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企業が社会問題を解決するのは偽善じゃない

~SDGsが問いかける経営の未来(日本経済新聞社出版)要約①~


 投資家・大企業を中心にして「サステイナブル経営」が声高に叫ばれるようになった理由を端的に示したものが「社会課題ブーメラン」である。
 この構図が腹落ちした投資家・大企業は、自社の長期的な事業継続には社会課題の解決が欠かせないとの認識を示している。

社会課題ブーメラン(出典:モニターデロイト)

【ビジネスの目的】
 多くの大企業は3~5年の中期計画を策定し、その計画の中での利益の最大化を目的として事業活動を行う。
 上場企業に至っては、4半期ごとの決算情報開示が義務付けられており、株主を中心としたステークホルダーからよりタイトな利益追求が求められている。
 これまでの利益追求が社会・環境に対して大きな負の影響を与えてきた。

決算報告

<環境課題:上図の上部(黄緑)>
 
調達・廃棄においては、重要なのは法令順守(コンプライアンス)である。コンプライアンスさえ遵守できていればその他に制限はなく、自由競争の範囲が広かった。
 
コンプライアンスの範囲内(ときには、コンプライアンスを逸脱して)の伐採や排出を行うことが許されていて、それぞれのセクターが部門最適を図るため調達・生産・排出がほぼ循環しない「リニアエコノミー」(下図左)なサプライチェーンが構築されていた。

株式会社トランスホームページより

 リニアエコノミーの進展による環境汚染や温室効果ガスなどは、甚大な災害を引き起こす引き金になっている可能性がある。日本においても毎年のように異常気象(大雨、大雪、大型台風など)、PM2.5などの災害が発生している。
 また、リニアエコノミーの生態系の崩壊によって、絶滅危惧種の増加、水産資源などの枯渇などの問題が発生している。

令和元年台風第19号における長野県長野市大字穂保地区における千曲川の様子

 
そして、これらが災害による物流の断絶、調達の不安定化などの事業リスクを招いている。

<社会課題:上図の下部(深緑)>
 この目的を達成するため、ビジネスモデルにおいては生産コストの最小化が求められる。人件費、安全・環境対策など、事業運営にかかるあらゆるコストを”財務諸表上で”最小化することが求められる。
 コストの最小化の弊害として、低賃金・不安定雇用などによる経済格差や安全衛生問題が生じることとなる。これは日本においても、ワーキングプアや期間労働者などが正社員との経済格差が顕著である。

経済格差

 ミクロ課題の経済格差や安全衛生問題は、人々の既得権益への反感に代わり、政情不安や国民の健康・教育レベルの低下を招く。また、弱者保護への社会保障の必要性が高まり、財政の圧迫を招く。

政情不安

 
 そして、これらが労働者の生産性低下や個人消費の縮小、社会保険などの負担増につながっている。

 社会課題ブーメランの影響を大きく受ける大企業を中心に、短期間の利益を追求することで、企業の事業環境が悪化する自己矛盾に気づいたのである。

 そして、収益性と社会性を両立することが本質的な競争力のある事業であるとの認識を広めることとなったのである。


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