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惣田紗希『山風にのって歌がきこえる 大槻三好と松枝のこと』

今から100年ほど前、関東のちいさな町で小学校教員をしていたふたりが、短歌を通じて交流をはじめる。やりとりを続ける中で、お互いの思いが行き交い、恋文のように短歌を交換する。そのやさしくもせつないふたりの短歌の交換が、やわらかいイラストとともにつづられる一冊。

惹かれ合う彼らは結婚し、ささやかな毎日の生活で子どもを授かる。あたらしい希望に満ち、ふたりはこれからの生活をイメージしていたが、妻の松枝が産後、心臓の病気で先に逝ってしまう。夫は息子とともに残された。息子と自分、妻との思い出。そうした感情が悲壮感とともに短歌にのって消えててゆく。

仕事、恋愛、結婚、出産、突如訪れる死。繰り返すことのできないふたりの短い時間。この本を読んでいると、彼らの人生を追体験したような気持ちになる。シンプルでやわらかな線のイラストと、ページの余白のバランスが素晴らしいく、手元に置いておきたい本。読後に心がじんわりとします。

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