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山際淳司『みんな山が大好きだった』

冒険家のノンフィクションは面白い。この本は、スポーツノンフィクションの先駆け、故・山際淳司さんが雪煙に消えていった男たちを振り返った一冊。鮮烈に生きるということはどういうことかを教えてくれる。

この本は「男にとって“幸福な死”と“不幸な死”があるとすれば、山における死は明らかに前者に属するのではないかと思う」というまえがきからはじまる。ティム・オブライエンの小説『本当の戦争の話をしよう』の中で、「死とすれすれになったときほど、激しく生きているときはないのだ」という言葉があったけれど、冒険家は戦争でもないのに、死を承知の上で氷壁に向かっていく。

そこにはロマンがある。この本に出てくる冒険家たちは、強くてハングリーでストイックで孤独でカッコいい。そしてみな寂しさを抱えている。

著者は、「死に対する意識がうすれているとき、ダンディズムはかげをひそめる」と書いている。続けて現代の社会は、「みな浮遊するようにふわふわと生きている。そこにダンディズムが成立するはずがない」と手厳しい。

たしかにいまほど激しく生きることが難しい時代はないのかもしれない。しかしだからこそ激しく生きた人の言葉に価値が生まれる。そこには情熱がありプライドがありロマンがある。

そして山際さんの冒険家に対する心の寄せ方はせつないほどにやさしい。タイトルに山際さんの気持ちすべてがあらわれていると思う。あとがきの奥様のお話もとてもやさしさに満ち溢れている。いまこの時代に山際さんがいないのが本当に残念。もっと時代をみていてほしかった。

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