だれよー!そんなのダメよー!!」怒り心頭に発するマリオが、入り口のボードをクローズに裏返した。

ストーカーとおぼしきお客さんについて未希が話した時、マリオが初めて未希の言うことを否定した。

「違うね!あのお客さん麻美ちゃんと話す。満足して帰る。だから、次の日も来る。」

泣いていた麻美が顔を上げた。
「我慢しろって言うんですか。お客さんってそんなに偉いんですか。なんなんですか!」

菜摘が真っ赤な顔で続く。
「なっちゃん、変な目の人を見たことあるで。店の前のタバコ吸うところでね、ズボンずっと引っ張りよった。」

未希には何が真実かわからない。

自分の元で働く19歳の学生さんを、ここまで我慢させてしまったことを、ただただ悔しいと思った。

4人で話し合った後、麻美の実家に未希が連絡した。今夜の夜行バスで、お母様が神戸から来てくださるとのことだった。今から警察へ相談する旨を伝えたが、一晩だけ待ってくださいと言う。

怯えている麻美を一人で帰すわけにはいかない。

菜摘は兄の正雄に、未希は友人の凪に電話した。




#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門


次回なっちゃん大活躍(=´∀`)人(´∀`=)


前回のお話ですよ〜🎙️

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