わが子を里親ではなく施設に託した理由

この記事は、こちらの体験をベースとして書いた記事です。


 2020年、息子が4歳のとき、わが子の養育が困難となったわたしに提示された選択肢は、児童養護施設と里親の二つだった。児童相談所の人から具体的にどんな説明を受けたのかあまり覚えていないが、結果的にわたしは児童養護施設を選んだ。施設でも里親でも、わたしの症状が落ち着けばまた迎えに行けるだろうと分かっていたにもかかわらず、わたしは里親を選ばなかった。

 長らく、日本の社会的養護は施設養護が中心であった。しかし1998年から2019年にかけて、国連子どもの権利委員会から親子分離をなるべく回避することや、分離の際には家庭養護(里親・ファミリーホームなど、子どもが元の家族を離れ、代替養育者の家庭で生活すること)を重視することなどの勧告を受けた。国はそれを受けて、2016年に児童福祉法を改正。施設養護中心の現状を、家庭養護中心および施設養護の小規模化へと移行していくことになった。

 わたしが息子を施設に預けることを決めたのは2020年だったので、すでに施設養護中心から家庭養護中心へと政策の舵が切られた後だった。当時、そのような背景は知らなかったが、なぜわたしが里親(家庭養護)を利用するのに抵抗があったか詳らかにすることで、複雑な実親の思いを少しでも知ってもらえたらと思う。

 なぜ里親に抵抗があったのかといえば、端的に言うと、特定の人に保護者になってもらうのは嫌だったからだ。これは子どもの幸せを第一に考えているのかというとそうでもないわけであり、言ってみれば親のエゴである。いつ迎えに行けるようになるかも分からなかったし、そもそも迎えに行けるのかも預けたときは考えられなかった。それでも自分が息子のただ一人の親であるという事実を手放したくなかった。子どもへの愛情があったからだとも言えるかもしれない。

 結果的にわたしたちは10カ月後、再び共に暮らしはじめた。親子双方がそれを望んだ。それまでの間、施設で過ごすのが良かったのか、それとも里親に預けた方が良かったのか、それは分からない。

 「里親普及促進センターみやざき」に、電話で聞いたことがある。一般的に、4歳の子を社会的養護に託す場合、どのくらいの期間なら施設が良くて、どのくらいなら里親に預けた方が良いという基準はあるのか、と。それは児童相談所の管轄だという答えが返ってきて、おそらくケースバイケースなのだろうと察した。

 その後、ほかの自治体の児童相談所で働いていた方と話す機会に恵まれて、同じ質問をしたところ、4歳の子を一時的に里親に託すことは現実的でないという答えが返ってきた。理由としては、一時保護をお願いできる里親が不足していることがあるらしい。また施設のように、預けている間に息子と交流する手段はあったのかも聞いた。結論としては、里親委託期間中に子どもを実親と面会させることに理解のある里親は少ないらしい。単に赤ちゃんや子どもが欲しくて里親を検討する人や、あくまで事業(ビジネス)としてファミリーホームを営む人が少なくないとのことで、児童相談所からの働きかけも虚しく、子どもと実親の交流がむずかしい場合が少なくないと言う。

 一方で、同じくらいの年のお子さんを里親さんに預かってもらったことのある人もいる。その人は里親さんに心から感謝しており、またわが子との面会も定期的にできているらしく、幼い子を里親に託すことが現実的かどうかは、自治体やケース、かかわる人によるのだろう。

 里親は、子どもの養育のために存在しているのであり、少なくとも里親期間中は、民法上の親子関係にはなれない。とはいえ、里親をしている間に子どもに愛着が湧き、養育環境が不安定な実親よりも自分たちが養育する方がふさわしいと、実子にしようとした人もいるという例を聞いている。結果的に実親の親権が強く、それは叶わなかったらしいが、わたしはそれを聞いてとても複雑な気持ちに なった。わたしが子どもを預けるとき、それはいつも「一時的」に託す、という意味合いだった。ただ例外として、児童養護施設に預けた当初は、迎えに行くことができるのかということも 、行けるとしてそれがいつになるのかも、わからない状態ではあった。それでも「自分の症状が安定すれば迎えに行きたい」という思いは変わらずあった。その状態で、信頼して息子の養育を一時的にお任せしている里親さんが、息子を実子にしようとしたなら、と想像すると、「たまらない」と感じる。

 実親も里親も支援者もワンチームとなって、子どものために動けたならいいが、現状なかなかそれは困難であるらしい。だれが養育するのが子どもの幸せか、またそれをだれがどういう基準で決めるのか、とてもむずかしい問題だと感じた。

 国が方針転換を行ったとはいえ、少なくともわたしは施設を選択した。家庭養護を推進するならば、児童相談所の職員などの支援者は、保護者に対してより丁寧に、保護者の不安を取り除くような説明が求められるだろう。

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