小菅村で、食の循環を体感
すこし前の話になりますが、多摩川源流にある山梨県小菅村へフィールドワークに行ってきました。
「フードスコーレ」で、「Foodloss & Wasteの存在論」と題した、フードロスの在り方を考えるためのゼミがスタート。
「食べものを棄てる」という人の営みに対して「Why?」と向き合うゼミです。食の現場へのフィールドワーク、さまざまなプロフェッショナルとの対話を通して、フードロスの再定義に挑戦していきます。
歴史地理学者の湯澤規子さん、食と農の歴史学者の藤原辰史さんと行ったゼミについても、noteにまとめているのでよかったらご覧ください。
今回のフィールドワークは、ゼミの第1弾として行われたもので、スコーレメイトのみなさんと小菅村に行ってきました。人口660人ほどのちいさな村の食文化と、村内で行われている食の循環を体感することを目的とした1日限りのフィールドワークです。
当日は、「NPO法人多摩源流こすげ」が運営する「源流大学」の石坂真悟さん、青山大我さんによるガイドのもと、村中を探索させてもらいました。
本当の循環って? 都会でもできる? じぶんの暮らしに紐づけるには? たくさんの気づきがある1日になりました。
フードロスを再定義するヒントが小菅村に?
小菅村は、東京湾に注ぐ多摩川の源流部で、山梨県の東側にあります。東京都奥多摩町に隣接し、都心から車で2時間ちょっと。標高はだいたい東京スカイツリーと同じくらいの山あいの村です。小菅村のあちこちに湧き出している沢の水が集まり、多摩川の源流である小菅川を形つくっています。
村の約95%が森林に囲まれていて、豊かな自然環境の中で水が育まれています。森林の約3割が東京都の管理する水源かん養保安林となっていて、大切な水を守るための森づくりの活動も行われています。
徳島県の上勝町や、鹿児島県の大崎町のような事例からも、循環型社会を支えるために共生する地域コミュニティは不可欠だと思います。この「共生する地域コミュニティ」の原型は、源流域にたくさんあるんです。
都会で当たり前のことが、小菅村ではできないことも。村にはコンビニやスーパーはなく、ファストフードなどの飲食チェーンもありません。信号機は村に1基のみ。車もあまり通っておらず、街灯がないので夜になると真っ暗。
村内での買いものの仕方、食べたいものの手に入れ方は、都市部のそれとはだいぶちがいます。都市には「たくさん人がいる」という当たり前にも気付かされます。だから店が並ぶし、24時間明るい。こうした環境が都市部に住む人間に、「当たり前を疑え」と呼びかけているよう。
小菅村には、自然共生型の暮らしがある。そこに「フードロスを再定義する」ためのヒントがあるんじゃないだろうか。なんて思うわけです。
源流大学の校舎へ
さて当日。石坂さん曰く、この時期の小菅村の気温はだいたい1ケタらしい。この日もとても寒く、みんなモコモコ厚着をして大月駅に集合。
JR大月駅から小菅村までは、車で向かいます。石坂さんが運転する車の中で、小菅村のこと、源流域のことをいろいろとお話してくれました。
車で30分ほど山間を進むと、小菅村にある源流大学の校舎へ到着。こちらは、もともとは村の小学校。廃校となって、いまは源流大学の事務所となっています。
校舎の中にある元々職員室だった部屋で暖をとりながら、まずはきょう1日の流れをみんなで確認。
校舎の中を石坂さんに案内してもらうと、梅干し、味噌、大豆、蕎麦、干し柿など、村の食材をつかった食べものがたくさん仕込まれてました。
これらは村の食材を使って、村の人たちからつくり方を教わりながら仕込んでいるそう。伝統を廃れさせないためでもあるけれど、何より仕込みはたのしいし、出来上がった梅干しや味噌はとてもおいしいんだそう。
林業廃棄物処理施設へ
さぁ、出発。まずはじめに訪れたのは、村で運営する林業廃棄物処理施設。
小菅村では「生ゴミ」と「燃えるゴミ」を分別しています。木材を加工する際に生じる木屑「おがくず」を生ゴミに混ぜて堆肥にしています。
ゴミとは何か、資源とは何か。循環とは何か。たくさんの気づきがありました。
こんにゃく畑へ
階段をひたすら登って向かう。続いては。
山の勾配を利用してつくられたこんにゃく畑。陽当たりの良い山の斜面を切り拓いてつくられた畑。むかしは一産業として栄えたが、いまは担い手も減少。
平坦で陽当たりのよい場所がない特殊な地域。動物たちと共存しながら、作物を育てる。食べるため、生きるための知恵のひとつとしての畑。
森の中に入って、わさび田へ
つづいては。小菅村の源流としての特性に紐づくスポット。多摩源流の清らかな水で栽培しているわさび田に向かいました。
わさび田のまわりにある石垣。そして敷き詰められた石畳。これは、泥の水を引き込んで栽培する小菅村のわさびにとって、生育の肝なんだとか。石と石との間で、空気や水の調節をしています。先人から引き継いだ方法を倣って、今でも修繕しながら栽培していました。
源流で育てる、小菅養魚場へ
源流で育てる小菅養魚場。源流でじっくり育てられた魚たち。
その中でも今回はマスとニジマスを交配したブランド魚「富士の介」をいただくことに。
村の食材をつかって料理
きょうのフィールドワークを振り返りながら、小菅村の地産地消料理。みんなでつくって美味しくいただきました。
できあがったのは、富士の介の刺身、なめろう、ポキ、ハラス焼き、ほうとう、ふかし芋、ふろふき大根、からし菜の梅たたきおひたし、さしみこんにゃく、春菊のナムル、鹿肉のネギ炒め、ネギ味噌。
おいしい食事のあとに、きょう1日を振り返り。
小菅村の食の循環の体験をとおして様々な気づきがありました。
徳島県の上勝町や、鹿児島県の大崎町のような事例からも、循環型社会を支えるためには、共生する地域コミュニティは不可欠だと思います。この「共生する地域コミュニティ」の原型は、源流域にたくさんある気がしています。
今回協力いただいた「源流大学」の責任者で、東京農業大学教授で農学博士の宮林茂幸さんは、じぶんたちの活動目的についてウェブサイトにこのように書かれています。
宮林先生の言う、「暮らし・食の根源」が、今の時代は見えづらくなっているのは事実ですよね。でも小菅村には、自然共生型の暮らしがある。そこに「フードロスを再定義する」ためのヒントがあるような気がしています。
小菅村であれば、村に住むみんなの意識が例え揃っていなくとも、資源は循環できるのかもしれないなと感じました。これが都市部のような人口の多い地域で同じことができるのか、というとそう簡単な話ではない。
本当の循環って?都会でもできる? じぶんの暮らしに紐づけるには?たくさんの気づきのある1日になりました。
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