ひらましん

本と映画のレビューをコツコツと。

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最近の記事

山際淳司『みんな山が大好きだった』

冒険家のノンフィクションは面白い。この本は、スポーツノンフィクションの先駆け、故・山際淳司さんが雪煙に消えていった男たちを振り返った一冊。鮮烈に生きるということはどういうことかを教えてくれる。 この本は「男にとって“幸福な死”と“不幸な死”があるとすれば、山における死は明らかに前者に属するのではないかと思う」というまえがきからはじまる。ティム・オブライエンの小説『本当の戦争の話をしよう』の中で、「死とすれすれになったときほど、激しく生きているときはないのだ」という言葉があっ

    • これはただのスターウォーズ便乗本ではない 芳賀靖彦『ジェダイの哲学』

      この本、ただのスターウォーズ便乗本ではない。行き詰まったとき途方にくれたとき、人生とどう向き合っていけばいいのか、自分はこれまでの人生で何度も読み返してきた。 思想や哲学は師匠と弟子の対話形式で受け継がれていくことが多いけれど、この本でもジェダイが弟子(パダワン)に語りかける体裁となっている。 本書の魅力は落合陽一の推薦文「我々は受け身でありながら思い通りの自然を描くことができる」という一言に詰まっていると思う。 ジェダイは、未来はつねに揺れ動いていて、いま「この瞬間」

      • 甲斐かおり『ほどよい量をつくる』

        これまでずっと営業の仕事をしてきた。営業には漏れなくノルマがあり、表向きはノルマありませんと言っていても、必ず目標の数字というのがあってその達成を目的とする。 達成を目指す日々の中で、お客さんには必要ないのに買ってもらわないと数字がいかないというケースが多々ある。仕方ないと思いながらも、自分たちの都合しか考えなくなってしまう、そういう目的化した態度にずっと違和感を感じてきた。 この本に出てくる人たちは、地域や業界のひとつのエコシステムとして必要なものを必要な分だけ供給する

        • 惣田紗希『山風にのって歌がきこえる 大槻三好と松枝のこと』

          今から100年ほど前、関東のちいさな町で小学校教員をしていたふたりが、短歌を通じて交流をはじめる。やりとりを続ける中で、お互いの思いが行き交い、恋文のように短歌を交換する。そのやさしくもせつないふたりの短歌の交換が、やわらかいイラストとともにつづられる一冊。 惹かれ合う彼らは結婚し、ささやかな毎日の生活で子どもを授かる。あたらしい希望に満ち、ふたりはこれからの生活をイメージしていたが、妻の松枝が産後、心臓の病気で先に逝ってしまう。夫は息子とともに残された。息子と自分、妻との

        山際淳司『みんな山が大好きだった』

          渋いけどなかなかいい       『地図と読む 現代語訳 信長公記』

          渋いけどなかなかいい。側近の大田牛一が近くで実際に見たこと聞いたことを時系列に淡々と書き連ねている。現在進行形のノンフィクションを読んでいるようで、大河ドラマ『麒麟がくる』のお供にぴったりだった。 読んでいると、これまで知らなかった話もたくさんあることに驚く。信長が祭りで天女の格好をして踊ったり、村の衆に対して踊りの感想を話して打ち解けて「お茶を飲まれよ」と振る舞ったりしている。ときには山に住む不具な乞食に木綿二十反を与え、村人を呼んでその者の面倒を見るように伝えたりと寛容

          渋いけどなかなかいい       『地図と読む 現代語訳 信長公記』

          「考えるな感じろ」         ガルシア・マルケス『百年の孤独』

          10代の頃からいつか読もうと思っていた小説。ラテンアメリカ文学が世に出たきっかけとなった作品。ガルシア・マルケスはこの作品を主に1982年にノーベル文学賞を受賞している。 本書は、南米の架空の町を舞台としたある一族の百年にわたる物語。とにかくカオスに満ちている。双子、英雄、土を食べる女、物忘れの感染症、錬金術、金細工、大食い、亡霊、殺人と革命、運命、忘却と消滅。謎の人物や謎の出来事が次々と起こり、さまざまなものが多様に絡み合う。幽霊がふつうに出てくるので、出てくる人間もいっ

          「考えるな感じろ」         ガルシア・マルケス『百年の孤独』